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ペルソナ  作者: ウミネコ
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第二章『皇製薬会社の闇』第三話

「で、話って何かな? 如月さん」

 屋上で結維に向き合う裁也。

 ニコニコと、笑みを貼り付けている。

「クラスの皆の前で、あんな大胆な事するなんて、如月さんって見かけによらないんだね」

「――茶番は止めて」

 からかう裁也を結維はピシャっと遮断する。

「いやぁ、初対面なのに厳しいな、如月さんは」

「貴方、そんなキャラじゃないでしょう。その嘘くさい笑みを、さっさと外してよ。調子狂うんなぁ。

 大体、初対面って何よ。初めて会ったのに、何で私の名前を知ってるの」

 言った瞬間、裁也から表情が消える。

 そして、本来の〝顔〟を浮かべた。

「――ほんのちょっと、優等生を演じただけだろ。何をそこまで君は怒ってるんだ?」

「……フン」

 クラスの女子にデレデレしてたのが不愉快だとは言えず、結維は彼に質問する。

「石杖君、今までどこに行ってたの!? 何で急に姿を消したの!? あのゼロは何!? 事件は解決したんじゃないの!? っていうか、何で皆、貴方の事覚えてないの!? 事件の事も覚えてないし、どうなってるの!? ねぇっ!?」

 詰め寄る結維に、さすがの裁也もタジタジになる。

「……落ち着け。質問にはちゃんと答えるから」

 鼻息荒く、ひどく興奮している結維を裁也はなだめ、嘆息した。

「……まず、君の前から消えた理由だが、これは前にも言った通り、残ってる〝火消し〟をしていた」

「……前も思ったんだけど、火消しって何をやってるの?」

「記憶の改竄、情報操作に隠蔽……。事件自体を無かった事にする行為、と言えば解ってもらえるかな」

「……それって、学校を占拠されたっていう事実を、無くすって事?」

 裁也は首肯する。

「そんな事、どうやってやるって言うのよ!」

「方法は色々ある。薬物に催眠療法。睡眠時における潜在意識への呼びかけ。あとは暗示をかけたり、まあ色々、ね」

 裁也が肝心な部分をはぐらかした様な気がして結維はムッとするが、今の説明である程度現在の状況を認識した。

「……そっか。だから、しぃちゃんとか皆が石杖君の事、覚えてないんだね」

「そういう事になるな。君の前に姿を晒すのは二度と無いはずだったんだが、アテが外れた」

「……どういう事?」

「ゼロの復活」

「――ッ!?」

 驚愕の事実に、結維は言葉を呑んだ。

「ど、どういう意味? だ、だってゼロは、ロゼ先生だったんでしょ? なら、あのゼロも偽者とかじゃないの?」

「現在調査中だから、確信した事は言えないが、今回は何か違う気がする。本物とは言わないが、ヤツに限りなく近い偽者、とでも言えばいいのかな」

「?? 何? どういう事?」

「――ゼロは、間違いなく死んでるんだ。今世間を騒がしてるヤツは間違いなく偽者。だけど、ゼロに限りなく似ている。挙動、言動、映像から伝わってくるプレッシャー。どれも、かつて俺が戦ったゼロに似ている」

「それって、本物なんじゃ……?」

「言っただろ? それはないって。アイツは死んだ、間違いなく。ただ……気がかりな点が一つ」

「……何?」

「ロゼ・シュタインバークの遺体が見当たらないんだ」

「え――?」

 裁也は苦虫を噛み潰したような、微妙な表情を浮かべる。

「まさか、ロゼ先生が生きてるっていうの?」

「それも調査中だ。だけど、あの高さから落ちたんだ。無事では済まない。仮に生きてたとしても虫の息だ。このタイミングで、あの演説を出来るはずはない」

「誰か別の人がやってるとか?」

 結維の疑問に裁也は首を振る。

「あり得ない。あの雰囲気は、ゼロ本人だけが持つ特有のものだった。だが奴はいない。だからロゼが唯一の可能性だと思ってたんだが……」

「……堂々巡りってわけね」

 そういう事になるな、と裁也は言う。

「そういうわけで、君の安全がまた危なくなった。だから君の前にまた俺が現れたってわけだ。不本意ながらね」

「……そう」

 数々の疑問が溶けていき、結維は爽快な気分になる。

 だが、どうしても聞きたい事がまだ残っていた。

「――石杖君。貴方と私って、過去に何かあった?」

「……どうして、そう思う?」

「何となく、で済ませたい所だけど、残念ね。この前の一件以来、貴方の顔が脳裏にチラつくのよ。今より少し、幼い顔立ちの貴方がね……」

「………………」

「それに〝約束〟っていうのも気になるな。……前に、私と貴方で特別な何かを交わしたり、した?」

「………………」

「どうなの? 答えてよ! ねえっ!」

 だんまりを決め込む裁也。

 頑なに、絶対にこれだけは喋らないと態度が語っている。

 口を閉ざす彼に、結維は我慢の限界を迎えた。

「……どこへ行く?」

「教室に戻るのっ!」

 背を向けて裁也から結維は離れる。

「勝手な行動は謹んでくれよ。これからしばらく、俺の監視下に入ってもらうんだから」

「ふんだ! 勝手にすれば! アンタがそう言うんだったら、勝手に守られてやるわよ! バーカッ!」

 むかっ腹が立ち、悔しくて悔しくて涙をにじませる。

 裁也が自分に秘密を打ち明けないという事は、裁也が結維を信じていないからだ。

 その歴然とした事実が、結維は悔しかった。

 出口に差し掛かる結維に、裁也が優等生の顔で呼び止める。

「今日の放課後、予定を空けといてくれ! 会わせたい人がいるんだ!」

 ――勝手にすればいい。

 結維は扉を乱暴に閉め、屋上から立ち去った。

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