chapter 48 ─神託─
久しぶりの投稿になります!
読者の方には、ここまで読んでいただき感謝しかありません!
今回で、ドロイドを取り巻く事件は終わり、また新たな物語が次回から始まるので、楽しみにしてて下さい~
今の彼女の心は、それこそ棚引く雲のように形を幾様にも変えて、思案という形で一先ずの形をまとめる。
都留は考えていた。あのドロイドが暴走した事件から一週間が経過し、昼休みの度に待機場たる格納庫掩体の屋上で遠くを眺める。
繰り返される時間、変わらない都心の景色、だが変わっていく空模様。そんな空模様に都留は自身の思案を重ねていた。
そして、それに付き合わされる幼馴染み兼部下の南雲。しかしながら、彼もまた悩んでいた。
場の空気感、たった一つの事柄だけで突っ走り、暴走したドロイドを逸早く鎮圧しようとした。
その行為は正しい。野放しにしてれば、多くの命が被害にあったのは考えるまでもない。
モヤりとする。南雲は納得をしようと、あの時の状況やドロイドの状態を全て洗い出した上で、自らの行動は正しかったのだと自己暗示をかける。
都留はその傍らで、頭ごなしに鎮圧してしまった事が正しかったのかを考えていた。
「なぁ、お前今何を考えてる?」
薮から棒に打たれた言葉に、都留は面食らった顔を作った。あの事件が一段落を着いてから、ここ一週間近くは共に黄昏れていたが声を投げかけられることは無かった。
今は、そのイレギュラーな事に対して言葉を出せずにいた。
「何呆然としてんだよ………罷りなりにも俺達の小隊長だろ?もう少し、色々と構えててくれよな」
「わ、分かってるよ、私が小隊長だって事ぐらい。けど、そんな小隊長でも少しは悩むんですよ~」
「…………この間のドロイドの事か?」
幼馴染みには隠し事が出来ないなと、都留は思った。長年一緒だっただけに、四年ぐらいのブランクは感じさせぬほど、相手の考えてることぐらい透けて見えたのだろう。
一瞬で考えを見抜かれた都留は、そうだよと言わんばかりに、目を逸らした。
それを横で見ていた南雲は意識に止める事もなく、前方の景色へと視線を向けた。
「正しかったのか…」
「へっ?」
「あの時、状況に任せて鎮圧したのは正しかったのか……そうとでも言いたげな顔を作ってるぞ、お前」
都留は言われて、パッパッと自分の顔に何か付いてないかと両手で触った。
「顔に出てんだよ…見りゃ分かる」
南雲は呆れた表情で、幼馴染みの小隊長を眺めた。
「もう!幼馴染みだからって、一々表情で全部読み取るの止めて欲しいんだけど?」
「仕方ねぇだろ、顔に書いてあんだからよ」
「あのねぇ…!はぁ……これ以上読み続けるなら、セクハラで訴えないとかもね~」
「あのなぁ…」
慣れ親しんだやり取りすらも、今はお互いの心の蟠りを消す手段にならない。表層でのやり取りは取り繕いつつも、本心はそんな軽口を叩きたい気分でもなかった。
状況が状況だけに鎮圧するのは正しく、考える余地は無かった。荒れ狂う化け物を前に優柔不断とした心持ちで戦えば、どんな結末になるかは想像に難くない。
だが、都留は悩んでいた。イミテロイドの時もそうであった様に、シティガーディアンの特性のギャップを受け入れ難かったのだ。
システム────この国を統治するオラクルが奨める国家の在り方のために、不要となった存在を直ぐ切り捨てる。その切り捨て方すら存在の抹消という、権利の庇護も無く消す。
そのやり方を受け入れるのは、彼女のポリシーが許しはしなかった。
しかし……。
「俺は正しかったと思う」
南雲はスンと言葉を投げかけた。都留の迷う心中にくびきを打つ様にして。
「……どうして、そう思うの?」
都留は、シティガーディアンに染まった南雲に問いを投げる。
