アルベラン 一
ちょっと見切り発車だったこともあり、練り直したいので一端引き下げようかと思います……(申し訳ない
短編からがっつり長編にしよう、と考えたのは良いものの、物語と戦記の比重を誤ったことに途中で気付いて、方向転換しようとしたら交通事故した感があり。
物語的な導線を序盤できっちり張れなかったのがこの辺りで利いてきていて、どうにもしっくりこない原因になっているのかなと。
現状戦記であっても物語にはなっていない、という感じが自分で強くなってちょっと限界に……(
ちょっと休んで落ち着いたらお馬鹿なお話でも書こうと思います……。
楽しんで下さっていた人には申し訳ないです。
負けるはずなどない戦であった。
その部族は手先が器用なことだけが取り柄の者達。
他の部族に媚び、平伏することで生きながらえてきた、矜持の欠片もない軟弱者。
エンレイネ――かつて名付けられた蔑称のとおりの日陰の民。
ベルナイク率いる大族アルドスに対して、本来頭を上げることも許されはしない。
だというのに、この一年の態度は目に余るもの。
何を思い上がったか、金の対価なくば武器の提供を取りやめるという世迷い言まで口にし、こちらの使者を切り捨て、馬にその首を括り付けて帰したのだ。
一族を滅ぼすに足る侮辱であった。
それがアルドスの大族長――ベルナイクの代に起こされたというのは末代まで残る汚点と言える。
自身の代にてこのアルドスを史上空前の大部族にするという、ベルナイクの輝かしい未来に泥を塗りつけたのだから。
優美な金の髪を木々の木漏れ日に輝かせながら、勇壮なる戦士達を引き連れ、ベルナイクが向かったのはエンレイネの土地。
戦場となったのは森の中でも少し開けた空間であった。
愚かにも現れたエンレイネの腰抜けは精々が百人――不格好なほどに長い槍を抱え、身を寄せ合うように規則正しく立っていた。
――まともに戦えぬからと得物の長さで勝ろうとしているのだ。
それを見て皆が笑い、ベルナイクも同様。
己が出るまでもないとその手柄を戦士達に譲ることを決めて、馬上のまま後方に。
そうして命令と共に走り出す三百の戦士達を眺めていると、違和感を覚えた。
すぐさま乱戦になり、虐殺となるだろう。
そう考えていたベルナイクの想像とは真逆――長槍を構えたエンレイネの男達は戦士達が間近に迫ると、角笛の音と共に一斉に槍を構え、隙間なくその先端をこちらへと向けたのだ。
集団で向かっていった戦士達はその勢いを殺しきれず、一分の隙もなく統制の取れた槍の壁に命を奪われ、夥しい悲鳴を上げる。
一瞬で最先頭を走った数十の手練れが死に、その背後にあった者達も同様。
二の足を踏んだ彼らに対し、再度角笛が鳴り響くと、エンレイネの男達は槍を構えたまま整然と行進を始める。
前方と頭上に槍を突き出すような構え。
猛者と呼ばれる戦士であっても、それを飛び越えて切り込むことは中々出来ない。
「これは……」
戦士達はじりじりと下がり、それを見たベルナイクが叫ぶ。
「一度距離を取れ! あの長さの槍だ、容易に振り回せん。左右の森に入って多方向から――」
咄嗟に指示を飛ばそうとすると、弦の音。
左右の森からいつの間にか現れた男達が、槍の圧に怯んだ戦士達へと無数の矢を放っていく。
正面の槍に気を取られていた男達はそれに気付けず、次々にその矢で射貫かれ倒れていった。
そこでようやく、これがあらかじめ組み立てられた策だと気付いた。
前方の槍に意識を引きつけ、左右に隠れさせた弓兵で殺し損ねた戦士を殲滅――脆弱なるエンレイネの男達ではアルドスの戦士には勝てないと理解した上で、その油断を誘って勝ちに来たのだ。
死者の首を使った挑発も、恐らくはその一つ。
戦士の誇りもなく、卑劣極まりない戦い方。
「卑劣な……! 俺が出る、お前達は俺に続け!」
