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その後のオルボアでは……

次から東へ向かうと言ったな?あれはウソだ。



|||||

(°Д°)

ーーー

オルボアにある女性専用宿屋『白鳥の安らぎ亭』は、早朝から大賑わいだった。


「ほらよ、野菜炒め」

(あね)さんありがとう」


宿屋の女将であるデボラが、両手に野菜たっぷりの器をテーブルの上に置く。

剣士のレオナがお礼を言い、自分達のテーブルの上に小皿を並べて行く。


「ベーコン少なくない?いや、姉さんの野菜炒めは美味しいんだけど」

「パンは一人一個?」

「飲み物持って来たよ」

「あら、私の分はまだなのかしら?」

「ジル、自分の分は自分で用意するべき」

「そうそう」

「あぁ~もう、うるさいねぇ!!」


カウンター近くのテーブルで、レオナの冒険者チームのメンバーが、各々好き勝手な事を言っていた。

そんな中……


「あの、お弁当をお願いしていたのですけど」


数日前に泊まりに来た新人の冒険者が、カウンターに戻って来たデボラに対して、躊躇いがちにそう言ってくる。

先日までは、女性冒険者達の活動は、オルボア都市内部に限定されていたのだが、昨日の夕方やっと解除されたのだった。

その為、今朝も早くからこの騒ぎとなっていたのだ。


「あ~っと、弁当だね?ちょっと待っとくれ」


そう言うと、カウンターの奥に入って行き、『ルーラーの葉』で包まれた代物を出して来る。

『ルーラー』とは、ポーションに使われる植物の一種で、その大きな葉には腐敗防止成分があり、食べ物を包むのに役立っていた。

その『ルーラーの葉』で包まれていたのは、デボラ特製サンドイッチだ。

昨日の残りの肉類を細かく刻み、スライスしたパンの間に野菜と一緒に挟んでいる。

そんな包みをカウンターに並べて行くと……


「これで全部だねぇ、おーいケーテ、これを配って……あっ?!」


つい言ってしまった言葉に何とも言えない顔をするデボラ、そんなデボラを見てニヤニヤするレオナ、そっと知らない振りをする他の冒険者達。

白鳥の安らぎ亭は『微妙な空気』が漂っていた……のだが


「姉さん、これ配るの?」

「一人一個ずつ?」


レオナの仲間である弓使いの姉妹ナディとリディが、サンドイッチの包みを手に取りながら聞いてくる。


「あ~そうだね、ナディ、リディ頼めるかい?」

「うん、任せて」

「配ってくる」


元気よく答えると、両手に抱えながら、冒険者達の元へと歩いて行く。

その後ろ姿を見ながら「はぁ~」っと、深いため息を付くデボラ。

ケーテは昨日の晩を最後に、宿屋の手伝いを終了となっていた。

元々、他の冒険者達とのイザコザが多い事に対する罰だったのだが、一月以上一緒にやってきた事で、心の中ではデボラも頼りにしていた様だった。


「いや~予想外だったよ。姉さんがケーテの事をそこまで信頼してたなんて」

「うるさいよレオナ!!」


カウンターに近付いてきた戦士のレオナに怒鳴り返すも、耳元が赤くなっているデボラ。

デボラ自身も『居る事が当たり前』と思っていた事に驚いていたのだが……


「姉さん的には、リリーの方にご執着かなって思ってたんだけど?」

「リリーはカタリーナのもんだからね。しょうがないさ」

「そんなもんかねぇ?」


演目にもなっている『カタリーナの冒険者譚』だが、その話の元となる冒険者仲間が、若き頃のデボラだった。

その繋がりから、騎士伯夫人となった今でも、呼び捨てが許されている。

もっとも、カタリーナ側にしてみれば


「デボラさんは、何言っても無駄だから」


と、諦め状態。


「それにアレだよ、リリーに比べてケーテは『おバカさん』だからねぇ~」

「あぁ~、まぁ……それは」

「バカな()程可愛いって言うだろ?」


ニヤリと笑うデボラと顔を見合わせて、思わず吹き出すレオナだった。



ーーー

同時刻、冒険者ギルド入り口では……


「うぐっ?!」

「な、何だ?!何の臭いだ?!」

「くせぇ!!」


っと、冒険者達の叫び声が響いていた。

その原因はと言うと……


「はぁ……やっと帰ってこれたぜ」

「疲れた……」

「早く報告しちまおうぜ……」


全身泥だらけの小汚ない男達が五人、冒険者ギルドの入り口から入って来たからだった。

その全身から出る臭いは強烈で、入り口近付くに居た人達が、鼻を押さえて逃げ惑っていた。

ギルドの奥へと逃げる者、隙を見て横を駆け抜ける者、中には窓から顔を外へと出している者までいる。


そんな五人が歩く先には、先日登用されたばかりの新人受付嬢が、ガタガタ震えながら涙目になっていた。

異臭を放ちながら『べちゃり、べちゃり』と湿った足音を出す男達に、最早気絶寸是だったのだが……


「代わるわ」

「ジーン先輩?!」


『ぽん』と肩に手を置かれので振り向くと、そこには受付け業務の教育をしてくれたジーンが立っていた。


「奥で、昨日までの書類の確認をしておいてくれないかしら?」

「で、でも……」

「お願いね?」

「……はい、分かりました」


足早に奥へと引っ込む後輩を見送ると、カウンターの方へと目をやる。

『泥だらけの男達』の一人、スキンヘッドの男が紙切れを出して来た。


「ようジーン、これ処置頼む」

「えっ?」


出された用紙を見ると、『地下下水道モンスター退治』と書かれていた。

しかもその文字は、ジーン本人が書いた物だった。


「……もしかしてゴンズさんのチーム?」

「おいおい、忘れられてたのかよ?」


スキンヘッドの男が呆れた顔をしながら呟く。

彼らは、一月ちょっと前に、このカウンター前でリリーと黒騎士にちょっかいを掛けて返り討ちに合い、さらに罰としてオルボア地下の下水道へと放り込まれた『戦士だけの冒険者達』だった。

