撫でられてました
続きです。
ω=){亀展開ですみません
オルボアの街、その裏通りで五人の男達がヒソヒソと話をしていた。
「本当なのか?見間違いではないのか?」
「貴族通りを流していた者からの報告だ」
「まさか、まだこの街に居たとは……」
特徴の無い顔の男達が『笑顔』を張り付けながらそんな事を言う。
端から見れば、周りと合わない不思議な光景だったろう。
彼らは盗賊ギルドに所属する情報屋だ。
今、彼らが話しているのは、一時期話題に上がった『黒い鎧の大男と黒髪黒目の女の子』だった。
裏の世界でも、その居場所を探そうと必死になった人物達が、オルボアの街中を歩いている。
その情報を知った者達が集まり、情報交換をしているのだった。
「それで……暗殺者ギルドには連絡したのか?」
仲間の一人がそう言うと
「いや、まだ本人を直接確認した訳じゃないからな。この目で見てからだ」
恐らく、一番ベテランだと思われる男性が、淡々と答える。
ウワサ程度で情報のやり取りをすれば、自らの情報への信頼を失う。
だからこそ、こうして仲間と集まり、情報の真偽を確かめていたのだ。
「それで、獲物は?」
その言葉に、最初この話を持って来た情報屋に視線が集中する。
「……冒険者ギルドだ」
その言葉を合図に、それぞれが細い路地をバラバラに歩き出す。
冒険者ギルドに向かって。
ーーー
ギルドマスターの部屋を出たリリーは、廊下をゆっくり歩いている。
チラリと腰に下げた袋を見てため息をつく。
結局、ゲイルに押し付けられる様にしながら、マジックポーチを受け取る事になった。
「銀貨だけじゃなく……こんな書類まで……」
リリーが受け取った書類は『未処理の依頼終了証』だった。
内容は、簡単な『お使い』や『草むしり』と言った雑用だ。
それを『毎日二~三件』やっている事になっている。
これらは、リリーが寝込んでいた十四日間に、他の冒険者達が『勝手に』受けていたモノだ。
今回のゴブリン討伐で、リリーに冒険者としての実績が付かないと聞いた者達が
「だったら俺達が実績を作ってやる」
と、低レベル帯の依頼を『リリーの名で』受けていたのだった。
本来なら違反行為なのだが、ギルドマスターのゲイルを筆頭に、受付嬢までも見ぬ振りをしていた。
受けた依頼が低レベルだったのも理由だったのだろう。
ゴブリン討伐には程遠いが、それなりの実績作りにはなっていた。
「あの……ジーンさん……これ」
ギルド一階の受付で、書類を出すリリー。
「はい、すぐに手続きしますね。プレートも一緒に出して下さい」
ジーンは書類を受け取ると、さっさと受領サインをしていく。
どう見ても確認している様には見えないのだが……
「はい、完了です。プレートにも記録しておきました」
プレートの裏側に丸い点が刻まれている。
この点の数が、冒険者ギルドへの貢献の数となる。
それを確認し、プレートを首元に付けていると
「所でリリーさん、何故、白いローブから赤いローブになったのです?」
不思議そうな顔をしたジーンが聞いて来る。
「えぇ……まぁ……ちょっと色々……ありまして」
「その色々って?」
「うっ!!」
アフィレス家を出てから商店街を抜ける際も、色々な人に聞かれて来たのだが、『色々ありまして』と言えば、全員『そうなのか』と納得してくれていたのだが……
「その……色々です」
「例えば?」
「ぐっ……」
グイグイと食いついて来るジーンにタジタジのリリーだったが、周囲を見渡しそっとジーンに顔を寄せる。
ジーンの表情を見れば、諦めてくれる様には見えなかったからだ。
「えっと……ゴブリンの血や肉って……臭いです……よね?」
「えぇ、それは有名な話ですから」
ーーー
ゴブリンは臭い。
これは冒険者内でも有名な話だが、その臭さは体臭だけでは無い。
血や肉も、とてつもなく臭い代物だ。
過去、とある研究者が『モンスターを食べれないだろうか』との疑問から、ある実験を行った。
低レベル帯の冒険者でも狩れるモンスターで料理を作ろうと言うモノだ。
集められたモンスターは、オーク、コボルト、オーガ、ワイバーン、そしてゴブリンだった。
結果から言えば、何とか食べる事が出来たのはオークとワイバーンだった。
とはいえ、美味しい訳でもなく、極普通の肉であり、労力に見合う代物では無い。
オーガは全身が筋肉の塊だった為、噛み切る事すら出来ず、コボルトは獣臭さがなかなか抜けず香辛料を大量に使う事となり高価になってしまう等、それぞれに問題があった。
そしてゴブリンはと言うと……血抜きの時点で、調理場に悪臭が立ち込み、肉に関しては、香辛料すらも効かない程の臭みしか無く、人が食べれる代物ではないと判断されてしまったのだ。
ーーー
ゴブリン討伐時、リリーに襲いかかっていたゴブリンを 黒騎士が粉砕した際、全身に肉片と細かい血渋きを浴びてしまっていた。
アフィレス家に運び込まれた後、意識を失っていたリリーは、アフィレス家のメイド達によって、臭いが消えるまで、その身体をしっかりと洗い流されていたのだった。
問題は衣服。
ゴブリンの血によって出来た染みがなかなか取れず、折角の白いローブが斑模様になってしまった。
そこでカタリーナが、
「どうせなら汚れが目立たなくなる様な色にしましょう」
と言いだし、この真っ赤なローブになってしまったのだ。
白のローブも目立つが、この真っ赤なローブは『さらに』目立つ事となる。
ただリリーとしても、カタリーナの善意だけに文句を言う訳にもいかず、こうしてフードを被り、顔を隠して出歩くしかないのだった。
「へぇ~大変だったのね」
大まかな話の内容に相づちを打つジーンは、目の前のリリーの頭を軽く撫でる。
「まぁ……大変だった……のです」
頭を撫でられながらもガックリと肩を落とすリリーだった。