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【恐怖のストーカー】


「犯人は――中原君よ」


 木下コトネは、誰もいない虚空に向かって人差し指を突き刺し決めポーズを取っていた。

 こいつ意外とお茶目だな、


「何よ、反応薄いわね」

「お前が奇怪なポーズをするからだ。で? その根拠は?」

「まず彼には明確な嘘が1つあるわ。何かわかる?」

「そんなもんあったか?」

「綾小路さんの言葉を思い出して。彼女中原君について何か言ってたでしょう」


 委員長が? えーと確か、中原は急に日にちを変えた、だったか。


「あ、確かに。中原は見舞いに来る日は空いてる日にしただけだって言ってたのに矛盾してるな」

「それよ。そして更に重要なのが綾小路さんのこの言葉ね。中原君は、北条さんが日にちを変えた同じタイミングで日にちを変えたってやつ」

「偶然じゃないのか?」

「それは考えづらいわ。彼は空いてる日の1つにしたと言っていたわ。別に他の日でもよかったのにわざわざその日にしたのは何か理由があるはず」


 変えたタイミングがユイと同じって事はユイ絡みの何か理由があるってことか?


「ユイに関する理由……か」

「それについてはもう結論が出てる。佐々木君の発言を思い出して。中原君は、あなたに対して睨みつけるような目線を送っていたというじゃない」

「らしいな。寝てたから知らんが」

「それはつまり上杉君、あなたへの“嫉妬”なのよ」

「嫉妬? てーことは……中原は」

「そう、北条さんの事が好きなんじゃないかしら。だから彼女と同じ日にお見舞いに行こうとしたり、あなたを必死で看病するのをやめさそうとしたりしたんじゃない」

「仮にそうだとしても何故あいつは俺じゃなくてユイを狙ったんだ」


 本当ならそこで俺を狙わずユイを狙うあたりが姑息でどうにも許せねえ。


「そこだけはなんとも言えないわ。だから……『確かめに』行きましょう」

「確かめる?」

「このままだと全て仮説だし、何よりこれだとただの探偵でしょう? 私は“異能”探偵なのよ?」


 にこりと笑う木下コトネに連れられ、俺たちは再び中原を呼び出し、屋上へと連れてきた。


「な、なんだよ。さっき色々話しただろ? も、もう授業始まっちゃうんだけど」

「突然だけど中原君。あなたが北条さんに異能による攻撃を行った犯人ね?」

「な、なに? 異能? なにを言ってるんだ」

「ふふ、今から懇切丁寧に話してあげるわよ」


 そこから木下コトネは、先程俺に言ってみせた推理を中原に叩きつけた。

 最初は少し余裕が見られた中原だったが、ユイの事を好きなんだろうと言ったあたりから顔を真っ赤にして反論を始めた。


「――というわけよ。どう?」

「ぼ、ぼ僕が北条さんを好き? それに異能とかいう超常現象で彼女を攻撃した? は、ははは! 馬鹿げてる、君たち頭がおかしくなったのかい?」

「そう、あくまで反論するのね?」

「あ、当たり前さ。嘘なんだからね」

「なら見せてもらうわ。あなたの心を!」


 瞬間彼女の髪がまるで下から突風が起きたかのように上に持ち上がった。若干淡く光り出した彼女の体を見て俺たちが言葉を失っていると、彼女はこう言った。


「真実を見せよ――『桜吹雪さくらふぶき』!」


 彼女がそう言った途端、あたりからは大量の桜の花が舞い始め、俺たちを壁のように包んでいく。

 そしてまばゆい光の後、俺たちは意識を飛ばされた。


 ♦︎


 次に目覚めた時、俺と木下コトネは教室にいた。とはいってもこれは去年の教室だ。あたりは何故かセピア色で、周りの人達は俺たちに気づかないようだ。


「ここは中原君の記憶の中よ」

「過去の映像か。こんなものあるなら始めから使えよ」

「条件があるの。簡単に言えば推理を相手に叩きつけて動揺をピークにさせないと通じないのよ」

「へぇ」


 そう話していると、教室の中に俺とユイが入ってきた。


「あ、俺とユイだ」

「随分と仲がいいのね」

「まぁ幼馴染だからな」

「けどどうやらそれだけの関係と思っていない人もいるようね?」


 彼女がそう言って中原が座っている方に指を指すと、中原は俺たちの方をじっと見つめていた。


(上杉の奴……あんなに北条さんと仲よさそうに……くそっ、あんな奴のどこがいいんだ)


