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後悔に苛まれていたら、年上のダウナー系お姉さんを飼うことになりました。  作者: 紙木 侑


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最終話 後悔の結果

「つ、疲れた……明日は有休確定です……」


 自宅の机に突っ伏しながら、悠人はぼやく。


 二人は秋津家を後にして、悠人の家に戻ってきていた。


 昼頃にお邪魔したのにも関わらず、家を出るころにはすっかり日も暮れていて、濃密な時間は過ぎるのが早いのだと、改めて実感させられる。


「はは、お疲れ様。頑張って偉いね」


 こうなった元凶に励まされるという完全なマッチポンプにも関わらず、嬉しいと思ってしまうのはいくらなんでもチョロすぎるだろうか。


 だが、一言言ってやらないと気が済まないのは事実。


「真琴さんがあそこで余計なこと言わなきゃもっと穏便に終わってましたからね!?」


「ごめんごめん、君と父のやりとりが面白くて、つい」


「ついじゃないでしょうよー……」


 ——結果的に真琴さんより俺が疲れてるのおかしくないか……?


 とはいえ、真琴が頑張ったことも事実。俊彦を相手に堪えた場面もあった。そこを労わないわけにもいかない。


「真琴さんもお疲れ様。よく頑張りましたね」


「……ありがとう。でも、今日のMVPはやっぱり君だよ」


「俺ですか?」


「ああ。今日の君はすごい堂々としていて、頼り甲斐があった。正直、ちょっと見直したよ」


「真琴さん……」


 好きな人にこう言われて、嬉しくない男なんていないだろう。疲れた心にその言葉が沁みる。


「だってほら、普段の君ってふにゃおすだろ?」


「今彼氏のことふにゃおすって言った!? 一番言っちゃいけないよ!?」


 前言撤回。ふざけんな。


 そんな悠人を横目に、真琴は続ける。


「だから少し不安だったんだ。父があんなだから、嫌な思いするんじゃないかって」


「……」


 真琴の言葉に問題を感じないわけではないが、真琴は自分が苦しい状況でも悠人を心配してくれていた。


「でも君は強かった。一歩も引かずに、父に相対してくれた。本当に心強かったよ。悠人くん、改めてありがとう」


 椅子に座って話していたのにも関わらず、真琴はわざわざ立って頭を下げた。


「い、いやいや、そこまでされることしてませんって。俺がしたくてしたことですから」


 悠人としては本当に大したことをしたつもりはないので、そこまで改まられると返って落ち着かない。


 恥ずかしすぎるので一秒でも早くこの状況から抜け出したかった悠人は、別の話を振った。


「そ、そうだそれよりほら、実家から帰ったら真琴さんが好きなもの作るって約束したでしょう? 何食べたいですか?」


「いや、さすがに今日は……」


 頭を上げ、申し訳なさそうに話す真琴。


「俺がやりたくてやるんだからいいんですよ。今日みたいな日だからこそ普通を心がけるんです。食べたいものなんでも言ってください」


 また押し問答が始まりそうだったので、ここは勢いで押し切る。ノリと勢いは何事にも役に立つ。


「えー……じゃあ、あのオムライスが食べたい。君が最初に作ってくれたやつ」


 勢いで押し切られた真琴から返ってきたのは意外な言葉だった。


「え、あれですか?」


 真琴が言っているのは、彼女を家に連れ込んだ次の日の昼に作った、片桐家相伝の具材が一種類のオムライスのことだろう。


 ただあれは家に食材が無さすぎて仕方なく作った、簡易版オムライスだ。とても今日みたいなめでたい日に作るものではない。


「……もしかして気遣ってます?」


 疲れているだろう悠人のことを考えて、敢えて簡単に作ることができるものを提案してくれているのだろうか。


 それを聞いた真琴は、慌てて頭を振る。


「違う違う、本当に食べたいんだ。私もあれ気に入ってるんだよ。それに、ある意味思い出の味だろ? 今日食べるにふさわしいと思うよ」


「まあ、真琴さんが食べたいなら作りますが……」


「ああ、頼むよ」


 なんだか乗せられている気もするし、釈然としなかったが、真琴が嘘をついているようにも見えなかった。


 真琴がそれを食べたいというのであれば、それを作るしかない。


 初めて会った日を思い浮かべながら、悠人はオムライス作りに取り掛かった。


 ◆


「ふー美味しかった。ごちそうさま、悠人くん」


「はい、お粗末さまでした」


 本当にウインナーしか入っていないオムライスを作ったが、真琴はそれを美味しそうに食べていた。食べたかったのは事実だったらしい。


「さて、お腹も満たしたことだし、今後の話をしようか」


 ポンと手を叩き、真琴は改めて悠人に向き直る。

 真面目な話だろうと察しがつき、悠人も姿勢を正した。


「まあ無事に私の実家への挨拶は終わったわけだが。終わったら終わったでやることが山積みだな。君のご両親にもご挨拶しないといけないしな」


「あー、一応、そうですね?」


「……嫌かい?」


 曖昧な返事をしたせいか、真琴は不安そうな表情を浮かべる。そんな意図はかけらもなかったので、慌てて訂正した。


「あ、いや、違くて! 親と最近会ってないので、急に同棲だのなんだの言ったらひっくり返りそうだなって……。真琴さんを紹介するのが嫌とか、そんなことあるわけないです。むしろ自慢したいくらいです、親戚中に」


