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95 世界を救う為には

 

 リリアンから逃した一般人。

 彼らの正体は、化け物に囚われたか弱き一般人ではない。

 化け物だ――。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「俺たちが逃したのは……化け物だ……」



 蓮は、苦虫を潰したような顔で氷華と西園寺の方向を見た。

 その目の先にいる氷華と西園寺も唖然とした表情のまま固まっている。

 自らが犯した過ちを飲み込めていない様子だ。

 しばしの沈黙のあと、先に動いたのは西園寺だった。もう一度、剣を上段に構えるとケルベロスの首に向かって叩きつける。



「くそぉおおおおお!」



 白い冷気が残像を残した斬撃は、ザンッ、という音とともにケルベロスの三つの首を切り落とした。

 胴体の離れた化け物は遂には力尽き、体も顔も儚く消え去った。

 西園寺は剣を振り下ろした後、肩をあげて息をするほど動揺して焦った様子で蓮に食いかかった。



「これからどうすればいい!」

「お、落ち着いて西園寺君」



 比較的、冷静な氷華は西園寺の方に手をのせてなだめようとしている。

 しかし彼女の手も震えている。

 外の状況を想像して、何も考えられないのだろう。



 化け物が地上を闊歩する――。

 そんな恐ろしい想像は脳が拒絶するのだ。

 蓮も顔を下に向けたまま動かない。

 本来なら残ったケルベロスなど放っておいて地上に行くべきなのだが、もう間に合わない、という諦めの感情が働いているのだ。

 何もせずただじっと考えている彼らに声をかけたのは先程のケルベロスであった。



「オマエラ、モウテオクレ」

「うるさい……」



 あざ笑うかのような口ぶりのケルベロスに蓮は憤っていた。

 拳を固く握り締めふるえている。

 自らへの怒りと化け物への怒り、それらが混じった隠しきれない憤り。

 その様子を見たケルベロスはさらに嘲笑を続ける。



「モウ、アキラメロ」

「うるさい……」

「モウ、オトナシク……」

「だまれ」



 ケルベロスが言葉を言い終わる前に三つの首は姿を消した。

 蓮が左手の甲でそれらをなぎ払ったのだ。

 彼の手に触れた化け物は全て燃え尽きた。呪怨と呼ばれる炎に……。

 そう。蓮は無意識に発動していたのだ。

 スキルを用いて自動的にHPをMPに割り振ってケルベロスを燃やすほどの魔力を手にしたのだ。



「蓮?」



 その様子に驚いたのは氷華だ。

 蓮の左腕に纏った禍々しい炎を見て少し怯えている。

 今までの彼とは違うからだ。今の彼には怒りの感情以外にない。

 蓮は氷華と西園寺の方向を見ると、作った笑顔でこういった。



「俺、行ってくるよ」



 彼の笑顔は、リリアンとの戦闘でボロボロになったその体を感じさせない。

 氷華と西園寺も何も言い返せない程に異様な光景であった。

 そして、二人が反応するまでに蓮は動き出したのだ。



(体が鈍りみたいに重い……でも……)



 彼はスキルを発動させた。



(ALL CHANGE(オール・チェンジ)発動)



 スキルを発動させた瞬間。

 彼の顔は苦痛に歪んだ。先程の戦闘で無茶をしたのだから当然だろう。

 体は軋み、意識が遠のく。

 そんな状況下でも彼は歯を食いしばって床を踏みしめた。



「俺が……やらなきゃ」



 蓮は力強く床を蹴ると、風を切って前に進み、一瞬の間に地上へと出た。

 もちろん。氷華や西園寺は残してだ。

 そんな彼の目に映った地上の姿はまさに地獄であった。



「嘘だろ?」



 目の前に広がるのは、無数のケルベロスに襲われていく人々。

 いや、それだけではない。

 ゴブリンやアンデッド、他の化け物達も地上にいるではないか。

 どうやら他の地域の救出作戦も失敗したようだ。

 大勢の人間が奴等に殺されてしまった。

 西園寺の後に援軍が続かなかったのも地上で抗戦していたからだろう。



「どうすればいい?……」



 夕焼けに染まる街で車は倒され、火の手が上がり、サイレンが鳴り響く。

 化け物と対峙している人もいるが明らかに劣勢だ。このまま侵略されていくことは目に見えていた。

 もうなにも考えられない、そんな時だ。



(少年よ……)



 心の中で声がしたのだ。

 リリアンとの戦闘でダメージを負ったダンフォールの声。それは今の蓮にとっては願っても無いものだった。



(ダンフォールさん! 俺、どうしたら)

(やはり、化け物どもはダンジョンの外へと出てしまったか)

(……)

(気に病むな。まだ方法はある)

(え?)

(危険すぎる賭けじゃがのう)

(それでもいい……今の現状を変えられるなら……)

(わしに代わってくれ)



 ダンフォールは俺の体に乗り移ると、ある解決策を提示してきた。

 それは、思いもつかなかったものだ。

 ダンフォールは重たい口調のまま声を発する。



「この世界がわしらの世界と同化していくのは、わしらの世界の方にも責任があったんじゃ」

(え?)


「わしらの世界に魔王と呼ばれる者がおってな。そ奴が自らの領土を増やす為に禁忌を犯したのかもしれん」

(その話、今に何の関係が……)



「じゃから、戻るんじゃよ……」



 ダンフォールさんはそう言うと右の掌を前に出して、自らを呪怨で包み込んだ。

 真っ黒な黒煙は俺の体をゆっくりと包み込む。

 状況が理解出来ない蓮は、何も言葉を発せず、ただジッと黙っていた。

 すると、ダンフォールさんが固く閉ざした口をゆっくりと開けた。



「ゆくぞ少年。世界が同化する前へ………」



 わしのいた世界へ――。



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