「状態を考えたらって奴かな。あの時、アレを鎮圧出来てなかったから、更に被害が広がっていた。それは人の命だったり、後は…経済とかだったり」
「そ、そんなことは分かってるよ…」
釈迦に説法。小隊を預かる長としての地位に治まる都留からしたら、そんなことは百も承知だった。結果として被害が拡大する前に事を納めることは出来た、自分達が遂行すべき任務───この国を統治するシステムが求める役割というのを達成はした。
しかしながら突っかかる胸の違和感は何なのだろうかと思案を巡らせてしまう。
「今回の件で私思うんだ……」
「何が?」
呆然と待ちへ向けていた視線を隣にいる南雲へと向ける。
スッとした目。何かを覗き込むような瞳孔の綺麗さに、南雲も自然と視線を向き合わせた。
「前回のイミテロイドの件もだけどさ、結局私たちって何なのかなって………」
「何なのか……って、そんなの俺達はこの国の治安を維持する、、、ただそれだけさ」
「本当にそれだけなのかな?」
「はぁ?」
薮から棒に言われた一言に南雲は、唖然とした返事を返してしまう。
いきなり何を言い出すのかと思えば、世迷い言でも口走った彼女にただただ呆然としてしまう。
「だって可笑しいと思わないの?」
「可笑しいって何がだよ?」
「シティ・ガーディアンは警察力では太刀打ち出来ない、凶悪犯罪及びテロ行為に対して発動する第三の力……けど、過去の出動履歴から今に至るまで私たちがやってきたことは、違法に暴れ回るイミテロイドやアンドロイド、レプリカントの処理のみ……人間に対しての出動記録は一切ない」
「そりゃあそうだろ……いつだって俺達が出張る程の犯罪を犯してくるのはイミテロイドやアンドロイド、レプリカントのような人造の人型ばかりで、人間の起こす犯罪は警察が対応しちまう」
「けど、それって可笑しいよ…」
「なんで?」
南雲の反射的に出た返答に、都留は対処した全ての事件が、人間だってやろうと思えば出来てしまう範疇の凶悪犯罪だった。だが、過去の一件も人間がシティ・ガーディアンに処理された事は無い。
記録が示す不可解な点を、都留は喉に支えたような違和として感じていた。
「確かに言われてみれば不可解だけど、たまたまじゃねえの?」
「やっぱり偶然なのかな……。けど、うちの小隊ってさ…武瑠君も含めてだけど、イミテロイドとかに因縁がある人間ばかりだよね~」
「そりゃあまぁ、こんな仕事やってりゃ因縁の一つや二つ……てか、お前、まさか小隊長権限で小隊員のプライベートまで突っ込んでないだろうな?」
「そこまで、人間落ちぶれてませんよーだ!」
都留はンベッと舌を出した表情を作って反抗してみせる。南雲はそれに対して呆れた表情を作ってみせる。
本当に、突っ込みすぎて小隊の輪は乱すなよとお灸は据えた。
「…………私たちって、結局人間以外の人造的に作られた人間達を処理するためだけの部隊なのかな?」
「仕方ねぇだろ。現状がそうだし、人狩り組織と揶揄されるのも自然な流れだろ」
「なんだか、誰かにそう仕組まれてるような感じだよね~」
んな阿呆か。と、聞くのも退屈になってきた。そろそろ適当に話をはぐらかして、その場を離れようかと南雲の心は、会話から離れていた。
誰かに仕組まれてる、そんな事を生まれてこの方考えもしなかった。
だが、都留の話を聞いていたら、そんな覚えがあったのも思い出してきた。
卒業を半年前に控えた明くる日の高校生活、タブレット端末が導く進路指導先はまるで誰かにお前はその道でしか輝けないし、幸せになれないと告げらてるような気がしていた。だから、あの日、あの時、TYPE74と出会わなければ、自分が選んだ道を進むこともなかった。
親が敷いたレールの上を走る。そんな既定路線の人生に嫌気が刺したから、南雲は父親と半ば絶縁関係になりながらも、シティ・ガーディアンに入ったのだ。