「なんだこれ! 心の声が聞こえる!?」

「これが私の異能の真骨頂よ」


 その後も中原が俺たちのことを見て嫉妬している様子が続けられた。

 そして驚くべきは彼の部屋だった。中原の部屋は、鍵が付けられており家族でも入れないようになっていたが、それもそのはず、部屋の中はユイの盗撮された写真で埋め尽くされていたのだ。


「うえっ、気持ち悪い。私こういうの駄目」

「お、おい」


 ふらふらとして木下は俺の方に寄りかかってきた、甘い匂いと柔らかな肌が触れて少しどきっとする。


『はぁ、はぁ……北条さん、なんで僕に振り向いてくれないんだ……北条さん!』


 中原はパソコンを何回かクリックしたかと思えば、コピー機から何かを印刷した。それはユイが階段を上っている姿で、ユイの下着が映されていた。


『はぁ、北条さん……北条さん……!』


 あろうことか、中原はその場で自分を慰め始めた。

 おいおいまじかよ、流石にこれは俺も見るのキツイぞ。

 木下コトネは完全に俺にしがみついていた。俺は彼女の耳を塞いであげたが、そのせいで俺にはもろに奴の声が響き渡る。


 しばらくして終わったかと思えば、今度は俺の満面の笑みがプリントされた写真をカッターでバラバラにし始めた。

 

『上杉、死ね……!』


 いやこえーよ。まずあの満面の笑みの写真どこから手に入れたんだよ。



 そして再び場面転換した。


「お、おい、木下。もう終わったぞ、いつまでくっついてんだ」


 俺がそう言って彼女を引き剥がすと、彼女は照れたようにそっぽを向いてしまった。


「い、今のは見なかったことにしてちょうだい」

「はいはい」


 今度はどうやら俺が事故にあったのを知ったという場面らしい。クラス奴からのメッセージで気づいたようだ。


『上杉が意識不明!? やった、これで北条さんは僕のものだ……!』


 なんでそうなるのかさっぱりわからん。

 しかし中原は俺が事故ったことがとても嬉しいらしく、ずっと喜んでいた。


 そのあと、中原はユイにメッセージなんかも送っていたみたいだが返事はそっけないものしか返ってこなかったらしく、徐々にイラつきを増していた。

 まぁ既にユイは俺の看病してたからあまり他に構ってられなかったんだろう。


 そしてある日、委員長がみんなにメッセージを送り、俺のお見舞いに行こうと提案をし始めた。


 当たり前だがユイは毎日看病してるので日程を決めなくてもいいのだが、おそらく最初はテキトーに日にちを決めたのだろう。

 それをみた中原は当然同じ日に指定する。


『これで消えた上杉の代わりに北条さんを慰めてあげれば……彼女の心は僕のものだ……ひ、ヒヒヒヒ』


 下卑た笑みを浮かべる中原。しかし突然ユイが日にちを変えたため、中原もそれに合わせて日にちを変える。

 毎日病院にいたユイがなんで変えたのかわからないが、篠原の日程に一応合わせたとかそんなところだろうか。


 そして再び場面は変わり、俺の入院している病室に切り替わった。


「ほら、みなさい上杉君。あなたが目瞑ってベッドで寝てるわ」

「自分の寝顔を見るって気色悪いな……」

「あらそう? 可愛い寝顔じゃない」


 病室にはユイも合わせて、既にメモに書いてあった通りの人たちが来ていた。

 みんなが俺に向かって早く良くなれよとか声をかけている。そして中原も俺に声をかけるようだ。


『う、上杉君。早く良くなってね……』


(ひゃははははは。ざまぁみろ! そのまま死ね! 北条ユイは僕のものだ!)


 おい中原、お前そんなこと考えながら見舞い来てたのかよ。


「セリフと心の声のギャップが凄いわね……」

「人間不振になりそうなんだが」


 そしてしばらく観察していると、確かに中原は俺の事を終始睨みつけていた。そしてそれを佐々木は訝しげに見ている。


(くそっくそっ。上杉の野郎、北条さんにあんなに看病されやがって……ムカつく!)


