第48話 脱退の相談
俺はクランメンバーの依頼でクラフトにいそしむ。
評価はSが並ぶものの、どこかクラフトに身に入らない。
でき上がる品につくアビリティは平凡なものが大半を占める。クランメンバーに真面目にやったのかと問われる始末だ。
ショップに出品するアイテムも含めると、レアアビがつく確率は一割あればいい方だ。
レアボタンのアビリティがあってその程度。目的のアビリティがつかなかったことで俺を責められても困る。
やっぱり誰かのためのクラフトは駄目だ。周りの評価が気になってミニゲームを楽しめない。
とはいえ俺ありきの企画が進んでいる真っ最中だ。抜けるとクランメンバーに迷惑をかける。せめて今の企画が終わるまではクランにとどまらないと。
そうこうする内に約束の日を迎えた。きら丸とラムネを連れて集合場所のジャングル前に足を運ぶ。
集合場所には多くの人だかり。クランスペースで見る顔も多い。
そのどれもが立派な装備を身にまとっている。クラフトレシピで見たことはあるが、戦闘に重きを置かないからと敬遠した代物ばかりだ。さすがにトップクランだけあって全員装備が整っている。
「こんにちは」
視線を振った先には長身の人影。鎧に身を包む女性アバターが長髪とマントをたなびかせて歩み寄る。
俺は向き直って微笑を作る。
「こんにちは。日蝕の騎士団の方ですか?」
「ああ。クランリーダーをしているマゼラだ。あなたはフトシさんで間違いないか?」
「そうですけど」
告げて嫌な予感が込み上げる。
これはいつものあれか? この状況じゃ逃げようがないしどうしよう。
「そう警戒しないでくれ、別に引き抜こうってわけじゃない。ただ知りたいんだ。他の大手クランならともかく、どうしてフトシさんが弱小ギルドに入ったのか」
「深い理由はありませんよ。得るものがあって居心地がよかった。それだけです」
「居心地か。勧誘し損ねたことを悔いていたが、早々に会えてもチャンスはなかったわけだ。まあこれも何かの縁だ、フレンド申請してもいいだろうか?」
「ええ、もちろん」
マゼラさんが宙で指を動かす。
目の前にウィンドウが浮かび上がった。フレンド登録を問う文字を読んで、俺は『はい』のボタンを押す。
「ありがとう。フトシさんと言えばクラフトの腕がすごいと聞く。装備を作る時は頼りにさせてもらうよ」
「頼りにされるのは嬉しいですが、期待に添えるかどうかは分かりませんよ?」
「謙遜しなくていいじゃないか。あなたはイベントで結果を残しているんだから」
「いえ、謙遜じゃないんです。最近思い知らされたんですよ、俺は誰かのためにクラフトするのが苦手なんだなーと」
「最近か。クランに入ってから色々あったみたいだな」
「ええ、ありました。本当に色々と」
「そうか。分かった、依頼する際の期待は程々にとどめよう」
「こんにちはマゼルさん」
サグミさんが歩み寄ってきた。
マゼルも微笑で応じた。クランリーダー同士のあいさつから前置きが始まる。
まるでビジネスの場みたいだ。二人とも社会人なのかなぁ。
「マゼルさんマゼルさん、こんにちはー!」
駆け寄るのはスズさんだ。クランリーダーの間に入って物おじせず語り出す。まるで自身はここに在るべきと言わんばかりのふるまいに目をぱちくりさせる。
この企画がスズさんによって練られたものだとしても、たった今リーダー同士の会話が行われていたんだ。この中に入るなんて度胸があるのか無神経なのか。
「そろそろ時間だ。壇の上に上がろう」
「スズ、号令かける?」
「いいんですか⁉」
「うん。企画を持ちかけたのはスズなんでしょ? いいよ代表として上がっても」
「分かりました! じゃ行きましょうマゼルさん!」
「ああ」
二人が壇の上へと足を進ませる。
「いいのか? スズさんを代表みたいにあつかわせて」
「はい。これから本物の代表になりますから」
思わずサグミさんの方を振り向く。
サグミさんも俺を見た。小さな顔に苦笑が浮かぶ。
「私、近いうちにクランを抜けようと思ってます。今の戦闘重視の方針についていけそうにないので」
「サグミさんが言っても駄目なのか?」
「ええ。やんわり言ったことはあるんですけどね。あれだけ張り切ってたら強くは止められませんよ」
「分かる、いやに張り切ってるもんなスズさん。あんなに野心家だとは思わなかった。ここだけの話、俺もこのイベントが終わったら脱退しようと思ってるんだ」
「フトシさんもですか。じゃあ一緒に抜けませんか? よろしければその後でクラフト関連のクランを立ち上げましょうよ」
「それはいいが、ペット要素は――」
なくていいのか? そう告げようとしてふと気づく。
「そういえばサグミさんって、愛好会のリーダーなのにペットいないよな」
「休止する前に逃がしたんです。ずっとマイルームで待たせるのかわいそうですから」
「なるほど、そういう事情があったのか。じゃあこの企画終わったら新しくクラン作るか。あの五人はどうする?」
「彼らも脱退して新しくクラン立ち上げるつもりらしいです」
「何のクランかなんて問うまでもないな」
「ですね」
サグミさんと小さく笑みを交わし合う。
号令が掛けられて、俺はクランの仲間と集まった。