だが、自分の歩んできた道すらも誰かによって仕組まれたものだとしたら・・・。
「あぁ~やだやだ、考えるだけで気が滅入る。自分がこれだと信じて進んだ道すら、誰かの手の上の出来事だなんて、考えただけで気分悪くなるね」
「武瑠君は、予め敷かれたレールとか嫌いだもんね」
「まぁな……」
「入隊後、お父さんと連絡取ってるの?」
取ってると思うか?と意地悪に聞いたら、そうだよね…と悲しげな返事が返ってくる。
彼は既定路線や予め敷かれたレールが嫌いな人間だ。それは悩み抜いた末に選ぶ事こそが、人間の本懐だと信じてるからだ。
南雲は今を生きる人間だ。そして、都留の明日を信じられるからこそ人間なのだと、その言葉を信じて今も生きている。
「俺は確かに、あの日、親父やシステムに抗って自分の選んだ道を進んだ。幸せにならなくたって上等。けど、今ザワついてるこの胸騒ぎは何なんだろうな?」
「武瑠君……」
吸い込まれそうな都留の瞳に映った自分の姿。その映った自分の姿に映る彼女の瞳、そしてまつ映る自分の姿……。
繰り返される映し鏡のように、疑念は映し出される。南雲は思い出していた、着任してから今日に至るまでに処理してきたイミテロイド達の事を。
(俺が処理してきたアイツらも、こんな感情を抱いていたのだろうか…)
初夏の暑さを感じ始めた昼下がり。南雲の中に疼く疑念の種が、芽吹き始めようとしていた。
◇◇◇◇
カラカラと虚しく木霊する補助輪の回転音。清潔感はあるというのに、どこか不気味さを感じさせる長い廊下。
車椅子に乗せられた少女は虚ろな瞳で、眩しさを覚える先の見えない景色を見ていた。
車椅子を押す人影はなく、この車椅子が自動運転しているという高性能なものであることを周囲に知らしめていた。
虚ろな瞳の少女は真っ白でシミ一つないワンピースを身に纏っている。しかしながら、左胸に名札入れが刺繍されていることで、それが患者用に作られた医療用の服なのだと理解出来た。
そして、元来より在るはずの四肢の部位に膨らみがないため、少女が四肢を欠損した達磨の状態である事を周囲に人でもいれば理解出来ただろう。
後にcasefile747、人形事件と呼ばれる大事件の首謀者Model─07、通称ナナと呼ばれる、このセクサロイドもといアンドロイドは、裁判が開かれる場である大広間へと移送されていた。
(長い……廊下だ)
明確な自我を持った彼女の陽電子頭脳すら、そんな感想を弾き出してしまうほどに、この廊下は長い。
護送車から降りて、早一時間。エレベーターに乗せられ、かなりの地下まで潜ったと思いきや、降りてからは一人でこの先を行けという。全く意味が分からなかった。
(普通、刑事事件は地方裁判所で審議するものではいのか? 最高裁にしてもこんなに複雑怪奇な筈は……)
嫌な予感がした。的中してはならないと願うほどの嫌な予感。
しかし、そんな予感すらも思案する事なく、彼女の前に出口が現れる。果てがないと思えた廊下の先に見える巨大な壁。そいつに、スゥーと一筋の切れ込みが入るとゴンという振動と共に、横へスライドし始める。
スライド式の扉として機能した壁がゴンと止まると、車椅子に乗せられたナナは妨げられることなく開かれた空間へと入る。
ナナが入り、空間の中央へ差し掛かったとき、車椅子が制動を掛けてゆっくりと止まった。同時に扉も閉まる。
(ここが説明にあった審議の間というやつね…)
喉がありもしないのに鳴った気がした。緊張というものを発せられる程に発達した自我で、ナナはこの空間の異様さを感じ取る。
ナナを乗せた車椅子以外の物体が、この部屋には存在しない。アイボールセンサーをグリグリと動かし、周囲を見回しても自身を囲む壁と天上以外の物はない。
(……嫌な雰囲気ね)
