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ペルソナ  作者: ウミネコ
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第二章『皇製薬会社の闇』第六話

「それ……どういう意味何ですか?」

「言葉通りの意味さ」

 死の宣告を受けた結維は押し黙り、裁也は訝しげに一の言葉を聞いていた。

 凍りつく空気を、一の明るい口調が切り開く。

「いやぁ、驚かしてゴメンゴメン! でも、そんなに心配する事ないんだよ!」

 ニコニコ笑う少年が、悪魔の様に見える。

「君が殺されないよう、裁也に君を今日迎えてもらったんだから! ここにくればもう大丈夫! 君は安心で安全だ! ――だから必要以上に怯えなくていい」

 一の瞳が生気を失った様に消失し、結維をジッと凝視する。

 ネットリと、絡み付く視線は獲物を狙う捕食者の様だった。

「コラ!」

「イタイ!」

 ガツン、と裁也が一に拳骨を落とした。

 一は恨めしそうに、裁也を見上げる。

「何するんだ、裁也! 痛いじゃないか!」

「痛くするように殴ったんだ。ほら、お前のせいで如月さんが怯えてるだろ?」

 なあ、と裁也に言われ、結維は「え、ええ……」と頷いた。

「そ、そんな! 怯えなくていいって言ったのに!」

「それが余計にプレッシャーを与えてるだけなんだよバカ。それより、さっきの話どういう事だ? 何故、如月結維が狙われる?」

 一は頭を擦りながら、裁也を見て意味ありげに笑う。

「トライブが動きだした」

「? トライブがどう関連する?」

「トライブはね、元〝黒の教団〟なんだよ」

「――ッ!?」

 裁也が息を呑んだ。

 結維は、彼がどうしてそんなに驚いているのか解らず、「黒の教団って何?」と訊ねた。

「黒の教団ってのはねー、ゼロが率いてた組織なんだ」

「ゼロが?」

「そ。んで、その黒の教団はね、『ロスト・クリスマス事件』以降、解体したんだ。ゼロというシンボルを失った瞬間、瓦解したんだよ。その壊れた組織が、再編成され〝トライブ〟となって生まれ変わったわけだ」

「へぇ……」

「『へぇ……』って、君、事の重要性解ってる? あの黒の教団が、トライブになって活動し始めたんだ。コレって、物凄くヤバイ事なんだよ?」

 一が呆れと驚きを半分ずつ交えたような表情で結維を責める。

 しかし結維としては、「はぁ、そうですか」という感想しか浮かばない。

 一は完全に呆れたようで、隣に佇む裁也は冷や汗を垂らしながら呟いた。

「――ゼロ本人の復活。そう言いたいのか一?」

「え……?」

 結維の間抜けな一声とは裏腹に、一は「ご名答」と嬉しそうに頷く。

「いま世間を騒がしてるゼロ、彼は間違いなくかつてのゼロ本人で、トライブを指揮しているリーダーだよ」

「……? え? だって、ゼロって、石杖君が倒したんじゃないの?」

「それがどういう訳か、生きてたみたいなんだ。何でかは、いま調べてる最中だけどね」



「そんな――そんな馬鹿な話あるかッ!!」



 バンッと机を叩く音が響き、結維はビクッと身を竦める。

 怒鳴り、一を睨む裁也。

「アイツは、アイツは……! 間違いなく俺が殺した! 殺したはずなんだ!! 俺は、アイツが死ぬのを見てたんだぞ……ッ!!」

「だから言っただろ? どういう訳か、生きてたって。奴は、本物だ」

「――ッ!!」

 一の胸ぐらを掴み、引き寄せる。

 裁也は怒りで我を忘れ、一に今にも殴りかかりそうな雰囲気だった。

「――落ち着け、裁也。いま、〝エンペラー〟に詳細を頼んである。だから、落ち着け。――じゃなきゃ、契約違反でお前を殺す事になるぞ」

「……チッ!」

 バッと、一を裁也は手放した。

 彼はフゥ~、と大きく息を吸った。

「……済まない」

「いいよいいよ。君が怒るのも無理ないからね。まさか宿敵が生きてて、また如月を脅かすなんて、心中穏やかじゃないだろうし」

 ニコニコと、笑みを振りまく一。

 これで今の件は流れそうな雰囲気になったが、結維はある事を訊ねた。

「一……君。いま、〝また〟如月を脅かす、とか言わなかった?」

「? 言ったけど、それがどうかしたの?」

「その話、詳しく聞かせてもらえない?」

「うん、いいけど――」

「――一ッ!」

 結維と一の会話に、裁也が割り込んだ。

「その話はいいんだ」

「――ん?」

 裁也の必死の形相に一は何かを察知したように、ポンっと手を叩く。

「ああ。裁也、あの話この子にまだしてないんだ。いいよ、いいよ~。それだったら僕も黙ってよう」

「よくない! 私が知らないところで、私が関わってるんだったら、私にも教えてよ!」

 一はチラッと裁也を一瞥するも、彼は目を閉じて首を振る。

「……ゴメンね、如月ちゃん! 裁也がいるから、僕の口からは何も言えないよ!」

「ハッ!? ちょっと、何で!」

「だって、裁也怒ると怖いんだもん! それに、君より裁也との付き合いの方が長いんだ! だから僕は裁也との関係を優先する義務がある!」

 ……何だ、それは?

 そんなふざけた話があるだろうか?

 自分が知らない所で、勝手に物事が起きてて、巻き込まれて……。

 教えてくれと訊ねたら、知る必要はない、と彼らは言う。

 ガチャン、と結維はカップを置き、「……いい」と呟く。

「へ? 何て言ったんだい?」

 声が小さく聞き取れず、一が訊く。

「もういいって言った!!」

 椅子を倒し、勢い良く結維は立ち上がる。

「バカじゃないの!! バカじゃないの、二人ともッ!!」

 一と裁也はビックリして何も言えない。

「私が分かんない所で、勝手な事やって! 教えてくれって言ったら、ダメだって言うし! 自分の事なのに! 自分の事を知りたいのに、何で、ダメって言うの!!」

「……そ、それが君の為――――」

 バシャン、とカップに残っている紅茶を裁也にぶちまける。

「バカッ!! バカバカバカバカッ!! もう知んない!!」

 結維は二人を置き去りにし、出口へと歩いて行く。

「あっ……、如月ちゃん、今後は〝歌姫〟のかつど……」

 ギロリと一を一喝し、結維は扉を叩き閉める。

 結維が立ち去った後、シーンとした静寂の中、一がボソッと呟いた。

「……彼女、怒ると恐いね……」

「……同感だ」

 裁也と一は、二人して結維が出て行った扉を眺める。

 彼女の怒りの残留が残っているようで、二人はしばらくの間、その場から動けなかった。

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