60:見るべき場所は
「じゃぁ、細工されたのは昨日の三つだけ?」
「たぶん。でもわかりませんから、何日かかけて全部周ります」
念には念を入れろというのが、父さんの口癖だった。
例え無駄になっても、やらずに後悔するよりましだ、と。
実際そうだと思う。特に魔法なんて、余ったら次で使えば済む。
けど準備不足は最悪だ。だからどれだけ念を入れても、困ることなんてない。
「まぁ、いろいろおかしいものね」
「ええ。イサさんの方は、何かわかりましたか?」
「もっちろん」
イサさんが胸を張った。
――もっと張ってください。
イサさん、樽体型じゃないけど、けっこう〝ある〟。
だからそれが胸を張ると、こう、なかなかいい感じだ。
ふと見ると、隣の生贄騎士もおんなじとこを見てた。同士だ。
「ヨルダ――あ、あのいつもご飯持ってきてくれる彼女なんだけど、いろいろ教えてくれたわーって、聞いてる?」
イサさんの声に刺が混ざって、慌てて二人で答える。
「もちろんです」
「聞いてますってば」
「ホントかなぁ……? まぁいいや」
僕らに向かった疑いは、幸いそれ以上追及されなかった。
きっと、話したいことがあるからだろう。
女というのは話すために生きてる、父さんはよくそう言ってたけど、その通りだと思う。
イサさんが続けた。
「ほら、魔導師が来たって話、あったでしょ?」
「ええ」
こればっかりは、忘れようがない。
「それがね、彼が麦を持ってきたって」
「あー」
なんというか、予想通りだ。
見事に裏が取れてしまった格好だ。
「なんか余ったから輸出するんだって麦持って来て、結構な量を滞在費ってこの村に分けてくれたって」
麦が余ったのは事実だし輸出するのも構わないけど、代金をお城に入れろ、としか。
見事なくらいの着服だ。
そのお金がちゃんとお城に行ってれば、姫様がドレスを新調できたし、僕のお城でのおやつも増えただろうに。
許せない。
「で、村にしばらく居て、祠周ってたんだとか」
「その時に、魔法陣を書き換えたんでしょうね……」
師匠に確認したけど、あれはひと月ほどで書き換わるらしい。
だから直前に来た魔導師が、やったんだろう。
もしかするとその人は関係なくて、全く違う人が独自にやった可能性もゼロじゃないけど……限りなく低かった。
「つまり、それがスパイか?」
「でしょうね。敵国に所属してるか、雇われた魔導師だと思います」
領主にいろいろ吹き込んで惑わせた助祭長。
その助祭長を焚きつけた、異国から来た誰か。
助祭長と結託してた、会計係。
その会計係と一緒に消えた麦。
そして麦があまり取れないはずなのに、麦が余っている村。
なんというかわかりやすすぎて、もう少し難しくしたらどうだと言いたくなる。
狙いはたぶん、国境越え。
なら直接の相手は、山向こうのドイエマ国だろう。
そこにどのくらいの国が加担してるかは……とりあえず考えないでおく。
「何とかしないと、攻め込まれるな。それこそ急いで城に知らせないと」
「それはやります」
さすがにこの期に及んで、早馬はないだろう。
ここからだとお城に話が行くまでに、どんなに頑張っても三日かかる。
その点、共振させた水晶玉なら一瞬だ。
師匠が気づいてくれるかが心配だけど、昨日のももう返信来たから、さすがに大丈夫なはずだ。
あの偏屈師匠でも、今回起きてることが重大なのは、さすがにわかってるらしい。
ふだんからそのくらい、物わかりがよければいいのに。
「ともかく、知らせますね。そこどいてくれますか? 陣広げるので」
「あ、すまん」
部屋の真ん中を空けてもらって、昨日と同じように、僕は用意を始めた。




