ここはどこだ?
目を開けると青空が広がっていた。
「……あれ? なんで外で寝てるんだ、俺」
起き上がると辺りを見回す。
地面には草が生い茂っていて、遠くには森と丘が見えた。それ以外には何もない。人家もない。車もない。人っ子一人いない。
俺は徐々に現状を受け止めた。
「なるほど、これは夢だな」
それはもう典型的な言葉が口をついた。しかしそれが最も妥当な判断だと思ったのだ。
いや、だっておかしいだろ。俺、家で寝てたんだぞ? 高校から帰って、私服に着替えたと思ったら、異常な眠気に襲われて、そのままベッドに倒れるように眠った。
間違いない。鮮明に覚えている。でも外に出たような記憶はない。だからこれは夢なのだ。そう思わなければやっていられない。
「背中がいてぇ……」
現実は非情である。背中の痛みが「ここは現実だよ?」と優しく教えてくれているのだ。俺は子供のようにいやいやと何度も首を振ったが、激しすぎたせいで頭がくらくらしてきた。そのせいで余計に現実感が強まっていく。
ふと手元に何か硬い感触があることに気づいた。
「なんだ、これ……仮面?」
素材はわからないが、硬質の仮面がすぐ傍に落ちていた。俺は無意識の内にその仮面を手に取る。少しでも現実逃避したかったのかもしれない。別のことに思考を割けば、少しは冷静になるというものだ。
「アニメとかで見たことあるけど、実際に見るとちょっと不気味だな」
当たり前だが目の部分がくり抜かれている。全面的に白いが、所々に灰色と黒色の斑模様が描かれていて、不思議な印象を与えてくる。
仮面は険しい表情で、少し剣呑な感じだった。人であれば、生真面目な雰囲気を持った人物がしそうな表情だ。
見ているとどうにも頭が痛くなってきた。
「まさか呪いの仮面とかじゃないだろうな。被ったら死ぬとか」
んなわけない、と現代っ子の俺はすぐに自分の考えを否定する。座ったら死ぬ椅子とか、見たら死ぬ絵とか世界中にはいわくつきのものは多くあるが、大半の人間は否定するだろう。
ただ、望んで関わろうとは思わない。だってなんか気持ち悪いだろ。信じる信じないは別として、無駄にリスクをとる必要もないし、後々、何か不幸があった時に、あのせいでなんて思いたくもないしさ。
仮面を更に観察する。特に目立った部分はない。誰かの落し物だろうか。
しかしこんな草原のど真ん中で誰が落としたというのか。俺以外には誰もいないし、誰かが通る気配もない。
「はぁ……どうすっかな。夢じゃないみたいだし。そうだ! スマホは……ないか」
ポケットを探っても何も入ってない。寝る時に枕元にスマホを置く習慣があることを思い出す。現代人の相棒は自室で留守番しているようだ。
何が起きたのか、誰が俺をここに連れてきたのか、ここはどこなのか。疑問が頭の中を駆け巡る。しかし答えは出ない。情報が少なすぎる。
とにかくここにいても何も始まらない。空を見る限り、今は昼くらいだろうか。自宅に帰ったのは夕方だったはずだが。
「仕方ない。とりあえず人のいる場所まで歩くか」
周囲の情景からして、人家は見えないが移動するしかない。
手にしたままの仮面を俺は見下ろす。やや不気味だが、何かの手掛かりになるかもしれないし、捨てるのも抵抗があった。仮面の頭部には紐が括られていたので、それを手首に引っ掛けて持ち歩くことにした。かなり邪魔だが仕方がない。
行き先は丘か森のどちらにするか。
俺は森に向かった。丘は越えられると思わなかったからだ。自慢じゃないが俺は一般的な高校二年生。体力にも筋力にも自信はない。今は帰宅部だし大した趣味もない、平々凡々な若者だからな。
しばらく歩き、森の目の前までやってきた。
すると、急に不安が込みあげてくる。都会で暮らしていると森なんてそんなに見ないし、中に入る機会なんて皆無だ。かなり不気味で、不穏だった。
やっぱり丘に行こうかなんて思ったけど、森と丘は真逆。あそこまで歩いて、更に丘を登るなんて考えると辟易とするし、時間を無駄に使うと日が暮れる。
「仕方ないな……」
俺は意を決して森へと足を踏み入れた。