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死闘開始

 ジャンヌに殴り倒されたカサンドラは、鼻血を右手の甲で拭いながら起き上がった。

「クソ女、殺す!」

 超回復で止血を完了したカサンドラは目を吊り上げてジャンヌに突進した。

「殺されない!」

 ジャンヌの輝きが増した。カサンドラはジャンヌにハイキックを繰り出した。

「当たるか!」

 ジャンヌはそれをかがんでかわすと、カサンドラの腹部にフックを叩き込んだ。

「グオオ!」

 カサンドラはそれをえ、ジャンヌにフックを返した。

「ふう!」

 ジャンヌはそれを飛び退いてかわし、バランスを崩す形になったカサンドラの左顔面にストレートを見舞った。

「がはっ!」

 カサンドラは血反吐を吐き散らして、仰向けに倒れた。

「バレル!」

 ジャンヌはまだ眠っているバレルに駆け寄った。

「しっかりして!」

 ジャンヌは意を決して、バレルの唇にキスをした。そして、強く息を吹き込んだ。

「ゲホッ!」

 バレルはそのせいで肺が膨らみ、せて咳き込んだ。

「大丈夫、バレル?」

 ジャンヌは目を潤ませてバレルを見つめた。

「あ、ジャンヌ……」

 バレルが目を開けた。そこへカサンドラが襲いかかって来た。

「うるさい!」

 ジャンヌはカサンドラを見る事なく、裏拳を放って撃退した。

「バレル、待っててね」

 ジャンヌはバレルの右頬に軽くキスをすると、向き直って立ち上がった。

「ジャンヌ……」

 バレルはキスされた右頬を右手でさすった。

(今、ジャンヌがキスをした?)

 その前の人工呼吸まがいのキスにバレルは気づいていない。

「カサンドラ、いい加減、寝ていなさいよ!」

 ジャンヌはまた白く輝くと、向かって来るカサンドラを睨んだ。

「うるさい、クソ女! 殿下は私のものだ! お前になど渡さない!」 

 カサンドラは目を血走らせて怒鳴った。

「バレルはあんたのものじゃない!」

 ジャンヌが右ストレートを繰り出すと、カサンドラは左回し蹴りで対抗して来た。

「ぐう!」

 ジャンヌは身体を反らせて回し蹴りをかわしたが、カサンドラはもう一回転して回し蹴りを放った。

「かはっ!」

 ジャンヌはかわし切れず、それをまともに左脇腹に食らってしまった。鈍い音がした。ジャンヌの肋骨が何本か折れたのだ。

「うう……」

 ジャンヌは何回か転げて、止まった。カサンドラは手応えを感じたのか、ニヤリとすると、倒れているジャンヌに追撃をかけようとした。

「やめろ!」

 バレルがそこへ立ち塞がった。カサンドラは目を見開いて止まった。

「何故邪魔をするのです!? 殿下、そんな女のどこがいいのですか!?」

 カサンドラはバレルに詰め寄った。彼には攻撃を加えるつもりはないのだ。

「ジャンヌの全てがいいんだよ! あんたみたいな女と比べる事なんかできない程にな!」

 バレルはあらん限りの大声で言い放った。

「え?」 

 カサンドラは絶句してしまった。

「バレル……」

 ジャンヌはバレルの声を聞き、顔を上げた。その目には涙が浮かんでいる。


 クラークはカサンドラが未だにジャンヌを殺せないでいるのを知り、苛立っていた。

(何をしているのだ、カサンドラ! 手を貸すから、早く殺せ!)

 クラークは精神波でジャンヌを動けなくしようとした。ところが、それをカサンドラに阻まれた。

『何をしている、カサンドラ!? ジャンヌを殺す手助けをしたのだぞ? どういうつもりだ!?』

 クラークはまた逆らうカサンドラに呼びかけた。

『父上、この女だけは、私の力で殺します。手出し無用に願います』

 カサンドラの強い意志がクラークの精神波を弾いたのだった。

『わかった。急げよ』

 クラークは仕方なく、今はマーカム・キシドム親子の方に集中する事にした。

(マーカム達は巡洋艦でこちらへ向かったと報告があった。まもなく到着するだろう。早くケリをつけ、エレクトラに新生カサンドラを産んでもらわねばならぬ)

 クラークは軍司令長官執務室へと向かった。


「マーカム、どれくらい時間がかかるのかしら?」

 巡洋艦のブリッジのキャプテンシートに座っているエレクトラが尋ねた。

「もうまもなくです」

 操縦席で操作をしながら、マーカムは答えた。

「次のジャンピング航法でゲルマン星の公転軌道上に出ます」

「そうなの」

 恒星間飛行には全く疎いエレクトラは、マーカムの言葉をほとんど理解していない。

(観光旅行にでも行くつもりなのか?)

