無知の知
リビングは、静かだった。
さっきまでの熱が嘘のように消え、夜の静寂がリビングを重く支配している。
テーブルランプの橙色の光が以前と変わらず部屋を照らしているけれど、その光の中に漂う空気は、もう数分前のそれとは別物になっていた。
まるでこれから語られる遥さんの語りのように。
そんな重たい空気の中遥さんは上着を脱ぎ捨て静かにたたずんでいた。
さっきまでのランジェリー姿からすれば随分とおとなしい格好だけど——立ち姿の空気は、少しも変わっていなかった。
むしろ、今の方が怖い。
余計なものを全部脱ぎ捨てた後の、芯だけが残ったような静けさだった。
一方のカスミは、リビングのソファに身を横たえ、クッションに頬を寄せ、どこかバツ悪そうな表情をしている。
――まるで、自分は関係ありません、何も悪くないですよ。 という感じで。
だけど、カスミがどれだけ無邪気を装い、クッションのなかに逃げ込もうとしても、遥の視線が放つ重力から逃れることはできないようだ。
静かにカスミの全てを縫い留めるように、じっとみつめている。
それはまるで自分の汚い本音をすべて遥に先回りされ、言い訳する前に暴かれているような、リビングが逃げ場のないオリになっているようだった。
「………」
そんな重たい空気の中、オレはあゆむのヒザの上の定位置であゆむの顔をじっと見つめていた。
ここなら、どんな恐ろしい話でも、怖がらずに聞いて居られそうな自分のサンクチュアリだから。
彼のしっかりとした腿の感触と背中に回された腕の力強さが かろうじてオレをこの息苦しいリビングから逃げたしたいのを留めてくれていた。
膝の上に居させてくれても、いやな顔ひとつしないあゆむにはは感謝しかないな。
オレはそんな感じであゆむの膝の上で、息を殺しながら二人を見ていると、遥はカスミを見つめたまま静かに語りだした。
「……始まりはタダの好奇心、出来心だったんだよ」
遥は、カスミから視線を離し、少し離れた窓の外の夜景に視線を向けると、目を細め、静かに夜景をみつめながら、忌々しそうな口調でさらに続けた。
「でも、イカレタこの世界はそんな子供の出来心すら全く許しはしななかった。 その子を性的に搾取される獲物へと落とす口実にされたんだよ。
――年端もいかず、何もわからない子供をさ……」
遥の感情をそぎ落とした声が、リビングに静かに溶けていく。
その横顔に、怒りはなかった。あるのはただ——怒りを通り越した先にある、冷えた何か。
オレには遥さんの表情の本当の意味は分からない、けど、その瞳に映るのは果てしない悲しみの色だけだった。
どんなことを知れば、そんな重い表情ができるのか? そんな感じの深い憂いをおびた気配だった。
それをきっかけにして、海くんの過酷な運命を語りだしてゆく。
余りにも残酷な、海くんの絶望の物語を
”
「少し昔のことなんだけど、性のことなんて何ひとつ知らない、ただ純粋に世界が面白くてたまらない、好奇心の旺盛な、ただの男の子がいたんだよ
――どんなものでものぞき込んでしまうような、好奇心のカタマリみたいな子がね」
遥はそこで一度、言葉を止めた。
オレは、あゆむの膝の上で、その言葉をぼんやりと聞いていた。
——好奇心のカタマリの子供。
オレはなんとなく、想像できた。
自分が思うがまま虫を追いかけて、穴をのぞいて、知らない道に迷い込んで——世界のすべてが面白くてたまらない、そういう子。
悪意なんて、どこにもない。ただ、世界が面白かっただけの子供。
クラスによくいる普通の元気な男の子だったのだろう。
でも、本人は何にでも夢中になりすぎるせいで、たまにトラブルを起こしちゃうようなタイプだったのだろう。
もっとも、本人はただ楽しいだけだから、何が危ないのかも分かってないんだろうけどね。
「けれど、その真っ直ぐさが、一番残酷な形で牙を剥いたんだよ」
そんなオレの想像を見透かすように、遥は小さく息を吐くと、外の夜景を見つめたまま、静かに言葉を継いだ。
