色々考えて婚約者を選んだので
自分の将来って、自分に責任があるから難しいですよね。
「イヴ様!」
「メリー。」
自室に戻ってくると、侍女のメリーが私の元にやってきた。
彼女は、母が王太子妃になることが認められた日に、私付きになった新人侍女だ。
赤毛のおさげをぴょこぴょこさせた、小柄な少女。年は、今年で13だと言っていた。
「王様王妃様方は、どんな御用でしたか?」
「メリー、その質問、あたしだからいいけど、他の人にはしちゃだめだよ?」
「?」
私の言葉に意味が分からないとでも言いたげな顔なので、私は苦笑しながら部屋のソファーに座った。
「主人の許しもなく、主人の事を聞くのはダメなの。一流の侍女になるんなら、覚えておいてね。」
「はい。」
メリーは素直に頷いて、笑顔になった。
「で、さっきの話しなんだけど。」
「結局話すんじゃないですか!」
「まぁね。ちょっと手伝って欲しいのよ。」
「手伝いですか?」
「この3人の調査。」
メリーに、私が持ってきた書類を渡すと、受け取ったメリーは書類を読んで目を輝かせた。
「カッコいい方たちですね!イヴ様~、結構面食いなんですね~ふふふ~。」
ニマニマしながら、私の顔を見るので、ため息をついて頬杖をついた。
「あたしがそんな人たちとお近づきになれるとでも思うわけ?」
「えーーー!!でも、王太子妃の娘さんですもん!これからカッコいい男性、沢山寄ってきますよ、きっと☆」
ばちんとウインクをされて、その裏表がない態度に、自然に口角が上がった。
…王太子妃の娘…か……。
話を戻すことにした。
「この人たちの事、もうちょっと詳しく調べてみてくれる?このプロフィールじゃ、人となりが全く分かんないの。些細なことも確実に調べてきて。好きな場所とか、癖とか。あぁ、交友関係もね。」
「分かりました。いつまでに調べ終えればいいですか?」
「早ければ早いほど。」
「分かりました。少し人員を使い調べます。」
「お願いね。」
メリーに頼むと、彼女は笑って頷きました。
そして、書類を私に返すと、お茶の用意をし始めた。
何故、調べる相手の書類をすぐ返したのかって?彼女の得意技は、瞬間トレースだからだ。
私と生活を共にし、信頼関係が出来てくると、彼女はこの能力を私に打ち明けてくれた。
私はメリーが入れてくれた紅茶を飲みながら、考える。
前世の私は、15歳の時、将来の事を考えたことはあったかな…。
たしか、漠然と教師っていいなって考えてたぐらい。
子どもが好きだし、成績も悪くはなかったし。
大学を選んで、進学して。
就職して、趣味が充実してきて。
友達がいて、お金も困らないぐらいはあって。
現世の私はどうしよう。
なにがしたいんだろう。
花屋をやってたけど、やりたいことかって言われたら違う。
幼い頃から図書館での勉強も、好きなことかと言われたらそれも違う。
全部、自分のことなのに、自分の為に生きていない。
だからと言って、したいこと、やりたいことは?って聞かれても、答えはない。夢も思いつかない。
前世はあんなにやりたいことが浮かんだのに。
宙ぶらりんの今の自分に軽く嫌気がさしたが、すぐに気持ちを切り替えた。
今のあたしは、世界が狭すぎる!
色々知ろう!この世界の事を!
いいチャンスだわ。
まずは、婚約してくれる相手を調べて、それからその人と交渉する。
話しがまとまったら、いい時期を見計らって、旅に出る。
未来の漠然とした展望を想いながら、メリーに返してもらった書類を眺める。
この人達は、どんな人なんだろう。
私の計画に合う人がいればいいのだけど。
それから、メリーの報告が届き、私は“彼”に決めた。
明日は、その彼と初めて会う日。
さぁ、次話でヒーローを決定しましょう!