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15話:怖がり少女と悩むモノ(後編)

 




 桃はお茶を飲みながら、ぼうっとしていた。

 職場の人間は、どこかに調査をしに行っているため、1人でお留守番をしているのだ。


 “まずは、なのはな区に住んでいる亀好きのバカ女子高生を探す”


 これはこの前の、第12回浮遊霊を悪霊にする会略してアク会の会議で、決まったことだ。もし、誰かがこの少女を見つけることが出来たら、メンバーに連絡して、浮遊霊を悪霊化させて、殺すのだ。

 しかし、メンバーからは誰も連絡が来ない。


 桃も桃なりに探したのだ。

 それらしい少女はいないか、なのはな区の住宅地をぶらぶらと歩いてみた。しかし、あの地区は学校がすぐ近くにあるためか、女子高生がたくさんいる。その中で探すのはとても難しかった。

 その上、似たような家が何軒も並んでいたため、方向音痴の桃は自宅に帰れなくなってしまった。昼から行ったのに、夜になってしまい、途方に暮れた。道を聞こうにも、誰にもすれ違わなくて、1人シクシクと泣いていた。

 やっと出会った女子高生の足に縋って助けを求めようとしたが、振り払われて逃げられた。

 どうすることも出来ない桃は、最終手段として、赤に電話をかけた。制服姿の赤は迎えに来てくれたが、まるで虫けらを見下ろすような目つきで桃を見てきて、ますます悲しくなった。

 赤に送ってもらって、無事に自宅についた桃は、棚に飾ってある写真立てを見て、静かに涙を零した。


 写真立ての中から、桃に笑いかけているのは、小学生の頃に死んだ弟だ。


 桃と弟は、普通の人とは違った。普通の人には視えないものが視えたのだ。桃はそれが異常だということに気付いて、どうにか周りに合わせて、生きていた。しかし、嘘をつけない素直な弟はそれが出来なかった。いくら桃が諭しても、弟は桃みたいに周りに合わせることはしなかった。その、弟の異常さに両親はすぐに気付いた。


 こいつがおかしいのはお前のせいだ!

 この子がおかしいのはあなたのせいよ!


 そう言って両親はお互いを罵り合い、夫婦仲は悪化していった。そして離婚したのである。桃は母に引き取られて、弟は父の実家に引き取られた。

 弟が心配な桃はこまめに弟に会いに行った。その度、弟は言葉の暴力を受けていることに気づく。祖父母や父親に。あるいは、学校の教師やクラスメイトに。あまりに弟の敵は多すぎて、桃にはどうすることも出来なかった。


 そんなある日、弟は、学校から飛び降りて、死んだ。桃の前から消えてしまってのだ。


 自殺なのか、他殺なのかは分からない。警察は“自殺”として片付けた。

 桃としては自殺でも他殺でもどちらでもよかった。何故なら、弟の死は、“普通の”人間達が弟を苦しめた結果だということを桃は知っていたからだ。

 何も出来なかった桃も同罪であるが、それよりも“普通の”人間である者全てが憎らしくなった。


 そこで知ったのが“アク会”だ。アク会に属する者は、異常であるが上に、“普通の“人間達に恨みをもっている人間の集まりだった。

 桃は、弟を死へと至らせた“普通の”人間への報復目的でアク会に入った。


 しかし、アク会の活動はなかなか上手くはいかない。その上、他の会員には馬鹿にされている。だんだん自分のしていることに疑問を感じてきた。だけど、桃は自分がどうしたいのか全く分からないため、ずるずると流されるまま生きている。