「その子はある日、好奇心が抑えきれなくて女風呂を覗いてしまったんだ……。
もちろん悪気なんてあるわけはない、ただの純粋な好奇心だよ。
そしてそのコはそこから撮った写真を——悪意もなく、武勇伝みたいにSNSにUPしたんだ」
遥の語りは淡々とした声だった。
裁いているのではなく、ただ事実を置いていくような語り口だった。
「………」
その淡々とした語り口に、オレは表情を固めてしまっていた。
もしかしたら自分でもやったかもしれない、そう思ってしまったからだ。
学校で面白いものを見つけたら、すぐにスマホを向ける、いい写真が撮れたら、誰かに見せたくてSNSに投下する。
そこに「悪意」なんてこれっぽっちもある訳はない。 あるのは「見て見て!」っていう、ただのコドモっぽい承認欲求と好奇心だけだ。
だから、「ただのイタズラ」で済まされる一線を、その子は軽々と飛び越えてしまったんだろう。
きっとその瞬間の彼にとっては、女風呂の脱衣所もカブトムシのいるクヌギの木も、同じ「ワクワクする冒険の場所」でしかなかったんだろう。
そして、見つけたカブトムシを投稿するような純粋な承認欲求で、お風呂のなかにうつる少女の裸の画像を投稿したのだろう。
もっとも、ソレは、許されない重罪なんだけどね。
そのコにとっては判りはしない、判る筈もない、その後の罪の重さも。 何もわからない子供なのだからね。
でも、世界はそんな事は許しはしない、性犯罪を犯した極悪人としてただ裁かれるだけだ。
善悪の区別がつかない真っ白な心が、デジタルという劇薬に触れてしまったあとの地獄の光景を想像してオレはあゆむの膝の上で小さく身を固くした。
それが 子供でもどんな恐ろしい事になるか、うっすらと想像がついてしまったから。
「……ノゾキをやったその時点で、コドモでも既にアウトでしょ……?
それを自分のカラダで償うのは当然よ」
そうカスミが忌々しそうに、呟くのをビンカンなオレの鼓膜がとらえた。
遥は、カスミのその姿を一瞥し、
「確かにカスミが言うように、ノゾキや投稿することって、もちろん許されることじゃないけど——子供の浅はかな好奇心から始まった間違いで本当に子供らしい、愚かで、残酷なくらい無垢な、一瞬の過ちだったんだ。
――もちろん、その場でスグに少年は見つかって女性たちに捕まったよ」
遥はそう言うと、忌々しそうに小さく息をつき、ウデをくみ、夜景をみながら さらに言葉を継いだ。
「カスミが言うように、あの子がやったことは許されることじゃないけど、昔なら、酷く叱られて終わりのような、無邪気なイタズラだよ。
アタシなら、そのコを軽くひん剝いてやって、恥ずかしい姿に拘束し、フルチンマッパの写真を撮って「コレでおあいこだね?」、と言って、解放するくらいの悪戯だよ?」
その言葉にオレは思わず苦笑しそうになった。
はだかにして恥ずかしい写真を撮るなんて遥さんらしい、けど、それがオアイコというモノだよね。
遥さんは、忌々しそうに表情をゆがめながら、忌々しそうに さらに言葉を継いだ。
「……でも、この歪んだ世界の『正義』は、そんな過ちすら容赦はしなかった」
声のトーンが、一段落ちた。
「「正義」や「正しさ」の名の下に、一度でも失言した人や価値観の合わない人を徹底的に社会から抹殺(排除)しようとする、不純なものを許さない「秩序の狂気」の名のもと、少年は健全な育成のために保護するという名目で司法の場に送られたんだ。
司法の場では、未成年であっても、年端も行かない少女の裸を撮影し、世間に拡散したことは悪質だ。
様々なテストの結果、この子はこのままでは将来的に性犯罪者の恐れがある。 今の内から保護施設に送って更生の必要がある、って判断されたんだよ」
遥の言葉に、リビングの空気が、じわりと重くなっていく。
――将来、性犯罪者の恐れがある。
遥さんの口から出たその言葉は、あゆむの膝の温もりを奪い去るほど冷たくて、鋭かった。
