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ペルソナ  作者: ウミネコ
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最終章『Zero・dark・hour』第五話

 鼻孔をくすぐる甘い香り。

 抱きしめている肌の柔らかさ。

 耳朶に反響する優しい声。

 舌に残るのはザラッとした、憧れの人のモノ。

 裁也は目眩を起こし、頭がクラクラとしていた。

 目の前にいるのはかつて憧れを抱いた人。

 恩人であり、裁也が初恋をした女性。

 そして護れずに死なせてしまった人……

「ぐっ……!」

 バッと彼女を引き離す。

 花蓮はキョトンとしていて、とても皇零の人格が宿っているとは思えなかった。

「どうしたの、裁也?」

「お前……本当に、如月花蓮、なのか……?」

「? 私が花蓮じゃなかったら、誰だっていうの?」

 当然のように言われ、裁也は混乱する。

 どれが現実で、どれが幻想か、その境目が溶けて混じっていく。

 ぐにゃり、と裁也の視界が歪む。

 思えば、自分は何故こんな事をしているのだろうか?

 花蓮や零と楽しく学園生活を送っているのではなかったろうか?

 彼らと笑い、共に泣き、励まし合っていく日々ではなかったろうか?

 花蓮に告白し、零が好きだと言われ、それでも淡い恋心を抱いていく。

 そんな、どこにでもあるような人生を、自分も送っていたのではなかったろうか。

 ああ――そうだ。自分は、花蓮と一緒にいるんだった。

 フラッと、裁也は立ち上がる。

「どうしたの? 裁也?」

「ううん、何でもないんだ……。ただ、頭が少し痛くて……クラクラする」

「ちょっと、大丈夫? 少し休もう」

 花蓮のヒヤリとした冷たい手が額に触れる。

 とても心地良かったが、裁也は大丈夫だと告げた。

「ならいいんだけど……。じゃあ、少し休んだらデートの続きしよう」

「デート?」

「コォラ! 今日は裁也が私を誘ってくれたんでしょう!」

「あれ? そうだったか?」

 も~う、と花蓮は怒る。

 裁也は苦笑し、周囲を見渡した。

 見覚えのない公園の噴水の前で、自分達は座っている。

 私服姿の花蓮はとても綺麗で、自分のためにお洒落をしてくれた彼女が、嬉しかった。

 裁也もジーンズにTシャツというラフな格好で、右手には何か柄みたいなのを握っていた。

 何だろう、コレ?

 ちょうど握っている箇所に、〝石杖〟という刻印があるのに気づき、これは自分の持ち物なのだと認識する。

「どうしたの?」

「いや、何でもないんだ」

 首を振り、立ち上がる。

 花蓮が心配そうにこちらを見ていたので、彼女を安心させるように微笑んだ。

「じゃあ、行きましょうか」

 花蓮と手をつなぎ、公園の出口へ向かう。

 すると大きな物音が背後でし、二人は振り向いた。

「オイ! どこ行くんだテメエら!」

 金髪に、鼻にピアスをした男が二人に絡んできた。

「裁也……!」

 怯える花蓮を、裁也は下がらせる。

 迫ってくる男に裁也は向きあった。

「何か用か?」

「アアん? ふざけてんじゃねえよ! テメエ、殺すぞ!!」

 理由も解らず男は因縁を振りまいてきた。

 ナイフを取り出し、裁也に突き出す。

 オイオイ、ふざけるなってセリフは俺の方だよ、と裁也は心中うなり、男の手を絡めとり投げ飛ばす――ハズだった。

「なっ……!」

 男の手が崩れ落ち、腐敗したようにただれていく。

 ドロっと溶けて、人としての形を無くし泥の塊へと変貌していく。

 ――何だこれは!?

