最終章『Zero・dark・hour』第十二話
「あれれ~? おかしいなぁ~?」
西尾一は、首を傾げながら動画を見ていた。
動画の内容は、ゼロによる石杖裁也への宣戦布告。
如月結維を拐かし、全てに決着をつけるための場所指定。
そしてかつての大惨事――ロスト・クリスマス事件の再来を声高らかに宣言していた。
一は、その動画を見て、高揚している自分を自覚した。
骨肉相食む姿。
愛する者同士の争い。
過去に友情を誓った二人の戦い。
そして、それらに巻き込まれる有象無象の人々……。
一は、胸の高鳴りを抑えられない。
想像しただけで興奮する。
これから起きる、血で血を洗う戦いに。
悲鳴と怒号が渦巻く、絶望の争いに。
一は、高鳴る心臓の鼓動を抑えられなかった。
だが……
「だけどなぁ……何だろ、この最後の映像……? こんな記録、撮った覚えないんだけどな……。いつの間に、こんなノイズが入り混じったんだろう?」
腕を組み、記憶を反芻する。
う~ん、と唸りながら追憶しても、どうしてもその記憶に辿り着かない。
ゼロの宣戦布告映像は、一が撮影したのだ。
最初から最後まで、ずっとカメラを回して側を離れなかったのに、何故か見覚えのない映像が、そこには差し込まれている。
リモコンをいじり、何度も映像を繰り返し観ているが、その事実は変わらなかった。
「おかしいよなぁ……。謎だ。謎だらけの僕の存在と同等ぐらいに、このノイズは謎だよ。うーん、困ったなぁ……これじゃあ…………?」
不意に、一はゾクッと背筋が粟立った。
久方に味わうこの感覚を、一は知っている。
かつて石杖裁也を救った時に、最愛の手駒を得た時の喜び。
そして、最愛の手駒が、叛逆の徒として自分を抹消する存在となる恐怖。
愛と憎しみの象徴が、凄まじい殺意を伴ってもうじきここへとやって来る。
「……待ってたよ、裁也……!!」
歓喜と恐怖の、相反する感情を混じえ、西尾一は石杖裁也を待ち構えた。
さあ、こい。
俺はいつだって、お前を愛していた。
お前の両親を事故に見せかけて殺したと知った時の、お前の憎しみを溺愛していた。
お前が虎視眈々と、俺を殺す機会を窺ってたのも知っていた。
俺はお前を愛し、お前は俺を憎む。
この歪な関係を、俺は愛していたぞ。
「さあッッ、来い、石杖裁也ッッ……!!」
フロアを照らす光が消滅した。
ビル全体が揺れ、窓ガラスが全て粉々に砕け散った。
そこに飛び込んでくる、阿修羅の影。
静かなる殺意と、激烈な視線。
金と銀の輝きを瞳に孕み、感情を押し殺した無表情は、『必ずお前を殺す』とメッセージを放っていた。
一が与えた分子刀は、刀身を現し、その脅威を鮮明に伝えている。
自らが育て上げた、最高にして最凶のキリングマシーン――石杖裁也。
彼が、声なき咆哮を上げ、西尾一――絶対的な王に襲いかかった。
人間と、悪魔の戦いが幕を開けた。
ポメラが欲しい日々です。