ただの好奇心が、法律というフィルターを通った瞬間に、取り返しのつかない「汚れ」に定義し直される。
カブトムシを捕まえるのと同じワクワク感でシャッターを切ったはずの指が、気づけば相談室のライトに照らされ、一生消えないレッテルを貼られているんだ。
「更生」なんて、聞こえはいい。
でも、それは「お前はもう普通じゃない」って烙印を押されるのと同じだからね。
想像して、吐き気がした。
もし、オレがその場にいたら。
「悪気はなかったんだ」って泣きながら叫んでも、大人の「正義」はそれを、反省の色がないっていう証拠に書き換えてしまうんだろう。
一度でも「そっち側」に分類されたら、もう二度と森を駆け回るような「ただの子供」には戻れないんだ。
遥は、あゆむのヒザにいるオレをチラリ見て、
「その表情きょうこちゃんも判って居るようだけど、そのコが送られた保護施設は、
『様々なテストの結果、粗暴な特性があり、このままの男の子のカラダでは将来、性犯罪の危険性が高い』なんて理不尽なレッテルを貼り、錦の御旗である改正少年法をタテにして、その子を問答無用で人権を奪い、薬を打って、将来の性犯罪者になる可能性の治療という口実で、本人が何も理解できないうちに女の子のカラダに作り変える判断を下したんだ」
遥はそこで一度、深く息を吸った。
「大人が天使にされるのと同じように。何の権利も持たない、天使という立場の少女にね」
遥がいまいましそうに其処まで喋ると室内に静寂が落ち、リビングの温度が一気に数度下がったような錯覚に陥った。
遥さんが話した、『世間の事を何も知らない落ち度がある子を、法の下に徹底的にいたぶる』という、世界の残酷なルール。
その事に気が付いたオレの背筋を、見たこともない地獄の風が吹き抜けていく。
――まるで何も考えていない、ブラックバイトとかで安月給でこき使われるという散々な目にあわされた自分の過去をみているようだったから。
オレはあゆむの腕をぎゅっと握りしめた。カレの体温だけが、今の自分を現実に繋ぎ止めているような気がした。
「きょうこちゃんも分かったようだけど……何も知らないのは、とても恐ろしい事なんだよ」
遥さんはゆっくりと立ち上がり、冷え切った窓の外を見つめる。
その瞳には、夜の闇よりも深い、底知れない冷たさが宿っていたけど、その意味はオレには理解できなかった。
「法はね、正義の味方なんかじゃないの。『法を凶器として使いこなせる者』だけの味方なんだよ。
知識がある側からすれば、目障りな相手を罠に嵌めて、合法的に人生を終わらせることだって自由自在、そのコを死刑台の階段を、それとは気づかせずに笑顔で登らせることだって簡単にできる。
きょうこちゃんのような世間知らずな子がその標的に選ばれたら、抗う術なんて一つもない。 その知識のある人間のオモチャにされるだけなんだよ」
遥さんは、あゆむとオレを一瞥すると、表情を曇らせ、夜景をみながら更に言葉をつづけた。
「その子もそうなった。 その子は、自分が女の子にされる——天使刑の意味さえ分かってなかったんだ。 大門女医の説明にもきょとんとしていたけど、
大門先生から丁寧に説明をしてもらい、その天使刑の本当の意味、『自分が女のコのカラダのされる』と聞いた時に、初めてその処置の意味を理解してガタガタ震えだしたんだ。
自分が女の子のカラダに作り替えらる恐怖に まるで生まれたの小鹿のようにね」
遥の声は揺れなかった。揺れないように、保っているのかもしれなかった。
感情を込めず、ただ淡々と事実を語ってゆく。
「そうしたら大門先生は、その子を優しく抱きしめて落ち着かせると——こう言ったんだよ。
『怖がらなくてもいいわ。……これは罰なんかじゃないから。あなたの中に眠っていた本当の姿を、私が引き出してあげるための儀式なんだから』、と大門先生は本当に優しい声で言ったんだよ。」
遥は目を伏せながら、言葉を続けた。
