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96 過去転移



「わしのいた世界……過去へ戻るぞ……」



荒れ果てた地上で蓮は黒い煙に包まれていた。

乗り移ったダンフォールの魔法である。どこまでも深い、その黒い煙は、何もかも飲み込む深淵の闇であった。

体がその闇に完全に包み込まれるとダンフォールは最期の言葉を残した。



「じゃあな少年よ。わしは、わしの精神を生け贄にして少年に未来を託そう!」



そういうとダンフォールは魔法を発動した。

いや、奴隷(スレイヴ)に魔法は使えないから、これは呪怨と呼ばれる呪いの一種だ。

禍々しい闇に包まれる中で蓮は考えていた。

構内に残した氷華に、学校で別れた火憐。彼女達はこの後どうなるのだろうか?と。

その時だ。



深淵の闇でありながら、彼女の声が聞こえたのだ。

氷華の叫び声が。



「蓮!? その中にいるの?」



急ぎ、地下鉄構内から蓮を追ってきたのだろう。呼吸は荒く、ひどく動揺している。

彼女の言葉に蓮も不安が強くなったのか、ダンフォールに語りかけた。



(ダンフォールさん。俺が消えたらこの世界は……)

(安心しろ少年よ。過去を変えれば未来は変わる)



そうダンフォールさんが返すと、いよいよお別れの時が来た。

彼は深い深呼吸をした後、目をキリッと開けて最期の呪いを発動した。



(全てを戻せ……ALL RESET(オール・リセット)……)



呪いを発動した後はすぐであった。

体は闇ごと消えた。

風が吹き闇を払っても、そこに蓮の姿はなかった。



「蓮?……」



ガシャン、と崩れ落ちる氷華。

彼女が伸ばすその先には蓮が絶望した世界が広がっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ん……ん……」



暗い暗い暗闇に落とされた蓮。

彼が異世界で目を覚ましたのはすぐであった。



(ここは……どこだ?……)



彼は目を瞑っていた。

突然、ダンフォールから未来を託されたのだ。無理もない。

頭が混乱している中で感じるのは、ザラザラとした感触と砂埃がまっているような乾いた空気だった。

自然と体は痛くないし、体を横にしているのだろう。随分と楽な姿勢である。

ただ文句をつけるとすれば寝床が最悪という点であろう。



「ん?……」



蓮は恐る恐る目を開けた。

ダンフォールの言葉通りなら、彼は今、世界が同化する前の異世界にいるはずだ。

一体、どんな世界で自分の存在がどのようなものなのか、想像もつかない。



「なんだこれ」



目を開けるとここがどういう場所なのか理解できた。

地面に無造作に敷かれた藁に、壁と天井は素人が建てたようなあばら屋である。

蓮の手首には鎖が施されており、周囲にはスヤスヤと寝ている幼い子供が数人いる。

恐らく蓮も周囲の子供達も奴隷であろう。



「俺の年齢は……」



蓮もすぐさまに自らの手や足を見た。

どうやら、転生前と変わっていない様子である。高校生くらいの風貌といったところだろうか。

それを見た蓮は安堵した様子で立ち上がった。

格子状の窓から差し込む太陽の光を浴びて、彼は拳を強く握りしめた。



(俺、これからどうすればいいんだ?)



その場に立ち尽くす蓮。

ダンフォールがこの世界で一体どんな立ち位置だったのか、どうすれば魔王に会えるのか、そればかり考えていた。

転移前のダンフォールの言葉を思い返すと、魔王と呼ばれる存在さえ倒せば、世界の同化を止められるはずだ。

彼は腕を組んで考えている。



(魔王って一体、どんな奴だろう)



頭をひねっても全くわからない。

彼がどうしようかと考えていると、誰かが蓮の服を引っ張ってきた。

ボロボロな布を継ぎ合わせた服なので、肌に擦れて痛い。



「ん!?」

「ねぇ。お兄ちゃん」



その正体は子供であった。

小学生の身なりをした女の子、長い髪は奴隷にしては綺麗な様に見える。

突然、話しかけられた蓮はひどく驚いた様子で話しかけた。



「ど、どうしたのかなぁ?」



笑顔を作って優しくしているつもりなのだろうが、不自然な笑顔はかえって不気味である。

少女は蓮のその不気味な笑顔を怖がらず、真剣な表情のまま言葉を続けた。



「お兄ちゃん、今日、ここを脱出するって言ってたよね? お願い。私達も連れて行って……」



今にも泣きそうな声で訴える少女。

そして、それに動揺して何も言葉を発せない蓮。

よく見ると少女の奥にいた子供達も続々と起き上がってこちらを見つめているではないか。

少女も含めて3人ほどだ。

それを見た蓮はこう思った。



(ダンフォールさん……この状況は一体、なんですか?……)



と。


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