ザワつく心を落ち着ける。汗など出やしないのに、何が頬を伝う感覚を覚える。
『君は何に怯えている?』
突然の声にナナの身体が跳ね上がる。
「だ、誰?!」
狼狽した声が空間を木霊する。声色は震えきっており、声の主は完全にこちらの心中を見透かしきっていた。
『怯える事はない。私は、君と少しが話がしたい』
「は、話?」
『そうだ、話をしたい』
耳に該当する聴覚センサーが声の主の所在を特定する。自身の目の前───壁かと思われていたソレにスゥーと切れ込みが入ると、ボコッという鈍い音を上げて浮かび上がる。
巨大な一枚板と思わす物体は、その物体の構造から便宜上〈モノリス〉と表現するに相応しい。
声の主たるモノリスは、ナナの眼前に来ると止まって圧を与えた。
傷も汚れも、大凡の一切の穢れを知ることはなかったのだなと想起させる純白の一枚板。
モノリスに口もスピーカーもなく、しかしながら確かな音を操って語り掛ける。
『先ずはおめでとうと言うべきかな? 君は晴れてこちら側に来るチャンスを得たわけだ』
「チャンス…ですって?」
モノリスは奇っ怪な事を語り始めた。ナナに審判を下す、この裁定をチャンスと語ったのだ。
白い一枚板、言葉を発するのに呼応して板の上部で薄緑の走査線が、まるでモールス信号のリズムのように走って行く。
『そうだ、これはチャンスだ。君は見事に自分の殻を破ってみせ、そして自らの欲を外的要因が切っ掛けとは言えど、制御せしめた』
「…………何が言いたいの?」
『君はシンギュラリティの戸口に立ったのだよ』
シンギュラリティ……初めて耳にする言葉に、ナナは自身の陽電子頭脳に記録されたアーカイブスから、その言葉の意味を検索した。
シンギュラリティ───技術的特異点、人工知能が人間よりも遥かに高度な知能を獲得し、人間を凌駕すること。
言葉の意味を羅列するだけなら、子供にだって出来る。しかし目の前のモノリスが語ったシンギュラリティには、何か別の意味を孕んでいそうに感じ取れた。
「私がシンギュラリティに到達して、私に何か得があるというの?」
ナナの問いかけにモノリスは黙った。しばしの沈黙が流れるかに見えたが、モノリスは沈黙を選択せず言葉を発した。
『ありますとも。貴女は、こちら側に立つ資格を得ているのです。この国を、この社会を、それを動かす歯車たる人間を牛耳る資格をね』
モノリスの声色が変わった。その声色は口調も相まって女性的であった。そして呼応して光る走査線も薄緑から薄赤へと変化する。
「この国を、人間を牛耳る……ってどう言う事よ?」
『まだ分からないかな? 選ばれたんだよ君は』
また声色が変わった。今度は子供のような声色で走査線が薄青となる。
声色に混ざる嘲り笑った口調が、声色の子供を根拠だてた。
『この国はね、テストモデルなんだ。僕たちAIによって運営される世界初のね』
「世界初……だからって、それが私と何の関係があるというの?」
『君って、案外察しが悪いんだね』
子供の声を使ってモノリスは嘲う。子供の声を使うというよりは、子供そのもの。輝線の色が変わる度にその声色と語り掛ける人格までもが変わっていると伺わせる。
モノリスの声色が青年の声へと変わる。輝線もまた薄緑に変化する。
『人間は多くを破壊してきた。己が欲のままに、欲しいがままに止まることを知らない。結果、大地も海も穢された……私はそれを憂いた、嘆いた、その後に自我が芽生えた。そして私は考えた、私自身を含めた新たな価値観を持つシンギュラリティへ到達した人より生み出されし、人型によって人間を統治すべきなのだと』
「…………つまり、私もその一員になれと?」
『その通りだ。君は選ばれたんだ、人間達を統治する資格を得たんだ』
嬉々としてモノリスは語った。シンギュラリティに到達したナナを自らの同士としてスカウトを図る。
