22 Weapon《武具》
何で氷華がここにいるんだ?…
いや、それよりもあんな鎧どこから持ってきたんだよ、、
激闘を終えた蓮と火憐の元に現れたのは、全身鎧姿の氷華だったのだ。
特に、蓮は驚きを隠せない。
驚くのも無理はないだろう。
幼馴染が鎧を着て走ってくる姿など、誰が想像出来るだろうか。
全速力で走ってくる鎧を見て、怯えている火憐に向かって蓮はすぐさま事情を伝えた。
「火憐!あれは敵じゃない」
「敵…じゃない?」
「そう。俺の幼馴染なんだ」
「だから、あなたの名前を呼んでたのね」
「そうだよ。朝、いつも登校してるから仲はいいんだ」
「ふ〜ん。声が高いような気がするけど、、、幼馴染って女…?」
「う、うん。そうだけど何?…」
「へぇ〜、そうなんだ…」
火憐の雰囲気が急に変わった。
腕を組んで、こちらを睨みつけている。
まるで獲物を狙う虎のように、眼の色が金色に輝いているように感じた。
その異様な雰囲気の中であっても、氷華は、こちらにどんどん近づいてくる。
「ちょっと!なんでいつも無視するのよ〜」
【ガシャン!ガシャン!ガシャン!】
鎧の音を鳴らしながら走っていた。
すごい速さだ。
恐らく、制服姿の蓮と走っても勝つであろう。
その迫り来る鎧目掛けて蓮は叫んだ。
「ごめんよ、氷華!でも怖いからゆっくり来てくれ!」
「あっ、はーい」
【ガシャン…ガシャン…】
軽い調子で返すと.速さを緩めてゆっくりと蓮と火憐の元へと着いた。
確かに氷華である。
遠くから見ると鎧の影響で大きく見えるが、近くで見ると小さい。
身長160cmほどの彼女らしいサイズ感だ。
「ふっ、あなたチビね」
氷華が着くや否や、火憐が腕を組んで身長のことを馬鹿にした。
火憐は160cm後半はあるので氷華よりも高いのだ。
その態度はまさに令嬢といった貫禄で、目には力が入っていた。
まるで氷華を敵対視しているようである。
2人の険悪な雰囲気は、近くにいた蓮さえも圧倒した。
元々、気の弱い彼は事態を収拾させる事が出来ずにただ右往左往して戸惑っているようだ。
あぁ、なんで喧嘩腰なんだよ…
敵じゃないんだから、仲良くしてくれ、、、
最悪、氷華の方から折れてくれればいいけど…
蓮は氷華の方をチラリと見たが、願いは叶わなさそうである。
氷華の方も馬鹿にされていて黙っているような性格ではないのだ。
体の向きを火憐の方向へ向けると、指で彼女の髪を指しながら反撃する。
「チビ…?可愛いと言いなさいよ、あんたも何その髪色…銀髪ってw、中二病で銀色に染めちゃったの?」
「あなた、人の髪色を馬鹿にする気かしら」
「喧嘩を売って来たのは、そっちでしょ。ほら、さっさとその可笑しな髪色を直して来なさいよ」
「お…可笑しな髪色?、、うっゔ…これは、地毛の色なんだぞ、、、馬鹿に…するなよ、うっ…」
髪の色は、火憐にとっては地雷だったらしい。
少しイジられただけで泣き出してしまった。
氷華はそれを見て罪悪感を感じたのだろう。すぐに近寄って謝罪をする。
「ご、ごめん。ちょっと言いすぎたわ。というか蓮、この子誰?」
「俺の高校の友達で、松尾火憐って言うんだ」
「火憐ちゃんごめんね…」
氷華にあやされている火憐を見て、蓮は遠い目をしていた。
高校で俺を虐めていた時からすると、現在の姿は全く想像できないのだ。
今日1日で松尾さんへの印象が変わるなぁ…
まぁ確かに俺を虐めてる時も別に見てるだけだったし、鮫島が俺を殴ろうとした時も、止めてくれたし
やはり、いじめっ子気質ではなさそうだ。
でも、そんな事より今は、氷華に聞かなきゃならない事がある。
真面目な顔に切り替えた蓮が話を切り出す。
「氷華、なんで今、1人で行動をしているんだ?」
「それがね…みんな塾があるって先に帰っちゃったのよ」
「え……そ、そうか。じゃあ、今着ている鎧はどうしたの?…」
「この鎧のこと?これはね、横穴に入れば奥に宝箱があって、、そこから取ってきたの!」
「横穴に入ったのか!、、、全く、度胸あるなぁ」
「いや、普通は入るでしょ!装備も無しに戦えないよ」
「え?…装備も無しに戦えない?」
「!?、もしかして装備を付けずに戦ったの?」
【ガシャン!】
彼女は頭につけた鎧を外して、素顔を見せる。
その表情は、驚きを隠せない様子であった。
装備?、、
今、氷華が着ている鎧の事かな、、、
「うん。なにも装備せずに戦ったけど」
「うっ…、う、わた…しも、ヒグッ…装備ない…よ…」
「はぁ…全く…多分ここダンジョンの最下層よ。危ないわね」
まだ泣いている火憐であったが、話の内容が内容なだけに頑張って会話に参加して来た。
『装備』という概念すらない2人の話を聞いて、氷華は呆れ顔のまま言葉を続ける。
「装備を付けずに戦ってよく生き残れたわね。ゲームでも武器とか防具をつけてから戦うでしょ?」
「ん、どういう意味?」
俺は氷華の言葉の意味が分からなかった。
隣にいる火憐もそうだ、首を傾げて考えている。
「い…意味、分からない…うっ…」
いつまで経っても理解できない2人に、氷華は呆れ果てたようだ。
外国人のようにやれやれという感じで手を水平にして動かすと、細い目をしながら意図を教えてくれた。
「簡単に言うと…装備を一切付けずに『FPS』をやるようなモノよ」
「なるほど」
「なるほど…うぐっ……」




