母が輿入れするもので
住みなれた♪我が家を♪花の香りをそおえて~♪
っとどこかのCMソングが少し頭を掠りましたが…笑
今まで住んでいた場所を離れるって、感傷的になりますよね。
「さてと、こんなもんかな!」
私は、真っ黒になった雑巾を片手に、花屋の店内を見渡した。
毎日、その日仕入れた花を入れたバケツたちも、今は重ねられて店の隅に置いてある。
ハサミやラッピングのテープ、包装紙等が綺麗に並んでいた棚も、今はもぬけの空。
床もモップで綺麗にしたし、窓も今拭いてピカピカになった。
花屋だった店内は、がらんと殺風景になっていた。
そう。私達母娘は、今日からお城にお引越しするのだ。
“お輿入れ”ってやつだ。
『すったもんだあったけど…。どうにかなるもんなのねー。』
私は、2週間前の事を思い出し、頭を力なく振った。
~2週間前~
王太子様の求婚の後、私達はお城に行くと、王様とお妃様はそれはそれは困惑していた。
まさか息子が、庶民。しかも15も年の離れた母を本当に連れてくるとは思わなかったらしい。
しかし、息子に「頑張れ」なんて言っちゃった手前、今更反対することも出来ず、お2人は泣く泣く、母たちの結婚を了解したのだった。
貴族の中には、この婚姻に異議を唱える者が多かったとか。まぁ当然ですわな。
でも、ここまで立派な王太子に成長したのは、母テリーゼのお陰と言う王太子の言葉に、他貴族も口を開かなくなった。
王太子フレデリクは、母と私に出会う前、国内外で知らぬものはいない、不良だったのだ。
庶民の私も、一応商売なんてしていたから人の噂は聞こえてくる。うちの国は、王太子様が即位したらアウトだって。
だから日々お金を蓄えて、よその国へ移るのもアリかな~と考えていたぐらいだ。
そんな噂話も、数ある噂話の一つとしてしか認識していなかった時のことだ。
彼は現れた。
まさか、そのアウト(不良)が、目の前の彼(王太子:フレデリク様)だとは。誰か教えておいて欲しい。
王族の写真なんてこの世界にはないし。図書館の本にも、幼い頃の王族の絵しか描かれていないんだもん。
絵で、同一人物だって鑑定できたら、あたしは花屋を辞めて鑑定士になっていたね絶対。
と、まぁ冗談はおいておいて。
王太子とは知らずに、母と私、アメとムチで、恐れ多くも王太子様を教育したのだ。
最初は尖っていたフレデリクだったが、少しずつ少しずつ彼は変わりはじめた。
季節が2つすぎた頃、街で腫れもののような扱いを受けていた彼が、人々に受け入れられていき、好青年と変化した。
その時には、彼は母に恋をしていた。
ようは、母に惚れたから、好かれる自分に変わったってだけのような気がする。
母もまんざらじゃないみたいで、2人の距離は徐々に縮まっていき、今回の再婚となったのだ。
結果的に、彼の過去の悪行があったから、母との出会いになったわけで、運命の赤い糸というのは何ともやっかいな代物のようだ。
と、そこまで人の(実の母の)恋路を思い返していると、店だった入り口に思い返していたフレデリクが、立っていた。
「片付けは終わった?片付けは、城から人員を送るっていったのに、断って…。大変だっただろ?」
これだから権力者は。私は、汚くなった雑巾を床に置いてある掃除用バケツの淵に置くと、両手を腰に当て、胸を張った。
「いいえ。ここは私達のお店だったのよ。お世話になった場所を、見ず知らずの人にお願いするわけにいかないわ。最後まで、自分たちの手で“さようなら”をするのが、一番よ。」
「…君は、本当に15歳か?」
私の言い分に、フレディが呆れた顔をするので、私はくるっと身体の向きを変え掃除用バケツを持った。
そして、彼に振り返り笑う。
「貴方は本当に20歳ですか?お父さん。」
そう言い残し、私は部屋の奥にある勝手口へ移動し、バケツの中の水を捨てた。
空っぽの店に残されたフレディは、「お、お、お…お父さん!!!」とか、喜びの歓声が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。
「あら、フレデリク。いらっしゃい。」
そんな声が聞こえたところで、母が2階の部屋から降りてきてフレディと会っていた。
私は、勝手口の扉を閉めたが店には戻らず、入り口のところからそっと見守ることにした。
「テリーゼ!今!今、イヴに、“お父さん”って言われたよ!!」
と、どさくさに紛れて、母に抱き着くフレディ。
あたしの「お父さん」攻撃ってそんなに嬉しいか?
いや、この抱擁はあたしの件を出汁に使って、お母さんを抱きしめているだけな気がする。
「ふふ、良かったわね、あなた。」
「俺…いや、僕は嬉しい。」
両親になる2人を見て、少し切なくなった。
今まで、母と2人。抱きしめるのも抱きしめられるのも、母だけだったのに。
母の腕には、これから父になるフレディがいる。
前世での親子間は、結構ドライだったのに。生まれ変わると、感情も少し異なるらしい。
まぁ、同じ人間じゃないわけだし、そうだよね。
私は、2人を見るのが、寂しくなり、背を向けて勝手口から外に出た。
見上げる青空は、どこまでも青く。
私達母娘の門出を祝福しているように見えた。
後一話は、今日中に書いてしまいたい!!
頑張れ、私!!