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ペルソナ  作者: ウミネコ
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第二章『皇製薬会社の闇』第二十三話

『フッフッフ……。全て計画通りだ』

 ゼロは皇研究所の秘密の部屋でほくそ笑んだ。

 イレギュラーは、フィクサーである石杖裁也だが、既に対策も考えてある。

 この部屋は、妹である月夜さえも知らない。

 皇の正統後継者である、ゼロのみが知り得る場所だ。

『まあ、それも今日で終いだがな』

 特に感慨深くなく、ゼロは呟く。

 一度死んでも、ゼロはゼロのままだった。

 肉体は別でも、精神――人格はあの時のまま。

 我が妹ながら、その才能には感服する。

 動かしづらい身体を無理矢理動かし、ゼロはモニターに顔を向ける。

 監視用のカメラには石杖裁也の姿が映っていた。

 冷静を装っているが、顔に緊張が奔っている。内心、怒りで腸が煮えくり返っているに違いない。

 ――全く、忌々しい奴だ。

 ゼロは当時の記憶を振り返る。

 裁也に殺され、ゼロはタワー最上階から転落した。

 そして神の悪戯か、悪魔の御業か。

 どちらか知れないが、運良くゴンドラにゼロは落ちた。

 一命は取り留めたものの、ゼロは重傷で今にも死に絶えそうな状態だった。

 そこへ、『ロスト・クリスマス事件』の概要を制作した皇月夜がやって来て、ゼロを回収し治療を行った。

 自らの、好奇心を満たす為に。

『才能には敬服するが、如何せん倫理観が欠如してる娘なのが玉に瑕だな……』

 月夜はサディスティックな笑みを浮かべ、ゼロの脳と心臓を取り出し、もう一人の実験体へと移植を行った。

 オカルトな話だが、脳には人格が宿り、心臓には魂が宿ると言われている。

 月夜はその話を信じて、興味本位で手術を行ったわけだ。

 復活するには長い年月を要した。

 肉体の損傷、精神の定着、西尾一と取引し、月夜は金色の瞳で、自分の魂の状況を逐一確認していた。

 ゼロによる事件も、ここ二年余り起きなかったのは、ひとえに自分が治療していたのが理由ではない。

 現在実験中だった月夜が、他に関心を持たないおかげで、大規模な事件は起きなかったのだ。

 ――私が死んでいたら、即座に妹は第二のゼロを祭り上げ、世間を次々と賑やかしていた事だろうよ。

 クックック、と仮面の奥でゼロは笑う。

『だがそれも、全て今日で終わる。月夜よ、これまでご苦労だった』

 月夜の監視網を抜け、『トライブ』を組織し、とある目的の為にこれまで協力してくれたピエロにゼロは感謝する。

『――ッ!? ぐ……お――ッ!!』

 唐突に意識が乖離する程の激痛が全身に奔る。骨は軋み、胃が蠕動し、内臓を掻き乱される衝動に襲われる。

 サイド・エフェクト。

 別の人間に、DNA上全く関係のない他者の精神をリンクさせた反動。

 ゼロはこれまで幾度と無く、唐突な発作に見舞われ、死の恐怖に囚われた。

 マスクを脱ぎ去り、胃袋の中身をぶちまける。

 ゼイゼイ喘いでいると、不意に「ううん……」という、寝息が聞こえた。

 ギロリと、宝を見つけた海賊のように彼女を睨めつける。

 如月結維。

 花蓮の妹にして、ネットシンガーYUI。

 沢山の人々をその容姿で魅了し、歌声で洗脳する彼女を、ゼロは激しく欲していた。

 仮面を被り、正体を隠す事で人々の注目を惹きつけ、カリスマ性も十二分に兼ね備えている結維。

 こんな仮初めの肉体で我慢出来るほど、ゼロは無欲ではない。

 ゼロは、寝ている結維の頬に手を添えると、彼女がうっすらと目を開けた。

「……おはよう、結維」

「…………おねえちゃん、おはよ……――――ッ!?」

 バッと結維は起き上がる。

 そして目を白黒させ、周囲を見回す。

「……ここ、どこ……? 何で、私、こんな所にいるの?」

「結維、落ち着いて」

「……お姉ちゃんも、何でここにいるの? 私、何でお姉ちゃんを忘れてたの……」

 ゼロは――花蓮の顔で結維の両手をソッと握る。

 かつて姉が妹をあやしたように。

「落ち着いて、結維。混乱するのは解るけど、今は私の話を聞いて、落ち着いて」

 ね? と言うと、結維は素直に頷いた。

「まず、貴女の記憶から私が忘れてたのは石杖君のせいなの。彼が、貴女に強力な暗示を施し、過去の出来事を封印した」

「裁也が……」

「そう。そして石杖君は、また貴女の過去を封印しに来るわ。貴女の為だと言ってね」

 モニターには裁也が駆けている姿が映っている。

 そろそろ時間が無くなってきたな、とゼロは焦った。

「このまま、貴女をここに置いて行くとまた彼に記憶を消されちゃう。私の事も、思い出せなくなっちゃう」

「――ッ! そんな、そんなの嫌だよ! せっかく、お姉ちゃんの事を思い出せたのに、また忘れちゃうなんて、イヤッ……!!」

 悲痛な結維の叫びを聞きながら、ゼロはそうだろうとも、とほくそ笑む。

 花蓮の残留記憶によると、結維は随分と姉を慕っていたようだ。

 結維がYUIとなったキッカケは、憧憬を抱く姉に追いつく為が動機だったのだから。

 ――もっとも姉である花蓮は、妹に対して嫉妬していたようだがね。

 姉妹のズレた関係をゼロは嗤い、結維にたたみかける。

「そう……、だから結維。私と一緒に行こう……? またお姉ちゃんと一緒に、暮らそう……? ね……?」

 耳元で優しく囁くと、結維は感涙しながら何回も頷いた。

「……わたし、私も……、お姉ちゃんと、一緒にいたい……!! お姉ちゃんと、暮らしたいよぅ……!!」

「うん……。私も、結維と暮らしたい……! ――じゃあ、行こうか」

 花蓮の顔をしたゼロは、結維の手を引きヘリを待たせている外へと歩き出す。

 ゼロは笑いが止まらず、声が漏れるのを必死に耐えた。

 ここまで自分の思い通りに事が運ぶと、自画自賛したくなる。

 後は、ロゼに内密で頼んでいたモノを回収出来れば、万事上手く行くのだが――



「――待ちやがれ!!」



 ズザザン、と室内の壁を切り刻み、石杖裁也が飛び込んできた。

「如月結維を返してもらおうか!!」

 ――来たな、イレギュラーよ。

 裁也から見えないようにヘルメットを拾い上げ、ゼロは黒い仮面をかぶった。

 振り向き石杖裁也と対面する。

『フッフッフ。裁也よ、待ちわびたぞ!』

「うるっっっさい!! 黙って、その汚い口を閉じろ!!」

『ハッハッハ! ならば、力づくで閉じて見せるがいい!!』

「後悔するなよ、ゼロオオォォッッ!!」

 裁也が不可視の剣を構え、疾走した。

 ゼロも結維を投げ出し、因縁の敵に向かった。試作段階にある、〝不可視化の剣〟を構えて踏み込んだ。

 止まっていた時計が再び動きだす。

 因果と因縁の糸が複雑に絡み合い、『0』へと向かい時針が進み出した。

サイコパスをひたすら見続けている。

狡噛と常守のタッグがやっぱりいい。

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