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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第2話 不法投棄された産業廃棄物

婚約破棄から三日後の深夜だった。


私たちは王都から少し離れた森の中を歩いていた。シリル、リタ、そして私の三人。いつものおそうじ道具一式を携えて。


「ひどい悪臭ですわね」


鼻を突くヘドロのような臭いに、思わず顔をしかめた。レースのハンカチで口元を押さえる。ドレスに臭いが移ったら困る。


「申し訳ありません、お嬢様。ですがここが諸悪の根源です」


木々の奥に、不自然に隠された石造りの建物が見えてきた。シリルが淡々と説明を続ける。


「ポイッツェン伯爵の違法研究所です。領民から搾取した資金で人体実験を行い、人造の魔物を生み出している。それを国境付近に放って国の混乱を招いている——いわば、自作自演で国を汚しているわけですわ」


「なんて不衛生なのかしら」


ただの埃や泥なら風で吹き飛ばせばいい。だがこれは違う。有害な毒を撒き散らす、最悪の環境破壊だ。


「さっさとおそうじして、帰りましょう」


-----


施設の鉄扉が内側から吹き飛んだ。侵入者に気づいたらしい。


中から飛び出してきたのは、複数の獣を継ぎ接ぎしたような醜悪なキメラの群れだった。涎を垂らしながら、まっすぐ私に向かってくる。


「チャキッ」


冷たい金属音が森に響いた。


次の瞬間、私に飛びかかろうとしていたキメラたちが空中で静止した。いや、静止したのではない。


ボトボトボトッ。


不気味な肉塊の雨が降る。リタの放った見えない鋼糸が、瞬きする間に空間を切り裂いたのだ。返り血は私に一滴も届いていない。


「ありがとう、リタ。汚い飛沫が飛んでくるところでしたわ」


リタはコクリと一度頷き、また影のように背後へ戻った。


その間にシリルは研究所内を駆け回り、伯爵が隠し持っていた裏帳簿や顧客リストを分厚いバインダーに回収して戻ってきた。


「燃やしてはいけない証拠品の回収は完了いたしました」


「さすがね、シリル。……さあ、伯爵」


腰を抜かして震えているポイッツェン伯爵を見下ろした。


「な、なんだお前たちは! たかが男爵令嬢の分際で! 私の崇高な研究を——」


「崇高な研究?」


私はため息をついた。


「あなたが生み出しているのは、周囲を汚染するだけの産業廃棄物ですわ。有害物質は、分別してから燃やすに限りますのよ」


青白い炎が右手の指先に灯る。だがその瞬間、施設の奥から弱々しい気配を感じ取った。


「……シリル。奥に、ゴミじゃないものが混じっていますわ」


「はい。実験体として囚われている領民が地下に七名。脱出経路は確保済みです」


「さすがね。分別は基本ですものね」


数分後、衰弱した領民たちが施設から運び出されるのを見届ける。彼らの目が一瞬だけ私を捉えた。助けてくれた恩人を見る目ではなく——炎の主を見る、恐怖の目だった。


胸の奥が、チクリと痛む。


私はその感覚を振り払うように、右手を上げた。


「分別完了。残りは全て——焼却処分ですわ」


ゴォォォォッ。


青白い炎が音を立てて研究所全体を包んだ。施設も、キメラの残骸も、伯爵の悲鳴も、瞬時に消えた。数秒後、炎が嘘のようにスッと消えると、不自然なほど綺麗に整地された空き地だけが残っていた。


「お見事です、お嬢様。この森の空気も、ようやく綺麗になりましたね」


「ええ。大掃除の後は気持ちがいいですわ」


リタから日傘を受け取り、優雅に微笑む。


帰りの馬車の中で、私はそっと手袋を外して自分の指先を眺めた。


白く、綺麗な指。当然ですわ。私の炎は、汚れを残さない。


——何も残さない。


私は手袋を嵌め直し、窓の外に広がる夜空を見上げた。

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