歯噛みし馬上から飛び降りると剣を引き抜き、頭上に掲げる。
多くが死んだが、しかしそれでも十分。
仮に戦士が百人死んだなら、自分が百人を斬り殺せば良い。
所詮はそれだけのことであった。
そうして前へと踏み出そうとし――直感的な思考が走る。
果たして、この卑劣な相手はここからの乱戦を望むだろうか。
――決めに来るはずだと考えた瞬間、背後の気配へ振り向きざまの剣を放つ。
音もなく踏み込んでいた大柄な男はその一閃を避けて躱した。
百人いれば百人を切り裂く一閃を、あっさりと躱してみせる腕前。
「……貴様がエンレイネの族長、ミツクロニアか」
六尺三寸の長身、黒髪をした精悍な顔。
猛禽のような鋭いその目を眺め、ベルナイクは笑みを浮かべる。
「今の剣を躱したところは褒めてやる。卑劣な手を使う小物と思えば、噂通り中々の手練れではないか」
「残念ながら、族長は先日、ふさわしい方にお譲りしたところです、大族長ベルナイク殿」
「……譲った?」
「そう。……我らが待望せし、神の子に」
ミツクロニアが現れた後方ではなく、今度は前面に展開していた戦士達の悲鳴が響く。
眉をひそめてそちらを見ると、現れたのは銀の髪をした美しい少女であった。
夥しい返り血を浴びて、その髪色はもはや赤へと変わっていたが。
「初めまして、あなたがベルナイクかしら」
子供であった。
恐らくは十を少し過ぎた程度だろう。
普通の長剣でさえ不釣り合いな背丈――長衣一枚とネックレスのみを身につけたその体には、女としての発育すらも見えない。
その中でただ、紫色の大きな瞳だけが、ぞっとするような輝きを見せていた。
「わたしはバザリーシェ。……アルベランとして、あなたとアルドスに対し、恭順を求めます」
「……アルベランだと?」
「ええ。今日からは、あなた方の長ですわ」
神の落とし子――神の世界から地上に降り立ち、人々を率いて導く者。
伝承の一つで、下らないお伽噺。
そしてそれを自称し、世迷い言を口にする者は過去にも多くいたと聞く。
「戯れ言を……とはいえアルベランを名乗る以上、子供相手と容赦はしない」
「残念ですわね」
ふっと彼女の体が沈み、ベルナイクは咄嗟に剣を走らせる。
しかし一瞬で距離を潰しながらも、ベルナイクの剣をすり抜けるように少女は足元に――ベルナイクの首へとその切っ先を突きつけていた。
「わたしの方が強くて、弱いのはあなた。これで認めてくださるかしら?」
「っ……」
「改めて決闘をと望むのならば、何度でも応じてあげますわ。……でも、ひとまず今日はわたしの勝ちということでどうかしら」
思わず言葉を失った。
少なくとも剣において、周辺世界に敵う者なし。
『輝ける者』との二つ名通り、才に恵まれ、他を圧倒する剣腕を誇るベルナイクを、少女は容易に圧倒していた。
「無意味なことは嫌いですわ。あなた方はわたしの傘下に入り、周囲の平定に協力する。ついてくるなら相応の褒美を、逆らうならば死を。あなたに与える選択はその二つ……わたしとしては前者が良いですわ。使える人間は沢山いた方が良いですもの。……ね、ミツクロニア」
「は。ベルナイク殿の存在は今後の我らにとって、大きな力となるでしょう。ここで失うのは惜しいと感じます」
「ほら、ミツクロニアもこう言ってますの」
無邪気な笑みを浮かべて剣を引き、小首を傾げて上目遣いに。
「どうかしら。……わたし、あなたとも仲良くしたいわ」
血にまみれたまま童女のような笑みを浮かべ。
幼げな響きの言葉を耳にし、その紫色を眺め、全身が震える。
ベルナイクは衝動的に、膝を突き、頭を垂れた。
「……、偉大なるアルベランへの臣従を、この剣と名に誓います。非礼をお許し下さい、バザリーシェ様」
「うふふ、許してあげますわ」
少女は一歩近づき、ベルナイクの頭を撫でる。
「……今日からは仲良くしましょう? ベルナイク」