 両親にはまだ真琴とのことを何も言っていないため、急に連れて帰ったら驚かれるに違いない。真琴との関係を苦労して説明している自分が走馬灯のように浮かんで、少し萎えてしまっただけだ。


 ちなみに自慢は親戚どころに止まらず、同級生にまで及ばせたいところではある。


「それは恥ずかしいからやめてほしいが……。ただ、そういうことならよかった、安心だ。話だけしといてくれると助かるよ」


「わかりました、連絡入れておきます」


 なんだか色々心配ではあるが、いつかは話さないといけないこと。悠人は覚悟を決めて、その場で親に『今度彼女連れてそっち帰るからよろしく』と連絡を入れた。


「よし、じゃあ次は同棲する物件だな、明日、私も休むから一緒に不動産屋を回らないか? ネットで見ていてもいまいち掴めなくてな」


「いいですよ行きましょう、いい物件あるといいですね」


「ああ、そうだな」


 そんな会話をして、二人は微笑み合う。


 傍から見ればバカップルにしか見えないだろうが、なんてことない会話をできることこそが幸せだと悠人は感じていた。冷笑に負けるな。


「じゃあ最後だ。悠人くん、私と結婚する気はあるか?」


「そりゃもちろん」


 流れるような確認だったので、悠人は即答した。しかし、返答後の真琴がやけに満足そうな顔をしているのを見て、自分が軽く回答しすぎたことに気づく。


「え、待ってくださいもしかして今のプロポーズ的なあれですか!?」


「まあ、プロポーズ的なあれだな」


「そんな事務連絡みたいに!」


 迂闊だった。もうほとんど決定事項ではあったかもしれないが、だからこそ指輪を買って記憶に残るものにしたいと思っていたのに。まさかこんな軽く扱われるとは。


「俺が言いたかったのに〜!」


「別にいいだろうどちらからでも結果は変わらないんだから」


「変なとこで合理的! 趣がない! 飄々としてるくせして意外と女の子扱いされるの好きなくせになんでこういう時だけ!」


「な……! うるさい! 関係ないだろ今は!」


 とても大人とは思えない稚拙な言い争いをしてしまうくらいには、悠人にとってショッキングな出来事だった。


「くっそ〜! いつか絶対してやるからな〜!」


 もうここまで来たら世間の普通だの知ったことか。籍入れた上でプロポーズしてやろうと意気込む。

「まあ好きにしてもらって構わないが……お金もったいなくないか?」


「今後一生愛する人に捧げるものがもったいないわけない!!!!」


「わ、わかったよ……ごめんて……」


 まだまだ言いたいことはあったが、もう済んでしまったことは仕方がない。いつまでも不機嫌でいるわけにもいかないので、いつかギャフンと言わせることを誓って、悠人はなんとか平静を取り戻そうとする。


「まあ、出会い方から今日に至るまでが常軌を逸してるので、今更プロポーズに常識を求めるのはお門違いというか、野暮ですね」


「……そうだな。本当に、色々あった」


 真琴はしみじみと、過去を思い出すように答えた。


 公園での出会い、人には言えないような契約、過労での入院、一週間の決別、再会、そして突然の実家への挨拶と、言葉にしただけでも怒涛の日々。


 これがここ一、二ヶ月の話なのだから、世間一般と自分達を比べる必要がない——というより、比べたら彼らに失礼だ。こんなのと比べられたくないだろう。


「後悔なんてしないに越したことはないと思ってましたけど、案外悪くないかもですね」


「私たちはすごい運が良かったと思うけどな。ただ、互いに二度とあんな思いをしたくないという気持ちがあったことは事実だ。それが上手く働いてくれたな。私を拾ってくれたのが君で、本当に良かった」


「それは俺も同じ気持ちです。あの公園で寝ていたのが真琴さんで、本当に良かった」


 二人は机の上で、静かに手を取り合った。


「末永くよろしくお願いします、真琴さん」


 きっとこれからも、些細なすれ違いはたくさんあるだろう。


 どれだけ相性が良くても、所詮は他人。合わないところだって多分にあるはず。


 けれど、不思議と不安はない。根拠はないが、真琴と一緒なら大抵のことをなんとかなると思えてしまうからだ。


 そしてこの想いはきっと、真琴にも届いている。


「ああ、病める時も健やかなる時も、一緒にいると誓おう」


 後悔から始まった恋は、こうして結婚という最高の形を迎えることができた。


 あの時の精神状態からは考えられない、ほとんど偉業と言って差し支えない出来事だと思う。


 けれどそれは、後悔から何か学ぼうと、何かを得ようと思ったから。


 後悔するのは仕方がない。一度そこで立ち止まってもいい。


 大事なのは、後悔で得た負のエネルギーを利用して、自分の糧にすること。


 悠人も真琴もそれができたから、今がある。


 でも、ここで終わりではない。寧ろここからがスタートだ。


 気負うことはない。だが、これから続くこの旅路を終わらせるわけにもいかない。


 この出会いを後悔にしないために、後悔にさせないために。


 そして、いつか二人で幸せになるために——。


最終話です! 読んでいただきありがとうございました!

少しでもいいと思ったらレビュー等いただけるとめちゃくちゃ喜びます。反応もらえるのが一番嬉しいです。

これからもいろんな小説書きたいと思っているので、よければフォローもしてください! よろしくお願いいたします!

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