 マーカムはエレクトラの派手な衣装にも辟易していた。

(母上はともかく、私はどうなるのだ? 追放という事は、処刑される事はないのだろうが……)

 マーカムは神聖銀河帝国の戦い方が非道を極めているので、不安だった。だが、まさか自分の母親がカサンドラの再生のために使われるとは夢にも思っていなかった。


「どいてください、殿下。その女は殺さなければならないのです」

 カサンドラは、ジャンヌに覆いかぶさっているバレルに告げた。しかし、バレルは、

「どかないよ。ジャンヌは殺させない。どうしても殺すっていうのなら、俺ごと殺せよ!」

 バレルはカサンドラを睨みつけた。

「く……」

 カサンドラはバレルに心を奪われているので、それは絶対にできなかった。しかし、早くジャンヌを始末しなければ、クラークの折檻が待っている。それは凄絶なので、カサンドラはジレンマを感じていた。

(バレル、嬉しいけど、痛い……)

 ジャンヌはバレルに庇われるのは喜びであったが、のしかかられているので、骨折した箇所に激痛が走っていた。

『ジャンヌ、強く念じろ。そうすれば、骨は治る』

 その時、アメア・カリングの声が聞こえた。

(アメアさん?)

 ジャンヌはハッとした。そして、アメアの言葉通り、強く念じた。

(骨は治る!)

 すると、ジャンヌの骨折箇所だけが強く光り輝いた。

「え? 何?」

 バレルは驚いてジャンヌから離れた。

「ありがとう、バレル」

 ジャンヌはまたバレルの右頬にキスをした。

「クソ女、それ以上殿下をけがすな!」

 カサンドラが激昂した。

「次で終わりにするよ、カサンドラ!」 

 ジャンヌは立ち上がってカサンドラを睨んだ。

「大丈夫なのか、ジャンヌ?」

 バレルは不安そうにジャンヌを見上げた。ジャンヌは微笑んでバレルを見ると、

「バレルが庇ってくれたから、もう平気だよ」

 ウィンクをして応じた。

「死ね、クソ女!」

 カサンドラが襲いかかって来た。

「死なない!」

 ジャンヌは怒鳴り返して突進した。


「どうしたの、お母さん?」

 ずっと調べ物を携帯端末でしていたアメアが不意に笑ったので、そばにいたパトリシアが不思議に思って尋ねた。

「ジャンヌは勝つ。今、はっきりわかったぞ」

 アメアはパトリシアを見た。

「え? どういう事?」

 バレルを諦めてしまったパトリシアには、すでにジャンヌとバレルの交流はわからなくなっていた。

「それよりも、あの男はどうしている?」

 アメアが急に話題を変えた。

「あの男って、お母さんがスパイだって言ってるカール・ハイマンの事?」

 パトリシアは母に近づいた。

「そうだ。まだしらを切っているのか?」

 アメアは娘をジッと見た。パトリシアは肩をすくめて、

「いなくなったみたいよ。お母さんが怖くて、逃げたのね」

「はあ? 何だ、それは?」

 アメアは拍子抜けした顔で溜息を吐いた。

「エミー達が捜索しているわ。カールの自室から、通信機器が見つかって、スパイの証拠になるって話だったから」

「全然聞いていないぞ。何故、エミーは私に報告しないのだ?」

 アメアは不機嫌になった。

「だってお母さんは、銀河の狼のメンバーじゃないでしょ? それにお母さんに教えたりしたら、カールを酷い目に合わせるって思ったんじゃない?」

 パトリシアは苦笑いをした。

「ふん!」

 アメアは言い返す事ができず、携帯端末に視線を向けた。

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