傲慢で、何とも無邪気な子供の声であった。
バザリーシェは見た目通りの子供であった。
十二という年相応の精神性。
その立ち居振る舞いも含めて、美しい容姿を抜きにすれば一見ただの少女に見える。
ただ、その頭脳は異常と言うべきで、あらゆる才能に恵まれていた。
元々優れた職人の多いエンレイネであったが、それをこの数年で飛躍的に発展させたのはまだ子供であったバザリーシェ。
建築や炉の効率化、精錬をはじめ、外から見えない内側ではあらゆる部分が違う。
そこで打たれていた剣と貢ぎ物として渡されていた剣の品質の違いには舌を巻いた。
エンレイネの剣は元より上質なものと知られていたが、頑強さ、鋭さ共に以前の比ではなく、同じ鉄鉱石から打たれたとは思えぬ代物。
打ち合えば並の剣など青銅剣の如くに叩き折った。
若き族長であったミツクロニアは、彼女が二つの頃にその図抜けた才覚に気付き、彼女の存在が気付かれぬようにしながらも、あらゆる分野に携わらせ、内側を整えさせたのだという。
彼女こそが神の子であるのだと確信し、搾取される現状から脱するために。
「精が出ますな、ベルナイク殿」
集落の端で剣を振るっていると、現れたのはミツクロニアであった。
「……一人か?」
「バザリーシェ様は午睡の時間です。この時間は大抵……人と比べものにならんほどに頭が働いてしまう代償か、昔から人の倍ほど眠るのです」
「弱味を教えるのは愚かだな。俺が寝首を掻かないとでも?」
「あなたは誰より気高き戦士です。そんなことはなさるまい」
不機嫌そうにベルナイクは鼻を鳴らし、剣を腰の鞘に。
「その口調はやめろ。どうあれ俺は臣従した側、お前はここの戦士長だろう。馬鹿にしているつもりか?」
「あなたが敗れたのはバザリーシェ様であって、私ではない。戦士長は私よりもあなたこそが相応しいでしょう。齢十五で狼藍を討つような傑物を、私はバザリーシェ様の他にあなたしか知りません。当時耳にした時から、あなたのことは尊敬しております」
「お前の方が年上だろう」
「歳を取るだけならば誰にでも出来る。しかし、偉業を成せるものは生まれついてのものが違う。それに見合うと思えば年齢の多寡など下らぬ話です」
ベルナイクは二十五。
ミツクロニアは三十を過ぎていたが、どうにも掴めない男であった。
小人ではないが、大人物と言うには歯ごたえがなさ過ぎる。
「お前の目的が分からん。何がしたい?」
「随分直接的ですな」
「欲がないという人間を俺は信じない。あの娘は恐らく見た目通りなのだろう。大して何かを考えている訳でもなさそうだが、それを操るのはお前。お前が何を考えているかで俺のこの先も変わってくる」
睨み付けるとミツクロニアは苦笑した。
それから腰の剣を眼前に置いて座り込む。
「ベルナイク殿なればこそ、我が真名と、剣に誓って答えましょう」
その様にベルナイクも剣を鞘に。
剣を並べるように置いて座り込む。
「ここに、国を造りたいのです」
「……国?」
「そう。現状をどう思われる? 数多の部族に分かれ、縄張り争いに終始する人の姿を」
ミツクロニアは嘆くように言った。
「強さのみが価値。我らは二本足で立つだけのけだものだ。強きあなたがこの先いかに部族を束ねようと、いずれは老い、死を迎える。その時、弱き者が後を継げばアルドスも分裂するでしょう。……栄えては衰え分かれて、我らはそれを何千年と繰り返して来た。進歩がないとは思われませんか?」
「必定だろう。永久に続くものはない。お前の言う国とてそうだろう」
「しかし、一歩先へ進むことは出来る」
例えば技術です、と剣を示す。
「一人の力は永遠ではない。ですが、ここで生まれた鍛冶の技術は代を重ねて続いていく。先日の戦いはいかがだったでしょうか?」
「戦士として恥ずべき卑劣な戦い方だ」
