16話:怖がり少女を捕らえたモノ(前編)
また彼らは住処を失ってしまった。最近は、ひとつの場所にいるのが難しくなってしまった。彼らはまた住処を見つけるために、移動をする。
全ては彼らの守るべき姫の為に。あちらからこちらへ、彼らは歩き回る。
灯は学校にいる。昼休みの時間なのだが、お弁当は食べ終わっていた。今は友達とお喋りをしながら、お菓子を食べている。
「聞いてよー。この前、私妖精見たんだよ」
灯は真面目な顔をして、友達にそう告げた。
「はぁ?不思議ちゃんキャラでも目指してるの?辞めといたほうがいいよ。頭がいい不思議ちゃんなら変人に終わるけど、バカの不思議ちゃんはただのバカ女だから。需要ないからね」
友達が冷ややかな目でそう言った。しかし灯はくじけない。自慢じゃないが、灯はO型だ。些細なことではくじけない。引っこ抜いても出てくる雑草のような人間だ。ある意味、面倒な人間でもある。しかし、しょうがない、O型なのだから。
「本当だよ。私って心が綺麗だから見えたんだよ」
図々しくそう言う灯に、友達は呆れて、「はいはい」と適当に流した。
その時、近くの席にいた5人の男女が、悲鳴をあげた。灯と友達は、そちらの方を見た。男女のグループが、あるものを見ながら、きゃあきゃあ、わあわあと騒いでいた。
「これ、本物?」
「そうだよ!合成なんて出来ないし・・・」
「うわあ、まじかー」
「てか、本物だったら、俺やばいんじゃないか?」
「あはは、お前、死んだりして!」
「はあ?死なねえよ!」
何やら物騒な話をしている。気になるが、怖かったので、灯は知らんぷりをしようとした。
「これ、バカリに見せてみようぜ」
「えー?バカリ、泣いちゃうよ。かわいそうだからやめなよ」
「どんな反応するか気になるだろ?」
「そりゃあ、まあ、そうだね」
「おい、バカリー!これ、見てみろよ!」
知らんぷり出来なかった。灯は逃げようと立ち上がったが、敵はすぐ近くにいて捕まえられた。そして、無理やり席に座らされて、あるモノを見せられた。
あるモノとは、携帯だ。携帯の画面には、画像が写っていた。廃墟のような所に、そのグループの男女4人がピースしている。その画像を見た途端に、何故か灯は具合が悪くなり、涙目になった。
「ほらー!バカリ泣いちゃうじゃん!かわいそうだよー」
「あ、本当だ。俺、言われるまで気がつかなかったけど、バカリはすぐ気づいたな」
短髪の男子生徒のその言葉に灯は吐きそうになりながらも、首を傾げた。
すぐ気づいた?何のことだ?
灯のその様子を見て、茶髪の男子生徒が言う。
「バカリは気づいてなさそうだぞ。ほれ、ここ見てみろ。おかしいだろ?心霊写真だぞ、これ」
茶髪の男子生徒の指を指したところを、灯と友達が見る。
それを見て、灯は青ざめた。
画像に写っている、短髪の男子生徒の首。その首を絞めつけるような白い手がある。よく見てみたら、短髪の男子生徒の後ろにある、微かに開いている扉には、顔半分だけ見えている女の顔があった。顔の詳細はぼやけてよく見えないが、目が血走っているのが分かる。
灯は口元を抑えて、えづきそうになるのをこらえる。本当に吐きそうになるぐらい、気持ち悪い。そして、女の顔が異様に恐ろしかった。
灯の友達が、それを見て口を開く。
「なんだ。この首の光のこと?そういうのって、ホコリに光が当たるとそう写るんだって。あと、ピンボケとかでもそうなるらしいよ」
灯の友達の言葉に疑問を感じて、灯はもう一度、画像に写る短髪の男子生徒の首を見る。しかし、やはり白い手があるだけで、友達の言っていた光なんて見えなかった。
その事を指摘しようかと思ったが、画像を見てまた気持ち悪くなる。灯は、「吐きそう」と呟いた。灯の周りにいる人間はギョッとした。