「でも、その優しさは、まるでナイフの刃をそっと喉に当てながら『動かないでね』って囁くような屠殺される家畜に向けるような残酷な優しさだったんだ」
遥の肩が、かすかに揺れながら更に続けた。
「そのコは頭では理解しようとしてる。でも心が拒絶して、ただただ震えてる。
恐怖で涙も出なくて、ただ目が大きく見開かれて、声も出ずに唇が小刻みに震えていた——そんな子に、大門先生はゆっくりと頬を撫でて、こう囁きながら注射をしたんだよ」
遥の声が、低く静かになった。
「『最初は少し痛いかもしれないけど、すぐに慣れるから。君が覗いた女の子の気持ち……これからは、君自身がそれになるんだよ』——まるで子守唄みたいにね。
そして、『これから君は、性犯罪を犯さないように女の子の体になって、女の子として生きていくの。
それが君の新しい人生の始まりだから。
悪いことした罰じゃなくて……君を、もっと優しく、もっと綺麗に、悪いことしないように守ってあげるためのものなのよ』
大門女医はそういうと、少年にクスリを注入し意識を失わせると、カレをラボの中のタンクに沈め、
意識のないまま、数週間の時間をかけて少女のカラダに変えられて行ったんだよ」
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「そして目覚めた時は、少女のカラダになってベットの上で目を覚ましたんだ」
遥さんの話を聞きながら、オレの胸の奥で、何かが締めつけられるような感じがしていた。
自分が、あの処置を受けた時と殆ど同じだったからだ。
オレは、天使刑が決まった後、送られた施設に送られた時、最初の検査という名目で採血されて、其のついでにクスリを投与されると、そのまま眠くなって意識を失ったんだった。
そして、ソレからは朧げな意識のままタンクに漬かっているような夢を見て居た。
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それは水中で夢と現実の境目のような感じで、現実とは思えないような不思議な感覚だった。
そして、気が付いたら、オレはベットの上で横になっていた。
――体の変化にも気がつかないままに。
そして、窓に視線を移すとガラスに映っていたのは見たこともない少女の姿だった。
その姿が自分とは信じられなかったオレは、フトンをはがし視線を窓からベットに落とした。
しかし、視界を変えても、目につく細い太もも、肌を撫でる病衣の軽やかさや、太腿の内側が擦れる柔らかな感触が、否応なしに「変貌」を突きつけてきた。
「えっ……ウソだろ……」
オレは脚を大きく開く。
其処に目に映ったのは、女子高生が身に着けるようなリボンのついた可愛いショーツ。
その上は何の膨らみもない。
「まさか……ココは……どうなってるんだろ……」
オレは足を大きく開きショーツ越しに、指で感覚を確かめる。
ソコは何もなかった。
ただの指が触れたのは、滑らかな布の平坦さだった。
「そんな……ウソだろ……」
オレは縋るような思いで、震える右手を胸元に滑り込ませた。
いきなりショーツの中を確かめる勇気がなかったから。
もしかしたら、勘違いかも知れない、そう信じたかった。
「……っ」
意を決し、震える右手を胸元に滑り込ませた薄い布地の向こう側。指先が触れたのは、瑞々しいほどに柔らかな肉の塊だった。
かつてのソレなりに固かった筋肉の感触はどこにもない。
指を沈めれば、吸い付くような弾力とともに、容易くその形を変えてしまう。
手のひら全体でその重みを確かめると、掌から溢れ出すような肉の質感が、脳の奥に直接「お前は女になったのだ」という信号を叩き込んできた。
指先がその頂――敏感に尖った突起に触れた瞬間、背筋に電流のような熱が走った。
それは、男だった頃には決して持ち得なかった、過剰なまでの感受性。自分の身体を触っているはずなのに、まるで誰かに愛撫されているかのような、屈辱的で甘やかな疼きが全身を駆け抜ける。
