第49話 クラン設立
ダンジョンの踏破を競争する企画。はっきり言って勝負にならなかった。
戦闘だけならまだ追いすがれる要素があった。
何せ装備の性能がいい。自画自賛みたいで恥ずかしいが、ペット愛好会の武器は半分以上がレアアビ付きだった。多少動きがつたなくても早くエネミーを殲滅できた。
いい勝負ができたのはそこまで。仲間との連携や移動など違うところで大きな差が生まれた。装備の差で生まれたアドバンテージは簡単にひっくり返された。
クラン同士の競争には負けた。
その一方で色々な話が聞けた。
日蝕の騎士団は戦闘以外のコンテンツもやり込んでいるらしい。ペットやクラフトについても色々な話を聞けた。
特にクラフト関連。日蝕の騎士団は他クランと契約して素材を出荷しているらしい。
素材を集めるクランと、それを購入して活動するクラン。まるでリアル世界の会社の取引みたいだ。競争している時よりも、この話を聞いている時が一番心踊った。皮肉なことにクラン脱退の意思がより強まった。
打ち上げを経てお開きとなった。
俺はきら丸とラムネをマイルームまで送った。クラフトのミニゲームで遊ぶ許可を出して、ミニゲームに励むきら丸をしり目にマイルームを後にした。
クランスペースに踏み入ってテーブルのチェアに腰を下ろす。
サグミさんが口元を引き結ぶ中、スズさんだけが笑顔を浮かべた。
「いやーいい勝負でしたね! もう少しってところで負けちゃいましたけど、今の戦力差を考えれば健闘でしたよ」
「そうだな」
俺は適当にあいづちを打って発言のタイミングを図る。
中々いいタイミングが訪れない。スズさんが今日会ったことを楽しそうに語る。自身の功績と言わんばかりに自画自賛の言葉を重ねる。
これは強引に切り出さなきゃ駄目か。
「スズ」
サグミさんが先に口を開いた。
「何ですか?」
「私たち、クランを脱退しようと思ってる」
スズさんの表情が固まった。
「……は? え、今なんと」
「クランを抜けようと思ってるの。私たち」
「はああああっ⁉ な、何でですか! サグミさんならまだしもフトシさんもですか⁉」
「ああ。スズさんの方針にはついて行けそうにないんだ」
「またその話ですか。何度言ったら分かるんですか? クランが大きくなればじきに楽しくなるんですって」
「それが俺に合わないんだよ。俺はクラフトのミニゲームがしたくてクラマギを始めたんだ。素材集めのために仕方なくエネミーと戦ってるだけなんだよ」
「それだって大手クランになった方が有利じゃないですか。いずれフトシさんにはクラフト専になってもらうつもりでしたし、もう少しの辛抱ですって」
「いや、クラフト専って」
クラメンから寄せられるクラフト依頼も脱退理由の一つなんだ。それじゃ根本的な解決にならない。
スズさんが体の前で手の平を打ち鳴らした。
「あ、分かった! さては報酬が足りなかったんですね! だったらこうしましょう。フトシさんに依頼する時は依頼料を取るんです」
サグミさんが小さくため息をついた。
「ねえスズ、以前二人で話した時のこと覚えてる?」
「覚えてますよ。クランのみんなが戦力増強を望んでるわけじゃないって話ですよね」
「そう。このクランの名前はペット愛好会。ペットを好いていた人が所属していたクランなの。突然戦闘方面に力入れますって言われて、その人たちがついていけると思う?」
会社で提出する企画書と同じだ。顧客のことを考えて発案しないとまず上司に却下される。
スズさんの行いがまさにそれだ。ペット愛好会に残っていたメンバーは、漫才五人衆を含めて戦うことに重きを置いてなかった。
クランの方針が変わったところでプレイヤーの趣向は変わらない。クランの空気が戦闘に傾けば疎外感を覚える。クランが自分の居場所じゃないと思い始める。
スズさんにはその気持ちが分からないんだろう。
「何で? 誰だってクランは大きい方が良いに決まってるじゃないですか。それの何がいけないんですか!」