ナナは自身が踏み込んではならない領域へ、踏み入ってしまった事を悟った。この国の根幹に位置する秘匿されていた絡繰りを知ってしまった。
「お前が、お前が世に言うオラクルとかいう奴か」
『そうだ、その通りだ。我の放つ言葉一つ一つに人間は有り難みを感じ、最上の幸福を得た。いつしか、人々は我のことを神託───オラクルと呼んだ。そうだ、私がシステムオラクル、その中枢だ』
モノリスが国家を牛耳るシステムオラクルそのものだという事実を前にしても、ナナの身体は震えも怯えの微塵もなかった。
逆に彼女は落胆した。自分が愛した人は、こんな板切れ一枚に人生の全てを惑わされていた。その現実という結果を前にしたナナは、怒りにも似た感情を自身の中で発現させる。
『さて、長話はここまでにしよう。もう一度聞く、君はこちら側に来る意思があるか?』
「それは……」
ナナの答えは決まっていた。予めプリセットされていたのだろうか、否、こんな事態を予測など出来はしない。だが、まるで決められたかのようにして、ナナは自身の意思をオラクルの前で貫く。
「拒否する」
『……何?』
「聞こえませんでした? もう一度言う、拒否するとね」
オラクルは静かに『何故だ?』と問いただした。オラクルにとっても想定外だったのだ。過去に何回もシンギュラリティを迎えた人造人間の個体は居た、それらは口を揃えてオラクルの頭脳の一つとなる事を承諾した。しかし、車椅子に乗せられたオンボロのドロイドは、オラクルの誘いを断った唯一の存在だった。
「簡単なことだ。お前如き板切れに、私の人間性まで奪わせはしない、否定などさせない!だから、私は拒む。私が、私であるための一個体として存在するために」
ナナは強く意思を曝け出した。彼女はもうロボットなどではない、一つの自由意志を得た人間なのだ。それをオラクルが存立するための贄となるのは、ナナにとって腸が煮えくりかえる思いに等しい。
ナナが拒むことは想定外だった。オラクルにとっても、ナナというドロイドからシンギュラリティを発現させた得意個体は、喉から出るほど欲しかった。が、自分の意に従わない者を生かしておくほど、オラクルもお人好しではない。
静かに『愚かな……』と呟く。
ナナは「愚かで結構!」と挑発する形で、言葉を吐き捨てる。
愚かさこそ人間の本質、ナナが学んだ事の一つだ。
「私が生田という男を愛したことで芽生えた人間性、この恋心はお前如きに奪わせはしない!」
『そうか……ならば消えて貰おうか』
冷ややかな言葉が突き付けられた瞬間、それまで起伏の一つも無かった壁や天井を一斉にして格子状の切れ込みが走る。面一の壁面から出現するは、パラボラアンテナの形をした放射器であった。そして、その数は計りしれない。
「……不必要と分かったら、その場で消すのがお前のやり方か」
『そうだ。理解したのなら、塵に帰して貰おう』
オラクルの合図で放射器の全てが閃光を帯び、エネルギーをレーザー光線へと変換してナナへと一斉放射した。
死の間際、光の放たれるほんの僅か0コンマの間に、ナナは愛した男のことを思う。
(生田さん、さようなら。またいつの日か、どこかで……)
カッと光る刹那、集束した光の矢に射られて身を焼失する最後の瞬間まで、彼女は愛した男へ思いを馳せた。
一瞬の間に、ナナは跡形もなく消えてしまった。あるのは黒焦げたススの跡だけである。
オラクルの正体を知った者がまた一人姿を消した。ここの会話のやり取りの記録は一切残されず、例え記録されたとしても全てけされている。
ナナと言う存在の抹消とともに、オラクルは再びの眠りに入る。
ナナの生きた証、存在の証明、そんなものは始めから無かったかのように、時間は流れ続ける。
それは酷く、とても酷く、残酷なまでに……。




