70:武器はフライパン?
「料理、出る?!」
「はいよ、じゃぁこの肉も持ってっとくれ!」
宴会場へ、追加の料理が運ばれていく。
山のように作ったのに、間に合わないかもしれない。なんて食べるんだ。
「ヨルダ、こんどは何作るんだい?」
「そっちの煮物がもう出来るんだ、盛っとくれ」
「はいよ!」
次々料理が盛られ、空いたかまどで次が作られてく。
「いつ終わるんでしょうね?」
「知らない!」
イサさんに訊いてみたけど、つっけんどんに返されただけだった。
で、その手は何かをかき回してる。
「なんですか、それ」
「例の草入れた卵。早いしおいしいし、間もたせにはなるから」
「だからって、何個割ってるんですか……」
卵の殻が、傍には山積みだ。
「ヨルダ、フライパン空いてる?」
「大丈夫、空いてるよ!」
あつあつのフライパンに油がひかれて、卵が一気に流し込まれた。
それをあっという間に寄せて、弾みをつけて一気にひっくり返す。
「スタニフ、お皿! 平たいの!」
「は、はい!」
慌てて大きめの平たいお皿を差し出すと、そこへイサさんがフライパンをひっくり返して、火の通った卵を置く。
「ふるふるしてますね」
「おいしいわよー」
イサさんひどい。
なんで食べられないものを目の前にしてるのに、おいしさを強調するんですか。
僕がお腹空いてるの、わかってないんだろうか?
「はーい、これも持ってっていいわよー」
「あいよー」
威勢のいい声と共に、おいしそうな卵は攫われていった。
「さてっと、次はこれ切ろうかな」
そう言うと根菜を出して、皮をむいて細切りを始める。
「何作るんだい?」
「これとね、こないだ見せてくれた卵で作ったソースとね、辛い葉っぱ混ぜるとおいしいかなって」
「へーえ、じゃぁ手伝おうかね」
おばさんにおばさんが加わって、刻むスピードが倍加した。
「イサ、このソースかい?」
「そそ。あと辛い葉っぱと塩」
「ほいよ、これだね」
出された葉っぱが、あっという間にほぼ同じ長さに切り揃えられて、ソースと一緒に根菜に混ぜられた。
「ん、思った通りー」
「どれどれ? お、こりゃぁ美味しいね」
「故郷にいたころは、よく作ってたのよー。さて、じゃぁこれに例の葉っぱを混ぜてっと」
イサさん嘘つかないでください。
こんな野菜故郷じゃなかったって、言ってたくせに。
でも今は言わない。
今いちばん大事なのは作戦を成功させることで、おばさんの秘密を暴くことじゃない。
僕は賢いから、そのくらいの判断はちゃんとつく。
「よし、っと。じゃぁこれもお願い」
「はいよ!」
またおいしそうな料理が、攫われていった。
僕の口には、いつになったら来るんだろう?
「ヨルダさーん、お酒追加追加」
おばさんの中じゃ割と若い人が、走りこんできた。
「もーあいつら、飲むったら。うちの男どもも飲むけど、負けちゃいないんだよ。まぁもう、だいぶ出来上がってるし、寝てるヤツも多いけどね」
「そりゃいいや。酒はそっちの蔵から持ってっとくれ」
「はーい」
そう言って駆け出す若おばさんに、生贄騎士が声をかけた。
「一緒に持っていきます。重いですし、何より頃合いでしょうし」
にやりと彼が笑う。
その笑みがずる賢そうなのに、端正な顔のせいでそれこそ画家が絵に描いたようで、何とも悔しい。
神様はもっと公平であるべきだ。
「なんかよくわかんないけど、手伝ってくれるんなら助かるよ」
お酒を取りにきた若おばさんが、生贄騎士と一緒に蔵へ向かう。
それを見送る僕に、声が降って来た。




