第6話 腐敗貴族を追い詰める
「他国との接点が出た以上、ガルベス子爵だけを片付けても意味がない」
朝のサロンで、私は地図を広げた。王都を中心に、いくつかの場所に印がつけてある。
シリルが隣に立ち、静かに補足する。
「会計士の証言をもとに調べたところ、子爵は定期的に王都の外れにある料亭で、外国人の男と会っています。身元は今のところ不明ですが——」
「その料亭、リタに見張らせていたわよね」
「はい。昨夜、接触が確認されました」
テーブルの上に、一枚の紙が置かれる。リタが書き留めた人物の特徴だ。無口な彼女にしては珍しく、細かく記録されていた。
「隣国の商人に扮していますが、動きが商人らしくない。軍か、情報機関の人間かと」
つまり、ガルベス子爵は国内の腐敗だけでなく、外国の勢力とも手を結んでいる。
「根が深いわね」
「焼却するには、少し浸け置きが必要かもしれません」
「ええ。でも、時間をかけすぎると国庫が持たない」
私は地図の一点を指で押さえた。
「まず、子爵の屋敷の帳簿を押さえる。そこから芋づる式に引っ張り出しますわ」
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その夜、私たちは動いた。
子爵の屋敷に近づくのはリタとシリルだ。私は少し離れた場所で待機する。表立って動く必要はない。それがおそうじの基本だ。
待つこと、一時間。
シリルが帰ってきた時、その手には分厚い書類の束があった。
「帳簿の写しを頂戴してきました。本物は元の場所に戻してあります」
「バレていないわね?」
「もちろんです。埃一つ乱しておりません」
私は書類を受け取り、馬車の中でざっと目を通した。数字の羅列の中に、明らかに不自然な流れがある。特定の商会への支払いが、定期的に記録されている。金額も、時期も、不自然なほど規則的だ。
「この商会、実在しますか」
「調べましたが、登記上は存在しています。ただし、活動実態がありません」
「幽霊会社ですわね」
「はい。おそらく、資金を洗浄するための受け皿かと」
ということは、ガルベス子爵はここを経由して、外国へ資金を流している可能性がある。
私は書類を閉じた。
「もう十分ですわ。あとは仕上げだけ」
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翌日、シリルが一人の男を連れてきた。王都の財務局に務める、中堅の役人だ。
「この書類を確認していただけますか」
シリルが帳簿の写しを差し出すと、男は一通り目を通してから、顔色を変えた。
「これは……明らかに不正です。本来であれば、国庫への納付が必要な金額が、別の経路に流れています」
「正式な調査を入れていただけますか」
「……内部告発として処理すれば、動けるかもしれません。ただ、子爵は権力を持っています。圧力がかかる可能性も」
「そちらの心配は不要ですわ」
私は静かに微笑んだ。
「調査が始まれば、私が守ります。それが王家からの特命ですから」
男は少し考えてから、深く頷いた。
帰り際、シリルが小声で言った。
「調査が入れば、子爵は動かざるを得なくなります。慌てた人間は、必ずミスをしますから」
「ええ。汚れは、焦った時に一番よく落ちるものですわ」
私はサロンの窓から、王都の夕暮れを眺めた。
ガルベス子爵が気づいていないだけで、網はもうすぐそこまで迫っている。