「嘘だ……こんなの、オレの体じゃない……」
否定したくて、今度は左手を力任せにショーツの隙間へとねじ込んだ。
そこは、男としての尊厳が宿っていたはずの場所。
「えっ………」
だが、指が触れたのは、滑らかな皮膚の平坦さと、湿り気を帯びた未知の亀裂だった、あるべきはずの「重み」が、跡形もなく消えている。
オレは、何度も、何度も、確かめるようにそこをなぞった。
しかし、指先が捉えるのは、複雑に重なり合った柔らかな粘膜の感触と、自分の中から溢れ出す微かな体温だけだった。
股間に感じていた確かな存在感が、ぽっかりとした虚無に変わっていて、 脳は「異物だ」と叫んでいるのに、指先から伝わる快感に近い痺れは、皮肉にもこの新しい肉体が完璧に機能していることを証明していた。
「ぅ……」
指先を抜くと、そこには透明な雫が光っていた。
自分の意志とは関係なく、ただ「処置」によって改造された肉体が、物理的な刺激に反応している。
そして、指先から漂うのは、かつての汗臭さではなく、あの時、木戸あゆみのアソコを顔面に押し付けられ窒息させられそうになった時に感じた、どこか甘く、本能を揺さぶるような女特有の匂いだった。
その事実は、鏡を見るよりも、声を聞くよりも、残酷に俺の心を打ち砕いた。
もう、この肉体は男を迎え入れるための「器」として完成してしまっている。 あの時の彼女と同じ肉体になっている、と。
「そんなの、やだよ……」
オレはその場に崩れ落ち、震える手で自分自身の肩を抱きしめた。
でも、抱きしめれば抱きしめるほど、腕の中に収まる体の曲線が、その柔らかさが、俺がもう二度と元れないと告げ、指先に残る、ぬめりとした熱い感触。それが、妄想でも夢でもないことを脳に強制的に分からせてくる。
だが、まだどこかで「これはユメで勘違いだ」という、往生際の悪いキボウが消えない。
「………そんな事はある訳はないよ……きっとココには……」
これが悪い夢だという可能性が、まだコンマ数パーセントでも残っているなら、この目で確かめるしかない。
俺は縋るような思いで、腰を覆う薄い布地に手をかけた。
震える指先がウエストのゴムを掴み、ゆっくりと、祈るような絶望を込めてそれを引き下ろし、床に放り投げる。
床に落ちたショーツの軽い音さえ、今の俺には断頭台の刃が落ちる音のように聞こえた。
其のまま脚を開くと、カラダの中心に冷たい風がスッと吹き込む感覚が伝わった。
「……あ……」
視界を遮るものは、もう何もない。
視線を落とした先。そこには、かつて俺が自分自身を定義していた「証」が、欠片も残っていなかった。
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そこにあるのはなだらかに膨らんだ恥丘と、美しく整えられた柔らかな産毛、そして、秘められた場所を閉ざすように重なる、瑞々しくも生々しい二枚の肉の花弁。
オトコの象徴だった隆起は、跡形もなく削ぎ落とされ、代わりに吸い込まれるような「深い裂け目」がそこに刻まれていた。
股間のラインは滑らかで、足の付け根の隙間から向こう側の景色が見えるほどに細くなっている。男としての骨格さえも、処置の過程で「作り替えられた」のだという現実を。
「………」
オレは、股を割り、信じられない思いでその中央に指を這わせる。
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指先が割れ目を割り、熱を持った粘膜に触れる。
自分の指が、かつては想像もできなかった深みへと沈み込んでいく感覚。
指を動かすたびに、腹の底がキュンと疼くような、女特有の痺れるような感覚がせり上がってくる。
それは「オレ」の意思とは無関係に、この肉体がすでに「女として生きる準備」を終えているという残酷な証明だった。
「ウソだろ、だよね……!」