「そう、卑劣な戦いです。しかしこの集落の戦士とも呼べぬ者達は、矜持を捨てることでアルドスの勇壮な戦士達さえも打ち負かしました」
不快を露わに睨み付けると、ミツクロニアは苦笑し首を振る。
「無論バザリーシェ様がいなければ、あそこからでも分からぬ勝負であったでしょう。しかし、個に頼った武勇を捨て、集団が一個になることで強さを得たことは事実。戦士になれぬ弱き民であっても、束ねれば戦士に勝ると証明した一戦でした。……私は誰よりもあなたにこそ、あれを見せたかったのです」
「……何?」
「だからこそあの場での戦いを望みました。バザリーシェ様はご覧の通りアルベラン……単純な決闘でも済んだ話ですから」
不愉快であったが事実であった。
子供の体躯を活かした沈み込み――虚を突かれたとはいえ、それだけで潜られるほどベルナイクの剣は甘くない。
しかし、バザリーシェの切っ先は吸い込まれるように、喉元へと突きつけられた。
因果を逆転させる剣。
矢の当外が構えた瞬間決まるように、踏み込んだ時点でバザリーシェの切っ先はベルナイクの喉元にあったのだ。
殺すことより生かして制することの方が遙かに難しい。
手心を加えられた上で敗れた以上、そこに文句を言うつもりはなかった。
「五体を鍛えて巧みな剣を扱うように、集団も一個として鍛えれば一つの強さになる。そしてこの強さは代を経ても変わらず継承され、失われることがない。……個に依存した腕力ではなく、継承される技術や叡智に価値を置き、共有し、先へと進む。獣ばかりのこの大地に、人としての新たな足跡を刻んでいく。……それが、私の願う国というものです」
「なるほど。中々の野心だが……」
言って、空を見上げた。
「驕りし者を竜は滅ぼす。知らぬ訳ではあるまい」
国、というのは久しい言葉であった。
伝承伝説の遙か昔――人の一部は森ではなく、平野に出て暮らしたという。
次第にその集団は大きくなり、広大な平地にルシェランという国を築いた彼らは我が物顔で大地を支配したが、天空を舞う竜の目に留まって怒りに触れ、その一息でそこで暮らしていた全ての人間が消えた。
単なる神話の類で済めば良かったものだが、事実として竜はいる。
実際にアルビャーゲルの竜に拝謁したという老賢者は二人ほど知っていた。
魔水晶の岸壁がある窪地に眠る、小山のような巨体。
その熱気はここより北にある山の気候さえも変え、真冬であっても雪の欠片も積もらない。
伝説のように空を舞うところも、地形さえも変えるというその咆吼も見たことはないが、疑うことが出来るほど不確かな存在でもなかった。
「確かにあの娘はアルベラン。だが、神に等しき竜を相手にしては、只人とさして変わるまい」
「永き眠りに就かれて久しい。いずれ形になれば、失礼ないようご挨拶に伺うのがよいと思いますが……最後に空を舞ったのは何百年も前とか。今更我らに興味を示されることもないでしょう」
ミツクロニアは空を見上げ、目映い太陽に目を細める。
「天空から我らを見下ろせば、我らは虫けらのようなものでしょう。ベルナイク殿は、地を這う虫に腹を立てることが?」
「……目障りでなくば関わりもしないと? 楽観的な男だ」
「皆、悲観的に過ぎるとも言えましょう。木々を傘に空に怯え、何千年、何万年と過ごせば必然なのかも知れませんが……」
言って、笑いかける。
「とはいえ、どうです。怯えて暮らすはあなたの生き方ではありますまい。あなたは狼藍、翠虎にさえ身一つで立ち向かう勇士……輝ける者ベルナイクに相応しいは、木々の下より太陽の下でしょう」
ベルナイクの目を見つめながら。
「所詮命は一つ。……どうせなら怯え震えて死を待つより、愚か者と笑われようと大望を胸に、空を見上げて死にたいもの……私はそう思うだけです」
「……なるほど、お前は俺の知る限り一番の愚か者のようだ」
ベルナイクは笑うと、答えた。
