最終章『Zero・dark・hour』第六話
如月花蓮が生きてるだって?
耳を疑うと同時に、皇帝人は不思議と得心がいった。
なるほど。
それならこれまでの不可解な行動に納得がいくというもの。
生前の兄である零らしからぬ行動や言動。
どれもこれも、帝人の記憶にある彼の記憶とは一致しない。
だが、皇研究所での如月花蓮は紛れも無く零の人格が宿っていた。
それは一体どういう事だろう?
帝人は痛む腕を引きずりながら、立ち上がる。
「あら? ダメじゃない帝人。貴方、大怪我してるんだから、その場でじっとしてないと」
「……アンタ、本当に結維姐の姉貴なのか?」
訊ねると、花蓮は不愉快そうに眉を寄せる。
「だからさっきからそう言ってるじゃない。私は如月花蓮だって」
「……あん時のアンタは、紛れも無く零の兄貴だった。アンタの存在は微塵も感じられなかったんスよ。……月夜のヤツの実験体とかじゃないんスか? 例えば、そう――完全なる擬似人格の植え付けや、全くの別人を整形手術して、催眠術で如月花蓮だと思い込まされてるとか」
あの姉貴なら、平然とそれ位やってのける。
皇に関しては疑心暗鬼の塊になる帝人だったが、答えは別の方向からやってきた。
「そーーんなわけないじゃないっっ!! コォラ帝人!! アンタ、私をどんな外道だと思っているのかしらっ!!」
叫び声に視線を向けると、最低最悪の姉が腕組みをしながら駐輪場の屋根に立っていた。
バカと権力者は高い所が好きだと言うが、あの姉貴も例外ではないようだ、と帝人は胸中でため息をつく。
「やあやあやあ。これは我が姉上じゃありませんか? そんな高い所から、どうしたんですか?」
「裁也のアホが速すぎて、登場するタイミングを見失ってたのよ! そして私は高い所が好き!!」
とうっ、と掛け声を上げ、月夜は屋根から飛び降りる。
無事に着地し、ドヤ顔を決める月夜に帝人は舌打ちをした。
「あんらぁ、帝人。あからさまに残念そうな面持ちをしてどうしたのかしらぁ?」
「やっ、別に。何でも無いっス」
ウフッと笑い、帝人に腹パンを食らわす月夜。
ゲホッと地面にうずくまる帝人の頭を踏みつけ、月夜は花蓮を指差した。
「如月花蓮ッ! この私が来たからには、もうアンタの好きにはさせないんだからっ! 覚悟しなさいよねっ!」
宣戦布告する月夜を、花蓮は鼻で笑う。
「威勢のいい事ね、月夜。私にさんざ負けたのを、覚えてないのかしら? 学習しない人間は、畜生にも劣るわよ」
「ッッ!! うう、うるさいわね!! 私は負けてないっ! 勝った事がないだけなんだから!」
それ、同じ意味じゃね?
図星を突かれた月夜が慌てふためくさまを、帝人は面白がった。
がん、と頭を踏みつけられ、地面に帝人は額をぶつける。
「黙ってなさい! この愚弟がっ!!」
「……へいへい。黙ってま――――ッ」
グリグリと踏みにじられ、帝人は強制的に黙らされた。
「おやおや、姉弟ゲンカとはみっともないんじゃないかしら? 帝人が可哀想じゃない」
「うるわいさねっ! いいのよ、このバカは意外と頑丈なんだから、これ位平気よ!」
そんなわけないだろ!
胸中で叫びながら、帝人は言う。
「月夜姉さん! アイツはなんなの!? アンタの実験の産物なんじゃないんスか!?」
「『アンタ』とはいい呼び方してくれるじゃない……! 帝人ォッ……!!」
月夜の踏みにじる力に抵抗し、帝人は叫ぶ。
「んな些細な事よりっ! 早く、どうにかして下さいよ! 何なんスか、あれは!!」
「ハン。そんなんだからアンタは皇の序列が低いのよ。少しは、頭を働かせなさい。想像力が欠如してると、些細な可能性を見落とすわよ」
帝人から足をどけ、月夜はブツブツと独自の分析を開始する。
分析だけは得意なんだよな、と帝人が思っていると、どうやら彼女の解答が導き出されたようだ。
「……ばらしいわ」
「……?」
「素晴らしいわ!!」
超ハイテンションになって、月夜は小躍りしながら歓喜し始めた。
「いやいやいや! これは本当かしら? 夢じゃないわよね? まさか……こんな事ってあり得るのかしら? でも、そうじゃないと考えられないし……。う~~ん、エクセレントッッ!! 我ながら、素晴らしい結果だわあ!!」
一人興奮する姉をよそに、帝人の思考は急速に冷えていく。
やっぱりこのクズが何かしてやがったんじゃないか、と。
「月夜姉さん、一体、どういう事ッスか……?」
「あら、帝人!! どうしたの、テンション低いじゃない!! これは歴史的発見、人類が未だ成し遂げられない事を、この超美貌を兼ね備え尚且つ天才的な頭脳を併せ持つ月夜様じゃないと成し遂げられない事なんだから!!」
「……や、だから、全然わけ分かんないんスよ……。アンタが、また何かやらかしたんですかい?」
「そうなのよ!!」
そうなのよじゃねえよ、このボケ!
「いい、帝人。驚きなさい……いいえ、ひっくり返りなさい、あまりの偉業に!! この、私の超絶なる研究に、感涙しなさい!!」
「……分かったから、勿体ぶらないで早く言って下さい……」
ゲンナリする帝人に、月夜はゴホン、と咳払いをした。
そして帝人の眼を見て、笑った。
「あれは皇花蓮。つまり、一つの体に、二つの魂が宿ってるって事よ!」
……意味不明の言葉を聞き、帝人は理解不能に陥り、痛む頭を抑えたのだった。
サモンナイトU:X〈ユークロス〉という小説が面白すぎて困っている。
色々と思い入れがある作品の小説なので、完結まで行ってほしい。