 驚くのも束の間。

 茶色い泥は裁也に纏わりつき、足元から這い上がってきた。

 裁也の口腔目掛け、一直線に駆け上ってきた泥を裁也は服を脱いで振り払った。

 飛び散った泥は、芋虫へと変わり裁也に群がってくる。

「チッ……!」

 裁也は芋虫を踏み潰す。

 ブチッと嫌な感触を靴の裏で感じつつも、迫り来る障害を次々と排除していく。

「ハァッ……ハァッ……」

 あらかた踏み潰し、裁也は花蓮を見た。

 彼女は不安げにこちらを見つめるだけだ。

 裁也は花蓮に駆け寄ったが、雰囲気が少しおかしい。

「花蓮……?」

 呼びかけるも反応がない。

 瞳は虚ろで、口は半開きとなっている。

「オイ、花蓮! しっかりしろ、オイ!」

 裁也が両肩を揺さぶり声をかけても、返事はない。

 数秒するとギギギッ、と壊れかけた人形のように首を動かし、唇を動かした。

『ヒト、ゴロシ……』

「――ッ!?」

 花蓮は急速に膨張し、弾け飛んだ。

 赤黒い雨が裁也に降りかかり、全身血まみれに染めていく。

『マタ、マモッテクレナカッタノネ……』

「うあっ……、うああああぁぁっっ――!!」

 耳朶に反響する花蓮の声に、裁也は絶叫した。

 頭を掻き、髪をむしり、涙をこぼし、吐瀉物をぶちまけた。

 花蓮だったモノが、全身に付着し、その暖かみが一気に冷えていく。

『アナタハ、ワタシヲ、コロシタ……』

「ううっ……。違う、違うんだ……!!」

『ナニガチガウノ? ワタシヲコロシタノハマギレモナイジジツナノニ……』

「それは……!」

『コノゴニオヨンデ、アナタハニゲルノネ……』

「違う! 俺は、逃げたりしない!!」

『ナラ、ドウシテワタシヲ、タスケテクレナカッタノ……? ドウシテ、ワタシヲニドモコロスノ……? ネエ、ドウシテ……?』

「ぐっ……! それは、俺はあの時、実力がなかったから……!」

『ウソ……。アナタハ、ワタシガニクカッタ;。ダカラ、ミゴロシニシタ……』

「そうじゃない! そうじゃないんだよ!」

『ドノミチ、ワタシハモウタスカラナイ……。アナタニコロサレ、シンデイク……。アナタガ、ワタシヲ、コロシタノヨ……!!』

 付着していた花蓮だったモノが更に飛び散り、裁也の視界を真っ赤に染める。

 裁也の自我は、限界を超え崩壊した――


「うああああぁぁ――っ!!」

 裁也が唐突に叫び、結維の意識が動き出した。

 姉の顔をしている皇零と、裁也がキスをした瞬間、結維の思考は吹き飛んでいた。

 だが、髪と喉を激しく掻きむしる裁也に驚き、クスクスと笑っている花蓮に結維は気づく。

「何をしたの、お姉ちゃん!?」

「さあね? 私にもよく解らないの、いま彼がどうなってるかなんてね」

 ベッと、舌を出す花蓮。

 その上には、ピンク色の錠剤がのっていた。

「お姉ちゃん!! それ、何!?」

「これ? これはね、とっても甘い夢を見れるお薬よ。とびっきりの熱く滾る夢をね……」

 ……さっきのキスの時に、アレを呑ませたのか!!

 歯ぎしりし、結維は花蓮を睨む。

「成分は私もよく解らないけど、これを作った人の話によるとね、『脳内をシェイクしてミキサーでかき混ぜたような気分』になれるみたいなの。

 だから、裁也も今頃すごくいい気分になってるんじゃないかしら?」

 心底面白がっている姉を見て、結維は怒りが湧いてきた。否、姉の姿をしている皇零に。

「……回りくどい事をするのね、皇零。そんなに裁也と直接戦うのが怖いの?」

 挑発して言うが、花蓮はキョトンとした。

 そして数秒静止した後、大笑した。

「アハハハッ! 何? 結維って、もしかして今の私が零だと思っていたの? アハハッ! 結維ったら、相変わらず面白いんだから!」

 花蓮の反応とは対照的に、今度は結維がキョトンとする番だった。

 姉の姿をした彼が、何故あんなに笑っているのか、理解できない。

 いや、本当は理解したくないだけの間違い。

 だって、私はゼロと出会ってからずっと姉だと思って接していたのだから。

 ゼロを皇零だと思わず、如月花蓮だと疑っていなかったのだから。

 裁也達からは、姉の花蓮は死に、皇零の人格が宿っているのだと言われていた。

 姉の姿をした、皇零なのだと……。

 だから。

 だからきっと、これは悪い夢。

 だって、こんな酷い事をするのが、私の大好きだった姉であるはずがない。

 唇がワナワナと震える。

 自身の脳に浮かぶ言葉を紡ぐのが怖い。

 それは最も悪い結末。最悪の展開。

 まさか、如月花蓮が生きていて、ゼロを名乗り、世間を賑わす犯罪を起こしている等と。

 そんなバカな話ではないはずだ。

「……嘘だって言ってよ、お姉ちゃん……」

 結維の呟きに、皇零の姿をした姉は微笑する。

「嘘だって言ってよ! 如月花蓮――ッ!!」

 結維の慟哭が花蓮に突き刺さる。

 そして、驚愕する事実を花蓮は告げた。

「そう。私は如月花蓮。皇零じゃない、正真正銘の、結維の姉よ」

 世界が静止する。

 足元がグラつき、暗転する視界の中、結維は信じられないといった眼差しで、姉を見つめていた…………

またリアルの仕事に戻ります。

※追記

何か、しっくりこないのでエピソードを追加しました。

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