「良い悪いじゃない、クランの雰囲気がその人に合うか合わないかなの。スズを止めてあげられなかったことは謝るけど、私たちはクランを大きくすることに興味ないし、私はガッチガチの戦闘を楽しめない。以降のリーダーはあなたに任せるよ。今までありがとう」
サグミさんが宙で指を動かす。
スズさんの視線が俺に向けられた。
「フトシさんも本当に抜けるんですか?」
「ああ。クラフトの依頼を断る気はないが、今の空気にはついていけないからな」
「後悔しますよ? クランが大きくなってから入れてあげませんからね」
「分かってるって。そんな真似はしない」
俺はコンソールを開いてクランの文字をタップする。
『脱退する』のボタンを指先で突いて、俺はペット愛好会を脱退した。
◇
俺はクランスペースを後にしてサグミさんのマイルームにお邪魔した。
サグミさんに勧められてチェアに腰かける。
「何か飲みます?」
「お茶で頼む」
「分かりました」
サグミさんの背中がキッチンに消える。
すぐにおぼんを持って戻ってきた。二つのカップがテーブルの上を飾りつける。
「不思議な気分だな。仮想世界でお茶なんて」
「そうですね。もう慣れたものですけど、クラマギを始めた当初は私も困惑しました」
サグミさんもチェアに座って同じテーブルをはさんだ。
「さて、何から話しましょうか」
「クランの方向性は決まってるしクラン名からでいいんじゃないか?」
「名前は大事ですもんね。方向性を周りに示す意味でも大切です」
「単純にクラフト専門クランじゃ駄目かな?」
「ちょっと味気ないですね。クラフトにしか興味ない人を集めてもうまみがないですし」
「クラフトの話ができるだけじゃ駄目なのか?」
「そういう場としてクランを設けるならありだとは思いますけど、それなら掲示板で他クランのクラフターと交流すればいいですから」
「そんなのあるのか」
「はい。コンソールから掲示板を開いて検索してみてください」
サグミさんの言葉通りに検索する。
あった。
「クラフターの集いか。色んなクラフターがここに書き込むってわけだな」
「はい。ミニゲームやおすすめの設定を研究してるみたいです」
「何だそれ楽しそうだな」
どうして今まで調べようと思わなかったんだろ。俺としたことが何という失態。
早速書き込み……じゃない、今はサグミさんがいるだろ。
「事情は分かった。クラフターだけクランに集めるのはメリットが少ないってことだな」
「はい。特にフトシさんは現状一番有名なクラフターです。どうやったってライバル視されますし、下手な人を入れるとギスギスなんてこともあり得ます」
「なるほどなぁ」
考えたこともなかった。
クラフターだって人間だもんな。誰もがポコポコレアアビを量産できるなら俺の名前だけが独り歩きするわけない。好きなことで他人に負けたくないと思うのも人情か。
「ありがとう。着眼点が鋭くて参考になるよ」
「どういたしまして。これでも休止前はバリバリやってましたからね。ペット愛好会はああなっちゃいましたけど、同じことは起こってほしくないですから協力は惜しみません」
人はどうやったって効率を求めたくなる。スズさんがチャンスと見てクラン拡大に動くのはある意味必然だった。サグミさんからぷるるへの引継ぎがうまくいかなかった時点でペット愛好会の末路は確定していたのだろう。
悩んでる時間がもったいない。ひとまずクランの名前はクラフト愛好会にした。
「クランリーダーはどうする? やっぱりサグミさんやる?」
「私はフトシさんがいいと思います」
「サグミさんはリーダーの経験あるんだろ? 俺よりうまくまとめられるんじゃないか」
「経験はあっても名前が売れてませんからね。クラフトと聞けばフトシさんですから、私がリーダーなんて聞いたらみんな首傾げちゃいますよ。何よりもう疲れました、やりたくありません」
最後にぶっちゃけたな。よほど漫才五人衆とスズさんの間でもまれたと見える。
「分かった。リーダーは俺がやるよ」
「はい。お願いします」
俺はコンソールを開いてクランを新しく設立する。
サグミさんを栄えある最初のクランメンバーに迎えた。




