表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/122

20 ともだち

 

 ――俺は、希望を瞳に宿していた。



 よし……これで『呪怨(じゅおん)』が使用できる。



 そのまま高鳴る鼓動を抑えて『コマンド』を選択したんだ。

 俺達の最後の希望を。


 ――――――――――――――――――――――――――

   選択時間:5秒

  ●物理攻撃

 → ●呪怨(じゅおん) ※MP移譲が行われる予定の為、可能

  ●身を守る

  ●アイテム ――――――――――――――――――――――――――




「頼む……」



 口から自然と漏れ出る願望。



 頼む。これでダメなら他に方法が無いんだ。

 MPを分けてくれた松尾のためにも……俺は、成功させなきゃならない。



 俺は、目を(つむ)った。




〈プレイヤー側の選択が終わりましたので、プレイヤーのターンを開始いたします〉




 機械音の言葉が、実質的な最後のターンを開始した。



 もうこれ以上、化け物(あいつ)の攻撃を受けきれない。

 次の攻撃を受ければ……俺の意識が飛ぶだろう。



〈プレイヤー『松尾』は、『魔法(マジック)』を選択されましたので実行致します〉



〈『移転魔法(トランス・マジック)』を発動します。効果により『松尾』の『MP値500』を全て『蓮』に移転させます〉



「え?……」




 俺は驚き、彼女の方向を向いてしまった。



 『魔道士(メイジ)』である松尾にとって、MPは最重要でだと思う。

 それほど重要なMPを全て分け与えてくれるとは思っていなかったんだ。



 俺の慌てた顔を見ると、彼女は少し笑っていた。




「あはは。いいのよ、私の全部あげるわ……ずっと化け物の攻撃から(かば)ってくれたんでしょ?」

「いいんですか……松尾さん……」



「いいわよ!あと!!その松尾さんって呼び方やめてよね、これからは火憐(かれん)って呼びなさいよ」

「え……は…はい………火憐(かれん)……さん」



「もう!!さん付けはやめてよね!」

「分かったよ………火憐(かれん)……」



「ふふっ、それでいいのよ」

「………………」



 満面の笑みを浮かべる松尾……学校生活で見る事の無かった表情だ。



 急にどうしたんだろ……俺を虐めていた時とは全然違う。

 ピリピリとした雰囲気じゃない……優しい表情だ。



 そんな彼女を見ていると俺の調子が狂う。

 なんて反応すればいいか分からないからだ。



 そのまま何も言えずに黙っていると、彼女の方から会話を続けてきた。




「……私の裸見たでしょ?」

「え……」



「ふふっ。分かりやすいリアクションね」

「ごめん……」



「まぁ……いいわよ」

「!!?……」



「気を失いかけるまで、私の事を庇ってくれたんでしょう?そんなあなたを……責める気にはなれないわ」

「…………」



 気を失いかけるまで……か………確かに俺は、何回も何回も化け物(あいつ)から彼女を守ってきた。



 おかげで俺の周りにはもう石が無い。

 終盤は、靴や腕時計を投げて化け物(あいつ)の注意を引いたんだ。




 俺は、先程までの記憶を辿っていた。

 良くも悪くもこのターンで全てが終わる……いや、違う!

 俺には火憐に伝えなきゃならない事がある。



 それは………もし『呪怨(じゅおん)』で化け物(あいつ)を倒せなかった時の事だ。

 俺は声のトーンを変えて、松尾を見つめた。



「……ねぇ………火憐(かれん)

「何?……」



「………逃げてくれ……」

「……え……私だけ逃げろって事?…」



「うん……この状況を変えられないかもしれないんだ。せめて火憐だけでも……確実に……」

「変な事言わないでよ!!それに、『逃げる』を選んでも、実際に逃げられるとは限らないんじゃない?……」



「………多分……大丈夫だと思う。鮫島くんがそれで逃げてたから……」

「…そっか……だから鮫島(あいつ)、居ないのか……」



 松尾の表情が険しいものへと変わっていく。

 仲間に裏切られたのだから無理もない。




 ――たとえ、鮫島(かれ)の全てを信用していなくとも




 落ち込む彼女を見て、俺は申し訳なくなった。

 鮫島に裏切られた事は今言うべきじゃなかったかな……って。



 俺はこの嫌な雰囲気を変えるために、わざと明るいトーンで彼女に話しかけたんだ。




「ごめん。鮫島(かれ)も、何か考えがあって……」

「……いいのよれ!もともと鮫島の事はあまり信用はしてなかったの!――彼とつるんでいたのは、皆から孤立しちゃったのが理由なんだから!!」



 松尾は顔を上げると、俺の顔を見つめた。

 そして彼女は再び笑顔をみせたんだ。



 俺が見とれてしまうほどにね。

 


「とりあえず鮫島の事なんてどうでもいいわ……でも、これで私の友達は、(あなた)だけになっちゃったってわけ!」

「へ?……」



「だ・か・ら、あなたが居なくなると困るのよ!『逃げろ』なんて言わないでよね」

「……ありがとう」




 あなたが居なくなると困る。――そんな言葉言われたことなかった。



 俺はゆっくりと化け物の方へ体を向ける。

 化け物を捉えた瞳は、覚悟を決めた獅子(しし)のようだった。




〈プレイヤー『蓮』が『戦う』を選択致しましたので、『呪猫(カース・キティ)』に対する攻撃を始めます〉



〈『蓮』の攻撃、MPを『250』消費して『呪怨(じゅおん)』が実行されます〉



 ――最後のターンが、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