全身泥だらけの為、誰も気付かなかったのだが……


「それで仕事の件なんだが?」

「あ、あぁはい、『下水道内の清掃』でしたね?」

「……『モンスター退治』だよ」


オルボアの地下にある下水道システムは、長い年月をかけて作った代物だ。

都市から出た汚水を地下の水路で流し、出入口に当たる場所に設置した魔導具で浄化する様になっている。

しかし、場所柄的に、外部からモンスター等が入り易くなっている為、年に一回は見回り兼討伐隊が結成されている。

当然、そんな仕事は冒険者ギルドへと持ち込まれるのだが……汚れ仕事は誰もやりたがらない訳で、今回のゴンズ達の様に『罰則的』にやらされる事も多い。


「……はい、書類に問題ありません。すぐに報酬を用意します」


あちこちに汚れの目立つ書類をしっかり確認すると、ジーンは奥に居る別の男性職員に目配せをする。

男性職員は、足早に奥の金庫へと向かう。


「あ~それと、こっちの処置を頼む」


そう言って出されたのは、傷だらけになった銅プレートだった。

そのプレートに書かれていた文字は『ゴンズ』だ。


「これって?」

「リーダーのゴンズが殺られちまってんだ」


そう言うと、顔を伏せるスキンヘッド。

話によると、大量の昆虫型モンスターに奇襲されて、リーダーのゴンズが喰われてしまったらしい。

それこそ数の暴力で、骨が少々残る程度だったとか……


地下の下水道に生息するモンスターは、大体がネズミの変異種だ。

ネズミとは言え、大きさは中型犬程ある……が、これらは冒険者達に(かな)わない事を知っており、そうそう襲って来る事は無い、むしろ逃げの一手ばかりだ。

だからこそ討伐し難いのだが……

そんなネズミ達と同じ位生息しているのが昆虫型モンスターと呼ばれるやつだ。

昆虫型は、精々拳大程度の大きさだが、恐れを知らず、動く物は全てエサと認識している。

その為、オルボア地下では日々、大きなネズミ達と大型化した昆虫が、生存競争を繰り広げているのだった。


今回、ゴンズのチームは、南部の処理施設側から入り、時計回りに各地に生息しているネズミや昆虫達を始末していった。

前半は順調だったのだが、半分を過ぎた辺りから敵の数が増え、徐々に追い詰められる様になったのだった。

そして、餌食になったのがリーダーのゴンズだったのだが……


「それで……だ。あの黒い兄ちゃんとちっこい嬢ちゃんは今どうしてる?」

「私怨は推奨してないわよ?」

「ち、違ぇよ!!逆だ逆!!」


リリーと黒騎士の事を聞いてきた冒険者達に、思わず釘をさすジーンだったが、スキンヘッドの男は『心外だ』とでも言いたげに首を振る。

振る度に『泥の様な何か』が飛び散ったのだが……


「あの嬢ちゃんによ、礼を言いたくてな」

「……お礼参りもダメよ?」

「だから、そっちじゃねぇよ!!助けられたお礼だっつってんだよ」

「助けられた?」


彼らの言う事が一切信じられなかったジーンだったが、詳しい話を聞いて成る程となった。

所謂、彼らも昆虫の群れによって全身噛られまくったらしい。

何人かは、指先を喰われたとも言っていた。


「……指ありますよね?」

「生えてきたんだよ」

「……」

「何だよその目、本当なんだよ!!食い千切られた指が生えてきたんだよ!!」

「指だけじゃねぇ、俺なんて耳を食い千切られたのに治ったんだ!!」


それぞれが、やれ何処を喰われただの千切られただの言うのだが、どう見ても汚れた身体に五体満足としか言い様がなかった。


「それとリリーさん達に何の関係が?」

「あの嬢ちゃん、何か(まじな)いをしたって言ってたよな?」

「俺達の鎧がボンヤリと光ったと思ったら、指が生えてきたんだよ!!」

「本当なんだって!!」


彼らが必死に騒ぐが、誰もその言葉を信用する者はいなかった。

全員、『何言ってんだコイツ?』とばかりの目を向けていた。


実際の所、彼らが苦戦していた時期、リリー達がゴブリン討伐に行っていた時期と重なったのが原因だった。

リリーが、朝からスキルを発動していた事で、オルボア地下にいた彼らにも、その恩恵が伝わっていたと言う事なのだ。

彼らの着ていた鎧には、リリーの『血の触媒』が付いたままだったからだ。

ただし、リーダーのゴンズは『血の触媒』をされていなかった為、回復の恩恵を受けられず、モンスターの波に飲み込まれていったのだが……


「どちらにしても彼女達に会う事は無理です。今朝早くに出て行きましたから」

「そ、そうか……」


ジーンにそう言われ、ガックリと肩を落とすスキンヘッドの男。

彼自身、本気で礼を言いたかったのだ。


山賊の様な成りをしていても、根は素直……なのかもしれない。

ジーンとしても、彼らに対する評価を『少しだけ』変更した瞬間だった。

すみません、リアル仕事が忙しく時間が取れません。


( へ;_ _)へ{気長にお待ち下さい

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