第二章『皇製薬会社の闇』第八話
「いやぁ~、災難だったスねぇ~」
「ええ、そうね。ありがとう。おかげで助かったわ」
「いえいえ、結維姐さんに感謝されるだけでも、恐縮っすよ」
結維とミカドはいま、駅前のカフェにいる。
あの時、ミカドが機転を効かせなければ結維は今頃、警察に厄介になっていた可能性が高い。
親や学校への連絡も入り、最悪の展開、ネットシンガーYUIとしての活動も断たれていたかもしれない。
そう考えると、目の前の少年に感謝しきれない。
「そういえば、ミカド……君だっけ? よくあの場であんな事、考えついたわね。凄いわ」
「いやぁ、自分、YUIのファンなんで、こりゃあヤバイって思いましたよ。あとはもう、でまかせッス。でもでも、あの若い警官が姐さんのファンで良かったっスね」
「そうねぇ……。本当に、偶然ってあるんだなって思ったわ……」
結維は先程の出来事を振り返る。
ミカドが、YUIだYUIだと騒ぐので、あの若い新人警官も自分もファンだと言ったのだ。
そこからミカドが交渉を開始。
YUIのサインをあげるから連行だけはしないでくれと警官に懇願した。
結維もそれぐらいだったら、お安いご用だったので、結局三人で中年警官を説得。
その警官も、娘さんが身内にいるようで、時折、YUIの名前は聞いてたとの事。
サインを貰えるなら娘も喜ぶと判断したのか、今回は厳重注意で済ますという、寛大な処置で終わった。
そこから互いの自己紹介をし、助けてくれたお礼をという形で、現在に至る。
注文したアイスコーヒーを飲みながら、結維はミカドに質問する。
「そういえばミカド君。君、何歳?」
「何スか? 急にどうしたんスか?」
「いや、興味本位なんだけど。結構、遅い時間だから、親とか心配してないかなって」
「ああ、大丈夫ッス。うちの家族、放任主義なんで、多少遅くとも興味ないようだから全然オッケースよ!」
「そ、そうなの……?」
「そうッスよ! それより結維姐さんは? 姐さんも、家族の方、心配してないっスか?」
「う~ん……、実はちょっとヤバイかもしれない」
「ええッ――!? マジッスか!?」
「うん。私の家、一人っ子だから心配してるかも」
「……? 一人っ子、なんすか? ホントに?」
「? ええ、そうだけど……。どうして?」
「え……あ、いや、ただ雰囲気が何となく、お姉さんとかいるのかなぁ……って。ヘヘッ、それだけっスよ」
アハハハ、と乾いた笑いをするミカド。
明らかに動揺している彼だったが、結維は深く追求しなかった。
微妙に気まずくなる空気を察してか、ミカドが、「あ! そうだ!」と言う。
「姐さん、コレ、お近づきの印に」
「ん? 何々?」
スッとミカドから差し出される一枚の名刺。
そこには皇製薬株式会社取締役、皇帝人と記載されていた。
「へぇ~! スゴイ! ミカド君、皇製薬会社の重役なの?」
「エッヘン! 実はそうなんス。オレ、こう見えても優秀なんスよ~。って、姐さん、よく皇の会社知ってましたね」
「あ、うん。私が所属してる事務所の株主さんだからね、何となく出資者の人って自然と覚えちゃうのよ」
「そうだったんスか? 意外なとこで繋がってましたね~、オレら」
そうだね、と言って結維は頷く。
皇製薬株式会社。国内において最大規模のドラッグストアを抱えており、その店舗数も全国に広がっている。
プライベートブランドを展開し、独自の施設で新薬の研究もし、病院で臨床実験を行っているという噂だ。
皇製薬のすごい所はそれだけではない。
皇グループは幅広い事業を展開しており、医療業界はその一端らしい。
芸能界や警察、各種のエネルギー事業、果ては裏の世界にも精通しているという話で、政治家との癒着も強いらしい。
噂だと、日本を牛耳っているのは皇の一族だという話なのだが……。
「うんうん。皇君って、いいとこの坊っちゃんなんだね~」
「あ、その言い方は酷いッスよ。出来れば、普通にミカドって呼んでもらいたいッス。――上の名前、嫌いなんで」
ミカドの表情に、一瞬だが翳りが落ちる。
結維は、金持ちには金持ちなりの悩みがあるのだろうと察し、解った、と頷いた。
「じゃあ、これからもミカド君って呼ぶね」
「おおっ! 結維姐さん、ありがとうございまっス!」
「うんうん。何か、可愛い弟が出来たみたいだわ」
「マジっすか? うわぁ、嬉しいなぁ! オレ、IT関係強いッスから、困った事あったら何でも言って下さい!」
「本当? じゃあ、いま世間を賑やかしてるゼロの事でも聞いてみよっかなぁ?」
「ゼロ? ゼロっすね! いいッスよ! 任せて下さい! ……オレ独自のルートで調べた結果によると――」
「こんな所で何してるんだ、ミカド」
「――ッ!?」
ビクッと全身を竦ませ、背後を振り向く。
そこには何故か、石杖裁也が怒気を孕んだ瞳で、ミカドを見下ろしていた。




