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とある人生の結末

庭の剪定が終わるまで、屋敷の傍にある小屋で寝泊まりして良いとのことでした。日が暮れ、娘を先に帰らせます。男は後から与えられた部屋に行きました。すると、コップが二つテーブルに置いてあります。


「誰か来たのかい?」

「えぇ、フードを被った男が来ていたの」

「それは怪しい人じゃなかったかい?」

「でも貴族のお屋敷でしょう?何か不敬があってはいけないから、迎えてしまったわ」

「そうか。でも簡単に気を許しちゃいけないよ」

「お父様は心配性ね」


ころころ笑う娘に、この子に何かあったらと思うだけで悲しくなってしまいます。


「疲れたでしょう?早くご飯にしましょう」

「あぁ、よろしく頼むよ」


よくできた娘は美味しい料理を作って待っていてくれました。

どうかこの子が幸せになりますようにと、今日も神様に祈って眠りました。










ようやく頼まれていた、一世一代の仕事が終わりました。

計算し尽くされた庭園は見る者の目を奪い、足を止め、その香りには心を癒す効果、蝶が舞い踊り、幻想的な風景を作り上げていました、

きっと、貴族の息子は満足するでしょう。そう意気込んで、お屋敷に行きます。


「ダメだ、これじゃあ僕は笑えないよ」


そうやって困ったように眉をひそめるのは貴族の少年でした。ベッドの上にいる、大きなお屋敷の小さな主人です。


「どうしてでしょうか?何が気に入らないんでしょう?」

「足りないものがあるんだ」

「足りないもの?」


男にはさっぱりわかりません。何せ自信作です。否定されると思っていなかったので、庭師の男はとても困ってしまいました。


「足らないものがあれば、足してしまえば良いでしょう?私たちが作った庭に何が足りないんでしょうか。教えてください」


男の代わりに、娘が尋ねてくれました。足せば完璧になるのなら、やるまでです。


「それは…君だよ」

「え?私?」

「一緒に見てくれる人がいないと、楽しめないからね」


そうやって顔を赤くして笑った少年に、少女もまた、頬を染めました。


「何度も君の部屋に行ったんだけど、わからなかった?」

「あら、そうでしたの?」

「楽しそうに庭をいじる君を見ていて、飽きずによくやるなぁと思っていたんだよ。少しだけ話してみようと、フードを被って部屋を抜け出したんだ」

「まぁ、あの時の!庭の話ばかりするから、お屋敷の庭師かと思いましたわ」


驚きに目を開く娘の手を、恭しく少年が持ち上げます。


「君が来てから、身体の調子がとても良いんだ。どうかこれからも一緒にいてくれないかな?」

「でも、」


男をチラリと見た娘は断りの言葉を告げようとします。だから男は気にしなくて良いと、娘の肩に手をおく。


「私のことは良いんだよ」

「お父様…」

「あぁ!もちろん、お父様にはうちの専属の庭師になって貰わないといけませんからね」

「え?良いのかい」

「だってこの庭は親子の合作じゃないですか」


にこにこと笑う少年に、娘と父は嬉しくなりました。


「親子ともども、よろしくお願いしますわ」

「こちらこそ!」



こうして、預言どおり貴族の男の子と川のほとりから拾われた女の子は結ばれました。









二人のことを知った貴族の父親は、息子の病はあの預言に従わないようにした自分のせいだと思いました。少女が家に来てから、息子は倒れることも、謎の咳をすることもなくなったからです。貴族の父親は魔法使いに逆らってはいけないことを知りました。








幸せそうな娘を近くで見ることができる庭師は、充実した日々を送ることが出来ました。あの日、あの場所で、あの川に行かなければ来なかった未来。何の因果か、考えることもありましたが、この人生で良かったなと布団に入りながら思いました。










貴族の息子と結ばれた少女は、生まれて初めて心が満たされました。自分の為に、己を省みず働く父に恩返しをしたいと思いながらも、貧乏だけはどうにもなりません。貴族の家では楽しそうに仕事をする父に、ようやく安心することが出来ました。








おしまい



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