オレは必死に、そこに何かが隠れていないか、ただ奥に引っ込んでいるだけではないのかと、狂ったように探り続け、半ば自暴自棄な気持ちで、その未知の場所に中指をあてがった。
恐る恐る指を少し沈めると、そこは驚くほどに熱く、吸い付くような湿り気を帯びていた。入口はまだ固く、自分自身の指を受け入れることさえ拒むように狭く閉じている。
「う、く……っ……」
指が第一関節半分まで潜り込んだとき、脳を突き抜けるような鋭い痛みと、それを包み込むような鈍い圧迫感が襲った。
男だった頃には知るはずもなかった、内側から押し広げられる感覚。
指をさらに奥へと進めようとすると、そこには薄く、しかし確かな抵抗――処女膜という名の障壁が、 オレの「女としての純潔」を証明するように立ちはだかっていた。
迷い込んだ指が、粘膜の熱に包まれる。男だった頃には想像もできなかった、吸い付くような、そして驚くほど繊細な神経の集積。
少し力を込めて押し入ってみると、処置を受けたばかりの未熟な肉体は、物理的な拒絶反応として、キュッと指を締め上げた。
「痛っ、あ……っ」
指一本を迎え入れるだけで、内側が引き裂かれるような鈍い痛みと、それを塗りつぶすような鮮烈な熱が走る。
狭く、硬く、そしてどこまでも清らかな、一度も他人を受け入れたことのない処女の証。
その抵抗感が魂の奥に「お前はもう男ではない、受容するための器なのだ」という事実をいやおうなしに叩き込んでくる。
引き抜いた指先には、粘り気のある透明な蜜と、微かな痛みの残滓が纏わりついていた。
それを目の前で見つめる俺の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「……本当に、処女のカラダになっちゃったんだ、オレは……」
その言葉は、もはや絶望を超えて、虚無に近い響きを帯びていた。
「処女」という、かつての自分とは対極にあったはずの概念が、今、この新しい肉体の中心に厳然と存在している。
そして誰かに奪われるまで、自分は処女として生きていかなければならない。
守るべきものも、誇るべきものも、すべてこの「処置」という名の暴力によって、取り返しのつかない形で塗り替えられてしまった。
――それが、天使刑なんだ。
オレは自分の罪をあらためて感じると、再びショーツをたぐり寄せ、震える体でそれを履き直した。
布地が敏感になった新しい肉体に触れるたびに、自分が一歩ずつ、引き返せない奈落へと足を踏み出していることを、しみじみと痛感していた。
息が荒くなり、胸の膨らみが、呼吸とともに上下に揺れる。
股間の虚無が、冷たい空気を含んでかすかに冷える。
オレは、ベット上で女の子座りでペタンと座り込み、自分の変貌に打ちひしがれていたその時、ドアがガチャと無遠慮な無機質な音を立てて開いた。
「あら、もう起きたの? 気分はどう?」
現れたのは、整った顔立ちを冷徹な瞳の奥に隠した、白衣姿の女医だった。
でも、ただの女医では無かった。
彼女の肩から滑り落ちそうな白衣の下には、鮮やかな赤のランジェリーが、まるで意志を持つ火花のように肌を彩っている。
しかし、その大胆な装いに反して、ピンクの髪から覗く瞳は、春の陽だまりのように穏やかだった。
「私は、普通の患者には、そうやって笑顔で自己紹介はする。けど、大人の性犯罪者であるアナタにはその必要はないわね」、と言葉を区切り、視線で殺せそうな鋭い視線になると、
「あの時は紹介できなかったけど、私は、「女医、大門 玲子」専門は婦人科、得意分野はアンタのような外道の女性への性転換手術、これからアナタのカラダの適合具合を確認させていただくわ。 胸の張りや、アソコの違和感はどう?」
「………」
俺が答えられずに、剥き出しの現実を隠すようにシーツを握りしめていると、彼女は慣れた手つきで俺の側に寄ると、迷いなくそのシーツを剥ぎ取った。