「バカリ!ごめん!そんな怖がりだったとは思わなかった」
慌てふためく男女の5人グループ。灯の友達は、驚いた顔をして灯に「保健室かトイレに行く?」と聞いてくる。
灯は吐き気をこらえながら、頷いた。
結局あの後、トイレに行って吐いた。吐いたら楽になり、教室に戻ると先ほどのグループにまた謝罪された。灯は心が綺麗だから(と思いこんでいるから)笑顔で許した。
帰宅時に、灯はなんとなく気分転換でもしようと思い、ペットショップに向かっている。
灯は亀が好きだが、犬も好きだ。灯が今から向かうペットショップには子犬がいっぱいいる。その子犬を見に行くのだ。
ペットショップに向かう途中で、ある変な声を聞いた。
『したーにー。したーにー。したーにー。したーにー』
聞いたことがある、変なかけ声だ。以前、このかけ声を聞いた時は、兄と一緒だった。灯が声の主達を見ようとしたら、それを兄に阻止された。兄いわく、“ちっちゃいおっさんがワラワラいた”らしい。それに興味を持った灯が見ようとしたら、“あれは悪いヤツ”だから、見たらいけないと言ったのだ。つまり、ちょい悪なちっちゃいおっさんである。
『片寄れー。片寄れー。よけろー。よけろー』
やはり聞こえる。灯は、ちょい悪なちっちゃいおっさんを見ようと、顔を下に向けた。
俯いた灯は顔を引きつらせた。確かに兄の言う通りに、ちっちゃいおっさんがワラワラいた。あと一歩前に出ていれば、確実に踏んでいた位置にワラワラいた。
灯が顔を引きつらせたかというと想像と全然違ったのだ。
灯はファンシーな小人を想像していた。シンデレラの小人のような、トンガリ帽子にカラフルな服を着て、白い髭を蓄えて丸々とした体型のかわいい小人だ。
しかし、実物は違った。たしかに親指くらいの大きさの小人だ。だが、羽織りと股引を着て、頭には笠を被っている。ちらりと見える肌の色は真っ黒だ。何故か、先頭にいる小人達は手に小さい金槌を持っている。かなり日本風のちっちゃいおっさん達だ。
それが、かなりの人数で行列を作り、道路を横切っていた。
灯はしゃがみこみ、まじまじと、その行列を眺める。
『したーにー。したーにー。したーにー。したーにー』
彼らは灯に気づかずに一生懸命、かけ声をあげながら歩いている。
少したったら、ちっちゃいおっさんが2人がかりで駕籠(人が座る部分の籠を一本の棒に吊して、運ぶもの)を担いでいた。
この箱には何が入っているんだろう?
灯はそう思い、小さい駕籠に顔を近づけて、中を覗こうとする。しかし、あまりに小さくてしゃがんでいる状態では見えない。灯は道端に這いつくばって、地面に頬と手をつけて、駕籠を覗こうとした。
道路に這いつくばる姿はなかなかの不審者だ。しかし、偶然にも誰もいなかった。
這いつくばって見ることで、駕籠が見やすくなった。駕籠には小窓があった。小窓から中を見ようとしたら、黒い瞳と目が合った。
『無礼者!そこの者を引っ捕らえよ!』
そんな声が駕籠の中から聞こえた。
ちっちゃいおっさん達が一斉に灯の方を見た。笠に隠れていて見えなかった顔が灯の方に向くことで露わになる。ちっちゃいおっさん達は蟻のような顔をしていた。
蟻のような顔をしたちっちゃいおっさん達に一斉に見られて、灯は身体をビクッと震わせた。慌てて立ち上がろうとしたが、ポニーテールをちっちゃいおっさん達に掴まれて阻止された。
そして、這いつくばっている状態で、ちっちゃいおっさん達に完全包囲されてしまった。手首は糸みたいなもので縛られてしまった。
その姿はまるで、小人に捕まったどこかのガリバーとかいう旅行者みたいだった。