「いいだろう。お前の口車に乗ってやる。この敗北の汚名はどちらにせよ、お前の口にするような、噴飯物の偉業を果たさねば落ちはせぬと思っていた」
そして剣を引き抜き、ミツクロニアの首に向ける。
「だが、このベルナイクの隣に立つのだ。お前がそれに能わぬと思えば、すぐさまその首を切り落としてやる。……それを決して忘れるな」
「……我が剣と真名――ロクルトに誓い」
その言葉にベルナイクは眉を顰めた。
「もし私が道半ばで倒れたならば、あなたがバザリーシェ様を太陽の下に」
ミツクロニアは胸に手を当てて言い、ベルナイクは呆れたように言った。
「俺の真名はお前のように軽々しいものではない」
「ええ。分かっておりますとも」
ベルナイクは立ち上がると、言った。
「今語った言葉の全てが嘘偽りなき真実であったと、証明してみせろ。このベルナイクの友として、お前が相応しい男であったならば、その誓いに俺は誓いを返そう」
ミツクロニアは笑って頷き、剣を手に取り立ち上がる。
「素振りも飽きた。剣に付き合え、ミツクロニア」
「ええ、ベルナイク殿」
エンレイネ――アルベランの集会場。
上座には銀の髪、長たるバザリーシェが座り、その両隣にはミツクロニアとベルナイク。
ここではこのように、戦士達は皆で食事をすることが多いらしい。
ベルナイクの引き連れるアルドスの戦士達と混ざり合って座り、友好を深めるという意味もあるのだろう。
ここに来てからはある種の無礼講が続いていた。
「大体、十に一つ二つというところでした。やはり剣では敵いませんな」
「んむ……、ベルナイクは中々優秀ですわね。ミツクロニアはここで一番強い戦士ですのに」
バザリーシェは頬を緩めて鹿肉を囓りながら、先ほどの手合わせの話を。
「完勝でない以上、誇れることではありません」
「なるほど、頑張り屋さんですのね。精進なさるのが良いですわ、あなたが強くなってくれるとわたしも楽が出来て嬉しいですもの」
杯に注がれたジュースを飲みつつ、バザリーシェは微笑む。
「でも剣だけじゃなく、これからはミツクロニアに戦術を習いなさい。決闘で済む相手ばかりならわたしが出れば済む話……わたしがあなた達に求めるのは、そうじゃない面倒臭い連中の相手ですもの」
当然のようにバザリーシェは言い、首を大きく仰け反らせて背後に掛けられた大きな地図を眺める。
「エンレイネとアルドス、現状の戦力は千名足らず。アルドスに恭順していたものも合わせて精々二千……これから一年の間に十倍の戦力を集めますわ」
ベルナイクが眉を顰めると、バザリーシェは笑う。
「十年後には百倍くらいにしたいですわね。ベルナイク、あなたに求めるのは戦力集め、アルベランの下に集う万の兵を集めること。まずはこれから、南のガーカをわたしに臣従させますわ」
アルドスにも戦力で勝る南部の大族であった。
それを打ち負かすことは、元々ベルナイクが考えていたことでもある。
「……ただし、あなたへの条件が一つ」
「条件?」
「そう、簡単ですわ。……その剣を抜かぬこと」
その言葉に、更に眉間の皺を濃くした。
「蛮勇ではなく頭を使って、相手を制し圧倒する……わたしが欲しいのは強い剣ではなく、それを振るう腕ですわ」
強い剣はもう持ってますもの、とバザリーシェは自分を示した。
「万を超える兵を操るために、それを動かす手足が欲しい。右腕にはミツクロニア、そして左腕にはベルナイク……アルベランの片腕になる気はあるかしら?」
子供の体にも関わらず、見上げるようで見下すよう。
宝石のような紫の瞳はベルナイクへと向けられた。
神の世界から地上に降り立ち、人々を率いて導く落とし子。
その超然とした瞳が、伝承が真実であると伝えていた。
「……承知しました、アルベラン」
――この大地へと、神の子の国を築き上げる。
それは確かに、悪くない。





