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ペルソナ  作者: ウミネコ
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第一章『学校占拠事件』十二話

 完全なる静音の世界。

 聞こえるのは自分の呼気と鼓動。

 熱く滾る血潮と、絶対零度の精神。

 駆け上がる階段の足音に雑音が交じる。

「――止まれ! 止まらないと殺す――――ッ!?」

 階段の壁を三角跳びし、踊り場に出現した敵の顔面を蹴り飛ばす。

 横転した敵の腹部に一撃打ち込み、気絶させた。

 ――一人目排除。

 裁也は容赦しなかった。

 怒りの沸点は既に超え、かろうじて保っている理性が、彼に殺人を犯させなかった。

 約束は破棄。

 契約は履行。

 誓約は実行。

 盟約は絶対。

 裁也は人間の気配を感じ、拳を前方に突き出す。

「――がはっ……」

 飛び出してきた敵の顎にクリーンヒットし、『トライブ』の一人はもんどり返った。

 彼の頭蓋に足を踏み下ろし、脳震とうへと追い込んだ。

 ――二人目撃破。

 ミカドが出した地図を脳内で再検索。

 野生の感と、人類の叡智を組み合わせた記憶で、如月結維の居場所を探知する。

「まだ上か……」

 四階まで駆け上がり、行き止まりにぶち当たったので、必然、逆方向に目を向けると、竜ヶ峰の制服を着た人間が雄叫びを上げながら襲ってきた。

「………………」

 裁也は冷静に彼の挙動を観察。

 突き出してきたナイフを叩き落とし、手首を捻り上げて拘束する。

「――如月結維はどこだ?」

「がっ……ぎッ……! し、知るか! 知っても教えねえ!」

「そうか」

 がぎん、と一際盛大な音が鳴り、彼の肩の関節が外れた。

 竜ヶ峰の生徒は地面に転がり、裁也は彼の耳元で、静かに囁く。

「――もう一度聞くぞ。如月結維は、どこだ?」

「ひ……ひぃ……!!」

 今にも泣き出しそうな悲鳴で、生徒はあさっての方角を見やった。

 その行為で、裁也には充分だった。

「ありがとう」

 裁也は生徒の顎に掌底を打ち込み、脳震とうを起こさせる。

 強く地面に頭を打ち付けた生徒は、少しすると気絶した。

 ――これで三人目。

「キィィィサァアァマァァァ――――ッ!!」

「ッ!?」

 服に付いた埃を払ってると、怒声を叫びながら一人の男が走ってきた。

 声から察するに、自分を殴った男だ。

 彼がナイフを振り上げたので、裁也は床に転がってるナイフを手に取り掲げた。

 キン、と金属音が響き渡る。

「キサマ! キサマ! キサマァァッッ!! キサマが、私を殺しにきたのか!!」

「………………」

 裁也は眼前の男を観察する。

 鬼のような形相を浮かべ、目は血走っていた。

 言動は怪しく、口から唾を飛び散らせながら、激しく裁也を罵倒する。

 男は――クニヤスは既に常軌を逸していた。

 それゆえに、手強い――

「お前が、さっきのガキが! 私を、この私を、殺せるものかアアッッ!!」

「……チッ」

 舌打ちし、後退する。

 クニヤスは好機と見たのか、裁也に突進した。

 一合、二合、三合……。

 打ち鳴る金属の音は澄み渡り、校舎内に反響する。

 クニヤスの精神が肉体の底力を引き出し、裁也は徐々に追い詰められていった。

「クウ……! 所詮、ガキか! この程度の手合い! 私が、相手をするまでもなかったかぁ!?」

「………………」

「フハハッ! 言葉も出ないか、クソガキがァァッ!!」

 裁也の持っていたナイフが男の一閃によって弾き飛ばされた。

 裁也は、ついに壁際に追い込まれた。座り込み、眼前にナイフを突きつけられる。

「……ックック、何か、言いたい事はあるか?」

「……如月結維は、無事なのか?」

「こんな状況でも、他人の心配とは美徳だのぅ」

 クニヤスはナイフを一振りする。ピッと裁也の頬に一筋の傷ができ、血が流れでた。

 裁也は、ソレに動揺する事無く、真っ直ぐにクニヤスを見つめる。

 クニヤスは内心で舌打ちした。

「……彼女ならおそらく無事だろう。傷つけるな、との命令だからな」

「――命令? お前がリーダーじゃないのか?」

「ハッ! この私が!? 笑わせるな! 私は、仕方なしに連中に協力してるだけだ!! ……家族さえ人質に取られなければ、誰がこんな真似をするか!!」

 激高するクニヤスに、裁也は目を見開いた。

「家族を護るためにも、小僧! 貴様には死んでもらうぞ! それが、『あの方』のご所望のようだからな!」

「……最後に質問させてくれ。お前らの――トライブの目的はなんだ? 如月結維を攫ったのは、何が目的だ?」

「そんな事、私が知るか! 連中は『大いなる成就』だとほざいていたが、詳しくは知らん! これで満足か!?」

 裁也はコクン、と頷いた。

「――では、シネエエエエエエエェェッッ!!」

 クニヤスは裁也の額目掛け、ナイフを突き刺してくる。

 ナイフが刺さる寸前、裁也は首を傾げ、ナイフを避けた。

 そして、懐に忍ばせておいた〝アレ〟を取り出し、クニヤスの心臓に突き立てた。

 クニヤスは胸を押さえながら、くずおれる。

 彼の視界は暗闇に覆われていった――――



「――ハッ!?」

 バッとクニヤスが起き上がる。

 周囲を見回し、ここが何処なのか彼には解らなかった。

 何故自分がこんな見知らぬ場所にいるのだろう。

 妻と娘と一緒に家でご飯を食べていたのだが…………。

「うう……」

 不意に悪寒に襲われる。

 何か大事な事があったような。

 何か大切な事があったような。

 重大な記憶を一部欠落しているが、思い出せない。そんな感覚……。

 ――まるで悪夢を見ていたようだ。

 クニヤスは立ち上がり、とりあえずこの場所から出ようと思い、階段を降っていった。彼の背後に少年がいたことも知らずに……。

「じゃあな、おじさん。今度は〝悪夢〟に取り憑かれるなよ」

 石杖裁也は呟き、その場から立ち去る。

 目指すは屋上。

 如月結維を――過去の因縁を断ち切るため、裁也は全力で駆けて行く。

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