 木下コトネの言う通り、彼は俺に嫉妬していたようだ。

 そしてその後諏訪原がユイに話しかける。


『北条さん、少しは休んだ方がいいですよ』

『あ、ありがとぉ諏訪原君。けど大丈夫、私がやりたくてやってるだけだから』

『しかしですね、無理な看病は逆にあなたの体調を悪くし、返って上杉君の迷惑になりかねませんよ。休むべきです』


 淡々とそう言った諏訪原に、篠原が反論する。


『ちょっと諏訪原! 何よその言い方。ユイはね、本当に上杉君の事が心配なの! あんたみたいに今日だけ見舞いに来た奴に何がわかんのよ!』

『篠原。君が僕になぜ怒ってるのかさっぱりわからないのですが。僕は北条さんの体調を心配してるんですよ」

「それにしてももうちょっと言いかたってものがあるでしょ!』

『ふぅ……わかりましたよ……すみません北条さん』

『い、いやいや全然謝んなくていいよぉ。心配かけちゃってごめんねぇ。私ももう少ししたら休むからぁ』


 と、こんな感じでちょっとした小競り合いがあったみたいだ。

 聞いた感じ別に諏訪原が怒られる必要はないように思えるが。俺でも同じこと言ってそうだな。


『け、けど北条さん。休んだ方がいいよ。ど、どうせそんなすぐに目覚めやしないよ』


 何故か終わった雰囲気になっていたのに中原が掘り返し始めた。

 そして俺が一番驚くことになるのはこの後だ。


『そっ、そんなの! 決めつけないでよっ!』


 あのいつもおっとりしていて、人に怒るなんてあり得ないユイが、大きな声を出して反論したのだ!

 正直めっちゃびびった。


「あの子あんなに大きな声出たのね。驚いたわ」

「いや俺もほとんど見たことないぞあんなユイ」


 もちろん俺たちだけでなくその場にいた全員が驚いていた。一瞬で場が静寂に包まれ、誰も言葉を発せなくなっていた。

 それに気づいたユイはハッとしてすぐにおどおどし始める。


『ご、ごめんなさいっ』


 そう謝ると、周りも気を利かせてぎこちなく笑い始める。一番はじめに高杉が口を開いた。


『び、びっくりしたぜ北条。そんな声出るんだな、なぁ牧野?』

『ほ、本当だようんうん』


 そんな感じでみんなが場の雰囲気を和ませ始めたが、中原だけは虚ろな瞳でぼんやりと横たわる俺を見ていた。


(北条さんに怒られた? 嫌われた? 嫌だ嫌だ嫌だ! なんで? なんのせいで? 誰のせいで? 僕? いや違う! 上杉だ! あいつがいるせいだ! あいつがいなければ……! 殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


「おい、おいおいおいおい。あいつヤベーこと考えてんぞ! 止められんねえのかこれ! あ、ダメだすり抜ける!」


 中原に触れようとしたが触れらない。


「無理よ。現実じゃないんだから」

「いや、このままだと俺殺されそうなんだが」

「あなた今生きてるんだから過去に死ぬわけないでしょ」

「そ、それもそうか……」


 でもこのままだと何かしらやられそうだぞ……。

 そう思っていると、中原が俺に向かって右手をかざし始めた。


(死ね……!)


『パープルポイズン』


 異能を使いやがった!

 紫色の球状の何かが俺に向かって飛んでいっている。 周りの誰かが気にしている様子はない。


「異能ってのは普通見えないのか」

「異能によるわ。これは異能使いにしか見えないタイプね」

「つーかこのままだと直撃なんだけども。もしかしてこの攻撃俺には効かなかったりすんのか。俺つえええ、か。もしかして」


 飛んでいった球体は俺にぶつかるかと思われたが、直前に動いたユイにぶつかってしまった。


『しまっ――』


 思わず口に出そうになる中原は口を抑え明らかに動揺していた。

 実際に異能を食らったユイ自身はなんともなさそうに見えるが、ここから悪化してくってわけか……!


 結局そのまま皆解散して中原は何事もなかったかのように帰った。

 そして俺たちは記憶の世界から帰還した。

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