59:男と女と魔導士と
「私、女なので……」
「女なのが、なんか関係あるんです?」
魔導師は、性別関係なく扱う。
それはこの世界の不文律だ。
そもそも男女言ってられるほど、適性のある人は多くない。
根こそぎ集めて魔導師にするくらいじゃないと、需要を満たせない。
ホント言うと僕だって、仕事せずに研究したいったら、学院と協会から散々怒られた。
人手不足なのに何言ってるんだ、だったら学費を返してもらう、と。
ただ偶然師匠が助手を探してて、そこに行くならって条件で許された。
――本気で小間使い代わりとは思わなかったけど。
でもそれでも、あれだけの研究成果を盗めるんだから、良しとする。
お嬢さんはまだ下を向いたままだった。
「私、女だから、学院に行かずに村へ戻って、嫁に行けって親が……」
「はぁ?」
さらにワケが分からない。
こんな貴重な人材を、こんな山奥に押し込めようっていう親の方が論外だ。
ついでに言うと、貧乏だからっていうのも言い訳にならない。
魔法学院はどこも、学費はゼロなんだから。
ともかく腹が立つ。
魔導師ギルドに言って、村に魔導師が二度と誰も立ち寄らないようにしてやろうか。
魔導師の人手不足と激務を、なんだと思ってるんだ。
「ほんとは、上級の学校へ行きたかったんです……」
そう言うお嬢さんの瞳から、涙がこぼれた。
そりゃそうだろう。
僕だって上の学校へ行くなと言われたらって思うと、ぞっとする。
幸いうちは、そんなことはなかったけど。
「なんなら、僕が学院宛てに推薦状書きますよ。師匠に頼んでもいいですし」
「え……」
お嬢さんが顔を上げた。
うるんだ青い目が、すごく綺麗だ。姫様ほどじゃないけど。
「魔力を持つ人間は、ものすごく貴重なんです。そういう人を学院に入れなかったら、ふつうは罰せられますよ」
「そうだったんですか……」
可哀そうに。
こんな僻地だから、誰もそのことを知らなかったんだろう。
「あとで僕が、出身学院にでも掛け合います。教授たち、大喜びでしょうね」
昔はこういうふうに、地方へ行った魔導師が見落とされてた人材を見つけるケースがけっこうあった、っては聞いてた。
でもまさか、今の時代に僕が出くわすだなんて。
「ともかくそういうことですから、心配しないでください。で、調査続けたいんですけど」
「あ、はい」
お嬢さんが慌てて涙を拭いて、顔を上げた。
仕草がなかなか可愛い。
イサさんもこのくらい、可愛らしかったらいいのに。
「なるべく多く回りたいので、よろしくお願いしますね」
「はい!」
だいぶ元気になったお嬢さんと一緒に、僕らは歩きだした。
「おかえりー、どうだった?」
村へ着いてあてがわれた離れへ戻ると、イサさんが山積みになった例のパイといっしょに待ってた。
「ちょっと冷めちゃったけど、食べる?」
イサさんがお皿を差し出す。
お弁当は持ってってたけど、ずっと山を歩いていい加減お腹が空いてたから、生贄騎士と二人、遠慮なく手を出した。
「これ、あたしが作ったのよー」
「え、そうなんですか? あのおばさんじゃなくて?」
昨日のと味が変わらないから、てっきりあのおばさんが作ったんだと思った。
「まぁ、教わりながら作ったから。そりゃ味は一緒になるわよ」
「なるほど」
言いながら二つ目に手を出す。
騎士の方はもう三つ目だ。
――少しは遠慮しろ。
魔法陣を書き換えたり大活躍の僕と違って、一緒に歩いてただけなのに。
でもお皿の上は山盛りで、お腹いっぱい食べても余りそうだから、寛大な僕は許すことにした。
「で、そっちはどうだったの?」
「今日周ったところは、特に何もなかったですね」
昨日と同じく三つ――遠いから時間がかかった――周ったけど、どれも手を加えられた様子はなかった。