「抵抗しなくていいわよ。これからあなたの『新しい体』が正常に機能しているか、隅々までチェックしなきゃいけないんだから」
彼女はオレのカラダを、まるでモノでも見るような鋭い目つきで見下ろすと、オレの絶望など意に介さない様子で、手慣れた手つきでカルテをめくりながらベッドへ近づいてくる。
「……っ」
オレは反射的に病衣の裾を合わせ、自分の体を隠そうとした。
だが、彼女の視線はまるで検体を見るかのように冷ややかで、逃げ場を許さない。
「そう怯えないで。これからはその体と付き合っていくのよ。さあて。最終的な検査を行うわ」
オレは拒否する間もなかった。
彼女は流れるような動作で俺をベッドに押し戻し、無造作にタオルケットを跳ね除ける。
かつては他人に晒すことなど考えられなかった、オレの「女の肢体」が、無機質な蛍光灯の下に曝け出された。
「……っ、やめろ……触るな!」
オレは、悲鳴に近い声を上げたが、女医は眉ひとつ動かさない。
「暴れないで。術後の経過を確認するのは、天使刑に処されたあなたの義務よ」
彼女の手が、まずは俺の胸に触れた。ゴム手袋の冷たい感触が、先端指先で乳房の形を整えるように回し、敏感になった中心の突起を親指でグッと圧迫する。
ピクっとした鋭い痛みが走る。
「痛っ!」
「乳腺の発達は良好。綺麗な形に仕上がっているし、ハリや痛みも時期にひくわね」
女医の品定めするような言葉が、俺の自尊心を削り取っていく。
俺は慌てて乱れた衣服を整えようとしたが、身体に力が入らない。
女医は慈しむような、それでいて抗いようのない拒絶を許さない微笑を浮かべ、逃げようとする俺を再びベッドへと促した。
「さあ、横になって。天使刑の『処置』が理論通りに変成しているか、全身の最終チェックを行うわ。恥ずかしがることはないわよ。今のあなたは誰よりも美しく、完璧な存在に生まれ変わったのだから」
「あっ……」
聴診器の冷たい金属が、敏感になった肌に触れるたび俺の肩が小さく跳ねた。
女医はカルテに何かを書き込みながら、流れるような動作で俺の腰に手をかけ先ほど履き直したばかりのショーツに指をかけた。
「……あ、やめ……っ!」
「動かないで。一番大切な『機能』の確認よ」
そして、彼女の手は躊躇なく、俺が先ほど絶望とともに確認した「股の間」へと伸びた。
女医は無慈悲に、俺の膝を左右に割り開いた。
先ほど自分で触れた時とは比較にならないほどの羞恥が、顔を真っ赤に染め上げる。照明の下で、処置を終えたばかりの未熟な裂け目が、無防備にその姿を露呈していた。
「もっと脚を広げて。力を抜かないと痛むわよ」
オレは、抵抗する間もなくオレの太ももは強引に、しかし慣れた手つきでさらに左右に大きく割られる。
屈辱に顔を歪め、奥歯を噛み締める。羞恥に顔を焼かれ、顔を真っ赤にしながら腕で目を覆う。
だが、視界を塞いでも感覚は研ぎ澄まされる一方だった。
「――!」
女医は指に冷たい潤滑ゼリーを塗りつけると、躊躇なく、俺が「処女」であることを確認したばかりの その場所へ、指を深く差し込んだ。
内側の粘膜が無理やり押し広げられる、特有の圧迫感と鈍痛。
「ひっ……あ、ぐっ……!」
「少し窮屈そうね。 でも、いい反応ね。括約筋の緊張、粘膜の湿潤度、それに……処女膜の形成も完璧だわ。
少し痛むのは、そこがまだ誰にも許していない、純潔な場所である証拠ね」
彼女の指が、内側の最も敏感な壁を執拗に弄り、広げ、感触を確かめていく。
自分の内側が、他人の指によって蹂躙される。その物理的な圧迫感と、否応なしに突き上げられる女としての感覚に、俺はカラダをエビぞりに反らせ、ただシーツを口に含んで耐えるしかなかった。
「んん~~!」
オレは、初めてのシゲキにびくっと体が震える。
でも彼女は容赦なく、しかし医療的な正確さで、その未開の粘膜を押し広げた。
だが、それ以上に恐ろしかったのは、その侵食を受け入れるしかない自分の肉体の「柔らかさ」だった。
「ええ、問題ないわね。内性器の形成も完璧」
