87 異世界の記憶
リリアンの攻撃を受け止めたダンフォール。
しかし、彼の軽い口調とは裏腹に顔は少し歪んでいるようにも見えた。
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ゴンッ……という鈍い音が地下鉄構内に響き渡ると、リリアンがゆっくりと口を開けた。
もう先程までのように、驚いたりはしていない。
淡々と冷たい表情のまま語りかける。
「そんなものか? と言うような表情には見えていないぞ」
「そうかのう?」
「あぁ、いくらその禍々しい炎が、私の特性を拒否しようとしてもそのレベル1の体では無理。私に決定打を与えるような攻撃は出せないでしょう?」
「ほぅ。よく分かっているじゃないか」
「この炎。見たことがあるの、昔々、私に勝負を挑んできた奴隷がいてね……その時は流石に逃げ出したけど」
「そうか。やはり、お主はあの時の」
「?」
会話が少し止まった。
ダンフォールは他人に聞こえない程小さな声量で呟く。聞こえるのは意識の中にいる俺くらいだろう。
リリアンには聞こえないようで、彼女は少し首を傾げていた。
そして、質問する。
「なんか言ったかしら?」
「いや……」
ダンフォールは顔を少し地面に向けてそう答えた。
どうやら、リリアンとダンフォールは異世界に居た時に戦った経験があるようである。
しかも、その時はリリアンが逃げ出したって言うじゃないか。
俺は急いでダンフォールに語りかけた。
(ダンフォールさん! ダンフォールさん!)
(なんじゃ少年よ)
(リリアンと前に戦ったことあるんですか?)
(あぁそうじゃ。あの時のワシは、もうすでにレベルが3桁を超えておったからな。呪怨の濃度も出力も、それなりのモノを出せたのじゃ)
リリアンを過去に退けた彼には分かっていた。
今の俺のレベルじゃ。
リリアンは倒せない――。
なら、どうすればいい?逃げ出せば良いのか、それとも、無謀にも戦うべきなのか。
確かに氷華を連れ出して逃げ切ることは出来るだろう。
だが……。
今すぐにも逃げ出したい。そんな思いを抑えながら俺はある方向に視線を向けた。
そう。俺の視線にあるのは化け物達に囚われた一般人達だ。
一般人達とその人達を囲む檻。
リリアンが召喚した場所と、今、俺達が戦っている場所に多少の距離はあるが彼らの切ない声は微かに聞こえる。
助けてくれ……殺さないでくれ……と。
はたして俺は、そんな彼らを見捨てる事は出来るのだろうか。
リリアンに殺された自衛官達は一般人達を救う為に、命懸けで戦ったのだ。
その雄姿を無駄にするわけにはいかない。
(どうした。少年よ)
ダンフォールさんが急に黙り込んだ俺を心配してくれている。
でも大丈夫だ。
何も絶望したわけじゃない。
俺はハッキリと意思を示した。
(大丈夫ですよ。俺の体のことは)
(まさか、戦い続けるつもりか?)
(はい!)
(ははは! そう言うと思っとったよ。じゃが、そんなに長くは戦えんぞ。この黒炎がHPを一桁減らすまでじゃ。それ以上やると腕が使い物にならんくなる)
(分かりました)
俺が自身のステータスに目をやると、依然としてHPが下がり続けている。
それと同時に俺の両腕は黒い炎に焼かれ、ボロボロの状態だ。
それを見ている氷華も心配そうな顔をして声をかける。
「蓮。本当に大丈夫なの? 腕が……」
「ハッハッハ。大丈夫じゃよ氷華殿、少年に覚悟はあるようじゃ」
「やっぱり、あなた蓮じゃないわね? 誰なの」
氷華が俺に近づいてきた。
確かに、ダンフォールの言葉はおかしい。自分の事をまるで他人のようにいっているのだから。
実際に不信感を思ったのは氷華だけではない。
攻撃が失敗し、後ろに下がったリリアンも顎に手を当ててこちらを見つめている。
「ねぇ。聞いてるの!?」
遂に氷華は、俺の肩を掴める位置まできた。
この時思ったよ。正直に話した方がいいだろうなって。
(ダンフォールさん。少し変わって貰っていい?)
(分かったわい)
ダンフォールさんから俺に意識が変わると、黒炎が両腕から消え、鈍い痛みが走った。
その痛みに俺は耐えながら、俺は氷華を見つめた。
「氷華。俺、実は……意識の中にもう1人の人格がいるんだ」
「あっ。蓮に戻った」
「え?」
俺が思っている以上に氷華の反応はあっさりとしていた。
俺の人格に変わると、笑顔になって声をかけてきたのだ。
「私はどうすればいい?」
氷華のその言葉に対して、俺は彼女の耳に口を近づけた。
そして、あるお願いをした。
「え? 本当に?」
氷華は驚いた表情で、自身の折れた剣を見た。
俺の指示に当惑しているのだろう。
「大丈夫だ。氷華……」
俺が言葉を続けようとした時、リリアンの笑い声が構内に響き渡った。
口元に指を当てて笑っている。
「アハハハハ! さっきの会話とその黒炎を見て確信したわ」
あなた、ダンフォールね――。




