第一章『学校占拠事件』十一話
「もういいんか?」
「ああ。ありがとう、ミカド」
携帯をミカド――情報処理のスペシャリストに放って渡す。
「あ、おーい、手荒に扱うなやぁ。機械は繊細で精密で、オイラみたいなモノなんだぞぉ」
「なら大丈夫だな」
ぶーたれるミカドをよそに、裁也は学校の屋上の方を見上げる。
ミカドは裁也が気絶させた『トライブ』のメンバーの一人に座り、モバイルパソコンを開いて、裁也が渡した携帯をコードで接続する。
パソコンの画面上では高速でソフトがいくつも起動していった。
「居場所、解るか?」
「ちょっち待ってな。もうすぐ分かっからさー」
「頼むぞ」
裁也はIT関係は門外漢なのでミカドに一任する。
ミカドは、真剣な眼差しでパソコンの画面を見つめていた。
ミカド――裁也の仕事仲間の一人。
それが本名かどうかも裁也は判らない。仕事で関わるメンバーは、基本コードネームで呼ぶようにしている。互いの詮索はしないのが暗黙のルールとなっていた。
裁也とあまり歳は変わらないだろうが、おそらく年下だ。
短かく、茶色に染めた髪。理知的に思わせる眼鏡。短身痩躯で、何故か半ズボンで半袖の格好を好んでしている。
初めて会ったのは一年前の事。それ以前は名前だけ知っており、電話やメールでのやり取り位だった。
(確か、ロスト・クリスマス事件が終わって、しばらくしてからだったな……)
ミカドと会った日を、裁也は思い返す。
ロスト・クリスマス事件――前代未聞の大事件。
セントパレスチナタワーと呼ばれる、都心の超有名ホテル。
政財界の大物や、世界的大企業の社長、芸能界のドンや、マフィアのボスなども利用する事で有名なスポットだ。
だがそこで、前代未聞の大事件が勃発した。
〝ゼロ〟と呼ばれる、伝説的犯罪者が、セントパレスチナタワーを占拠し、爆破した。
事件当日タワーでは、日本の政治運営に関わる中心メンバーが集まっていた。極秘扱いだったにも関わらず、ゼロは独自の直感が働いたのか、彼らを人質にとり一同共々爆殺しようと目論んでいた。
彼らを失えば、日本の政治が一時的だが機能しなくなる。
結果的に彼らは無事だったが、その被害は周囲に及んだ。
ホテルの関係者は火災に巻き込まれ、タワー周辺を歩いていた人々も、ホテルの瓦礫の落下で潰される。
宿泊してた客の大半が焼け死に、その周囲の人達は深く悲しむ羽目になった。
(その後処理で、コイツと会ったんだよな……)
超大物の情報がどうしても必要になり、裁也が自身の雇用主に相談すると、彼を――ミカドを紹介されたのがきっかけだ。
向こうはどうやら裁也と逢いたかったらしいのだが、雇用主がそれを止めていたらしい。
詳しくは聞かなかったが、仕事に支障が出る可能性があったからだとか。
まあそれも今となっては、どうでもいい事だった。
「――よし、特定出来たよ」
「どこだ?」
「ここだよ、ここ」
ミカドはパソコンを突き出し、画面上に映る竜ヶ峰高校の見取り図のある一点を指さす。
どうやら連中は、屋上付近にいるらしい。奇しくも、裁也が先程見上げた場所周辺のようだ。
「ありがとう、ミカド。助かったよ」
「へへっ、礼ならいいさ。オイラと〝タッちゃん〟の仲だからさ」
「……その〝タッちゃん〟っていうのは、どうにからならないのか?」
裁也が文句を言うと、ミカドは唇を突き出してすね始めた。
「ええっ~? こういうのがいいじゃんよ。なんか、パートナーっぽくていいべ?」
裁也は軽く息を吐いて、「好きにしろ」と言った。
「お前とパートナーになった覚えはないけど、助かってるのは事実だ。感謝している」
「ヒヒッ、イイってことよ」
イタズラ好きな少年の様な笑みを浮かべ、ミカドは立ち上がった。
「じゃあ、オイラはそろそろトンズラするよ。タッちゃんみたいに、オイラは強くないからねー」
「分かった。気をつけろよ」
「こっちの台詞だよ、それ。……タッちゃんも気をつけてな。この事件は、何だかやり口が『タワー事件』に似てるからさ」
「……そうだな。それは俺も感じてた事だ」
だがあの事件を巻き起こした張本人はもういない。ロスト・クリスマス事件で死亡している。あの黒仮面は、ゼロを模倣しているにすぎない贋物だ。
「じゃ、タッチャン、頑張って〝歌姫〟を救出してくれよ。オイラ、彼女のファンだからさ。このまま彼女の声を聞けなくなるのは寂しいっす」
「ああ、分かったよ。――じゃあ、行ってくる」
肩をすくめた後、裁也はミカドと別れた。
目指すは屋上。
裁也は猛烈な勢いで階段を駆け上がっていった――――