 こうやって仕事にも毎日来てはいるが、楽しいわけでもない。

 桃は仕事場である事務所を見渡して、はぁ、とため息をついた。


 その時。


 バァンと勢いよく、事務所のドアが開いた。桃は、びっくりして、パッとドアを見る。


 大仏がいた。


 正しくいうとフルフェイスの大仏の被りものをつけた、女の子が立っていた。


「ここが有名な心霊スポットかー。いやはや恐ろしいなー」


 大仏頭の女の子は、棒読みでそう言い始めた。


「よく話であるよね。心霊スポットで怖いことがいっぱい起きちゃうやつ!はぁー、怖い怖い!まさか何か起きたりはしないよねー」


 そう言うと、数秒後に事務所の窓がガタガタガタガタガタガタッと強く揺れた。


「ひっ!お化け!?怖いよー!ってお前がやってるのかよ。悪霊か!」


 大仏頭の女の子は何もない空中を、片手でビシッと、ど突いた。

 事務所の中はシーンと静まり返った。


「あ、あれ?すべってる?ええー。どうする?あ!くすぐるとかは?え、ダメ?ええー」


 大仏頭の女の子はブツブツと呟く。

 桃もアク会という頭のおかしい集団に所属をしているが、この大仏頭の女の子は、それとは別の種類の頭のおかしい人間ではないか?

 桃はそう思った。


「あなたは何なんですか?悪戯ですか?強盗ですか?警察を呼びますよ」


 桃はそう言うと、表情は分からないが大仏頭の女の子は慌てふためく。


「あやしいものじゃないんです!あやしいものじゃないんです!私はゼンリョーな国民です!」


 そう言う大仏頭の女の子に、桃は不審そうに見る。


「じゃあ、なんでそんな被り物をしているんですか?」


「これは、より面白くなるかなぁと思って被りました!」


 大仏頭の女の子は、元気よく答える。


「面白くなる・・・?」


 桃が首を傾げる。


「そう!そうです!お姉さんを笑わせるために来たんです!」


「笑わせる?なんでですか?」


「え・・・なんで?」


 大仏頭の女の子が誰もいない方に語りかける。そして、ふむふむと頷く。


「へえ、そうなんだー。お姉さんが最近泣いてばっかいるみたいだからです!」


 大仏頭の女の子がそう答える。

 どう考えても、この女の子とは初対面だ。何故、桃が泣いているのを知っている?

まるで桃達が普通の人には視えないモノを視て、それを普通の人達に伝えてしまった時のような状況だ。ただ、今の状況は、桃が普通の人で、大仏頭の女の子が異常な人になっているが。

 しかし、桃は異常な人だ。視えるのだ。この大仏頭の女の子が視えて、桃には視えないなんてことはないはずだ。


 大仏頭の女の子の周りには何もいない。


「どうしてその事を知っているんですか?」


 桃は、警戒心を解かずに大仏頭の女の子に聞く。その時、どこからか、ある曲が流れた。


“もしもし かめよ かめさんよー”