女医は内部の状態を念入りに探り、時に指を動かして、造形されたばかりの器官に異常がないかを執拗に確かめていく。
「……ひ、ぅ、あ……っ」
女医の説明なんかオレの耳に入いらず、アソコを内側をかき回されるような異物感、と嫌悪感。
指が抜き差しされるたびに、男だった頃の記憶が、上書きされるように削り取られていく。
「あっ!!」
女医の指が、奥の柔らかな突き当たりを確かめるように強く突くと、俺の口からは自分でも信じられないような、甘く高い嬌声が漏れた。
恥ずかしくて、そのまま死んでしまいそうなくらいだった。
やがて指が抜かれると、ぬちり、という卑猥な音が静かな部屋に響いた。女医は手袋を脱ぎ捨て、満足げに微笑んで頷き、絶望に打ちひしがれて震える俺の頬を、母親のような優しさで撫でた。
「おめでとう。心配しなくてもいいわ、処置は無事済んだわよ。あなたは今日から、完璧で、美しい、清らかな女の子になったの。天使刑という慈悲を受けて自分の犯した罪を償う準備が整ったのよ」
「………」
「これから少しずつ、この体の使い方を覚えていってもらうことになるけれど……。
まあ、カラダの濡れ具合からみて順応の早いコだから心配ないでしょう、後は小梨さんに任せましょう」
女医が去った後、俺は再び独り残された。
股間の奥に残る異物感と、熱い疼き。
オレは、再び訪れた静寂の中で、暴かれたままの股間を震える手で隠した。
「無事」という言葉がこれほどまでに残酷に響くことを、俺は知らなかった。
清らかだと言われたこの体は、もはや俺の意志で汚すことすら許されない、管理された「商品」のような空虚さを湛えていた。
――復讐する権利を持った人間に、清純を力ずくで奪わせるために……。
自分の犯してしまった事件の重大さを、この時初めて気が付いて、泣けるだけ泣いたんだった。
そして、其の後あゆむと出会い、フェリミスに入れられたんだったな……。
そんな自分の事を思い出していると、遥さんは海くんのその後を語りだした。
「そのコは女の子に変えられても、心は男の子のままだったんだ」
遥はそこで一度、「想像してみなよ」、と、言葉を切り、涙を浮かべながら更につづけた。
「柔らかく膨らみ始めた胸のまだ初々しい重み。 服が驚くほどぶかぶかに感じられて、布地が肌に擦れるたびに電流みたいな震えが脊髄を駆け上がる——そんな、カラダの変化が一気に来たらどうなるか?
もう、パニック状態だよ? そんな体の状態で、「女のコらしくしなさい」と言っていきなり女の子の仕草をさせるんだよ……出来る訳ないに決まっている」
遥は、そこまで吐き出すとため息を一つ吐いた。
オレの場合は、あゆむが手取り足取り、ブラやショーツの選び方、女の子の仕草や女子の中で浮かないようにやっていく方法を教えてくれたんだったよな……。
だから、オレは普段の生活でなにも戸惑ったことは無かったけど、変えられたコはほんの子供だったんだよな、そんな子供だともっと大変だったのだろうな……。
そう考えると、あゆむには感謝の気持ちしかわかないな。
そんな事を思っていると、遥さんは、窓の外の夜景をぼんやりと見つめながら、静かに言葉を続けた。
「その子……もう『彼女』と呼ぶしかないんだけど、施設での決まった期間の『治療期間』が終わって、
新しい戸籍と名前、海という読み方だけを変えて、「まりん」という名前をもらって、小学校に編入され通い始めたのは、変化が始まってから約3か月後だったんだ」
「柔らかく膨らみ始めた胸のまだ初々しい重み、そして自分がきる服が驚くほどぶかぶかに感じられて、布地が肌に擦れるたびに電流みたいな震えが脊髄を駆け上がる——そんな、なれないカラダの変化に戸惑いながらも必死で生きていた。 それが「海という子だったんだ」
でも、その姿をジッと見つめる、悪意の視線がある事を海は知らなかったんだ。
自分の事を不審におもって、牙にかけようとする悪意がある事をね。




