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後悔に苛まれていたら、年上のダウナー系お姉さんを飼うことになりました。  作者: 紙木 侑


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第1話 出会い

新作です!

よろしくお願いします!

「気持ち悪い……」


 職場の飲み会帰り、二十五歳のしがない公務員——片桐悠人(かたぎりゆうと)は吐きそうになりながらそう呟いた。


 誰の話も頭に入ってこないのでひたすらにお酒を飲んでいたら、いつの間にか酔いが回りこの有り様である。


 ——こんなに酔ったの、いつぶりだろう……。


 華金だというのに、悠人の心は全く晴れないでいた。


 それもそのはず。悠人は自らの慢心からなんとも愚かな失恋をしていたのだ。それも同じ職場、同じ係の人に。


 そこに追い打ちをかけるように、今日の飲み会にその相手が来て、悠人の心をこれでもかというほど苦しめた。


 否、悠人が勝手に苦しんでいた。姿が視界に入る度に心がギュッと締め付けられるような気分になり、後悔に苛まされ反芻思考が止まらなくなる始末。


 それが酒の場だというのだから、もう飲むしかなかった。普段そんなに飲まないくせに、手当たり次第酒を飲みまくり吐きそうになる体たらく。


 フラフラになりながら、悠人なんとか帰路を辿る。


 家に帰っても、どうせ一人だ。


 一人暮らしも一年経ち慣れてきたが、時折異様に寂しくなるときがある。


 静かな家に一人でいると、悪い考えが止まらなくなってしまうのだ。特に今のような精神状態だと、ろくなことが起きない。


 今は酔っていて思考が鈍っているが、酔いが覚めれば覚めるほど嫌な思考のループが始まる。


「……コンビニで追加の酒でも買おうかな」


 そう思い立った悠人は、いつもは通らない公園を通ってコンビニに向かった。

 夜の公園は静かで落ち着きがあるが、街頭一本に照らされているだけなので少しだけ気味が悪い。


 怖いから駆け足で抜けようと思った、その時。


 ——ん?


 視界の端、公園のベンチに誰か横たわっているのが見えた気がした。


「……いやいや、どうせゴミとか、そういうオチだよな?」


 酔っているためか、思考が口をついて出る。


「無視するか? いやでも、万が一があるからな……」


 ここで無視を決め込んで、翌朝この公園で遺体が発見されたとなれば目も当てられない。


 悠人は逡巡しながらも、声をかける決心をした。


「あの……大丈夫ですか……?」


 ベンチに近づいて、遠慮がちに声を出す。


「……」


 返事はない。


 せめて姿を確認しようとベンチを覗き込むと、そこにはスーツに身を包んだ女性の姿があった。


「お、女……!?」


 驚きを隠せず、悠人は思わず口に出してしまう。


 慌てて口を塞ぎ、周りを確認する。今この状況を誰かに見られるのはかなりまずい。構図だけ見れば、酔い潰れた女性を襲おうとしている奴にしか見えないからだ。


 このままでは通報される、そう思った悠人は横たわっている女性をゆすって起こそうとした。


「あの! 起きた方がいいですよ! まだ夜は冷えますから!」


 本来ならば自衛のために触ることすら控えるべきだが、酔っていて焦っている悠人にそこまで考える余裕はなかった。


「んん……」


 そこまでして、ようやく横たわっていた女性が反応らしい反応を見せる。声が妙に艶かしくて、悠人は思わず動揺した。


 だが女性の反応はそれまでで、身体を起こそうとはしなかった。これはきっと何をしてもダメだ。大人しく警察を呼ぼうと思って、悠人はスマートフォンを取り出した。


「警察呼びますからね! 来るまで一緒に待ってますから!」


 そう声をかけて一一〇番をかけようとした時だった。不意に女性の手が伸びて、スマートフォンを持つ悠人の腕を掴む。


「……警察は、やめてくれないか……」


 酷く気だるそうな声で、女性は言った。かなり酒臭く、悠人の予想通り酔い潰れていたらしい。


「やめろって言われても……じゃあどうすればいいんですか?」


 酔っ払い同士の会話の意味のなさを自覚しつつ、そんなことを聞いてしまう。

 すると女性は、消え入りそうな声で、


「……一人にしないでくれ」


 そう呟いた。


「そんなこと言われても困るんですが……」


 警察はやめろ、でも一人にしないでくれ。じゃあどうしろというのか。


 酔った頭で考えても一向に思考がまとまらない。もっと考えるべきことがあることはわかるのに、そこまで考えが至らない。


 悠人が酔った頭でぐるぐると考えていると、悠人の腕を掴んでいた女性の力がふっと抜け、彼女は再度寝息を立て始めてしまった。


「……は!? 寝た!? この状況で!?」


 それなりに大きな声を出したはずだが、女性はうんともすんとも言わない。どうやら完全に寝てしまったらしい。


 ——やっぱり放っておくか……? 


 ——それとも警察……?


 酔った頭でも、きっと後者が正しいであろうことはわかっていた。


 けれどどうしても、彼女の消え入りそうな声が頭から離れなかった。


『……一人にしないでくれ』


 それが悠人には、彼女の心の底からの叫びに聞こえて仕方がなかったのだ。それを無視する胆力は、悠人にはない。


「ああもう、どうにでもなれ!」


 酒の勢いというのは便利だ。きっと素面ではこんな答えを導き出せない。


 悠人は眠りこけてしまった彼女をどうにか背中に乗せ、放っておくでも通報するでもない、第三の選択肢を選んだ。

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