「あ、電話だ」と大仏頭の女の子が、ポケットから携帯を取り出す。携帯の着信音だったらしい。女の子は携帯を操作して、福耳に携帯を当てて喋り始めた。


「もしもし。え、いま?えっとね、○○探偵事務所。え、くる?いいよ、こなくて。もしかして、怒ってる?・・・あ、電話切れた。やばい、確実に怒ってる!」


 そう言い、携帯をポケットにしまったら、辺りをキョロキョロと見渡す大仏頭の女の子。

 そして、掃除用具入れのロッカーを見つけて、無理やり入り込む。入り切れてなくて、服の裾がはみ出ている。


 桃は本気で警察に通報しようかどうしようか、悩んだ。

 とりあえず、出てくるまで待とうと、桃は冷えてしまったお茶を飲むことにした。











 20分くらい経ったのだが、女の子は辛抱強くロッカーに隠れている。

 桃はパソコンを起動させて、仕事をしようとした。


 その時、バァンと、事務所のドアが勢い良く開いた。


 次は何が来たんだ、と桃はげんなりして顔を上げたが、そこにいた人物を見て、口をポカンと開けた。


 硬そうな黒髪に、冷たさを感じさせる整った顔立ち。少し細いが、筋肉質そうなその身体。ストイックな雰囲気を持つ、ミステリアスな男。

 桃のタイプだ。いや、タイプどころではない。理想の男がそこにいた。


「あ、すみません。お邪魔して。妹が来てませんか?」


 低い声に、胸がときめく桃は、胸を手で抑えるだけで何も答えることができなかった。

 彼は、キョロキョロと辺りを見渡して、迷うことなく、掃除用具入れのロッカーを開けた。そして、身を縮ませる大仏頭の女の子を引っ張り出して、その頭を叩いた。


「お兄ちゃん!いたい!」


「痛くしてやってんだよ。おい、俺は家を出て行く時になんて言った?じっと大人しくしてろよって言ったよな?お前は何してるんだ?」


「漫才だよーえへへへ」


 そう笑いながら答える女の子に、彼は顔をひきつらせて、さっきより強めに頭を叩く。

そして、桃の方に、顔を向ける。

 彼と目が合って、桃はまた動悸がした。


「こいつ、迷惑なことしませんでしたか?」


 彼は桃に尋ねてきた。


「え、あ、え?全然です!全然、迷惑じゃなかったです!」


 桃は慌てて、そう言う。もちろん、迷惑だったが、兄らしい彼には言わない。


「そうですか。よかったです」


 彼は桃に笑いかけた。その笑顔に、桃は胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

 彼は何歳だろうか。見た感じ10代後半から20代前半だ。桃は24歳だから、年下である可能性がある。


「あの、何歳ですか?」


 桃は、彼に尋ねた。彼は、怪訝そうにしながらも、優しく答えてくれた。


「今年21歳になります」


 3歳年下だ!いける!3歳ぐらいの年の差ならいける!


 桃は、興奮して鼻息が荒くなりそうなのを、必死に抑える。


「年上は好きですか?」


「え?あの?年上?嫌いじゃないですけど・・・」


 嫌いじゃない。つまり好き。

 年上の女が好き。

 もしかしたら、付き合えたりして!


 妄想を膨らます桃は、自然と笑みがこぼれた。


 大仏頭の女の子が「あ、笑った」と呟いたが、桃は全く聞いていなかった。桃の頭の中はピンクに染まっていた。























 灯は兄と共に帰宅していた。


 不貞腐れたような顔をしている灯。

 男の子の姉は、灯の漫才では笑わず、何故か兄が現れただけで幸せそうに笑ったのだ。それを見て、男の子も安心したように笑った。


『アクリョウカっていうのをしなくてもお姉ちゃんは笑ってくれた。ありがとう』


 そう言って、灯が止める間もなく消えてしまった。

 キョロキョロと事務所の空中をよく見ると、男の子が着ていた白に近いピンク色のTシャツと、同じような色の風が辺りを漂っていた。


 男の子は風になったのだ。しかし、この色では北風ではなく春風みたいだ。


 男の子の姉は、灯の兄と喋り、嬉しそうにニコニコと笑っている。「悪霊か」の漫才も無意味に終わった。あの練習は何だったのか。


 それでも男の子の望む、姉の笑顔は見れたのだが、灯はなんとなく腑に落ちなかった。

 もやもやする気持ちを抱えて、前を歩く兄を睨む。

 兄は何故か、灯の視線に気付いて振り返る。


 「なんだよ」と言いながら、灯の頭をぽんぽんと叩いた。


 まてよ。


 灯はあることを思いついた。

 この前テレビを見ていたら、妖精が見える人は心が綺麗とある人が言っていた。


 風の妖精が見えたってことは、私って心が綺麗!?


 そう思い、灯は、えへへと笑った。


「なんだ、いきなり笑って。気持ち悪い」


 兄がそう言ってきたが、灯は怒らない。だって、灯は心が綺麗な人間なのだ。

 ニコニコと笑う灯。兄は、何故か心配そうにそれを見た。そして灯が聞こえていないところで「本格的に頭がおかしくなったか?」と呟いた。






















そんな灯が


ちっちゃいおっさんと


北風(春風?)小僧の男の子に


びびった2日間の話。


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