プレートを受け取ったようです
毎日更新が一つ終わったので、こちらの方をガンガン書いて行……けたら良いのですが。
( へ;_ _)へ{頑張りますので少々お待ちを
窓から差し込む日の光の中、机の上に乗っていた書類にサインをし終え、左の箱へと入れる男が居た。
「はぁ……一箱目」
ため息を付くと、 机右側を見る。
そこには、同じ大きさの箱が三箱置いてあった、
一箱に二~三百枚程の書類の入った箱だ。
げんなりとした顔で箱から視線を外し、椅子の背もたれに寄りかかり、疲れた目を揉みほぐす。
疲れた顔をしているのは、無精髭の生えたオルボアギルドマスターのゲイルだった。
ここ数日、朝は日の出前に顔を出し、夜遅くに帰る生活が続いている。
やる事は書類内容の確認とサインだけだったが、それでも数が多過ぎた。
「はぁ……ギルドマスター辞めてぇな……」
そう呟くと、目を開き前を見る。
そこには、ソファーに座り紅茶を飲むリリーの姿があった。
中身が半分程になったカップを音を立てずソーサーに置き、クッキーを両手で持つ。
そっと口に近付けると、端の方から齧っていく。
『へぇ~、まるで『お貴族様』みてぇじゃねぇか?……って、貴族になっちまったんだったな』
優雅な姿に一瞬目を奪われたゲイルだったが、軽く首を振って、余計な思いを吹き飛ばす。
冒険者の中には、見た目や実力を見込まれて、貴族に取り込まれる者が『それなり』にいる。
ゲイルにしてみれば、目の前に居るリリーも『その手の類い』だろうとしか思っていない。
「まぁ、その程度の事は些細な事……か」
小さく呟くと机からソファーへと移動する。
こちらの『小さな呟き』を聞いて、怪訝な顔をするリリーが見えたからだが……
「久しぶりだな小娘に黒いの。あ~っと、アフィレスご令嬢とでも言った方が良いか?」
「何故……その事を?!」
驚いた顔のリリーを見ながら、ゲイルはリリーの目の前に二枚のプレートを置く。
「今日来てもらったのは、その『アフィレス家』からの依頼の件と……まぁ、ちょっとした謝罪だな」
「はぁ?」
首を傾げてるリリーを無視して話を進めるゲイル。
「まずは、冒険者プレートの確認だ」
そう言われて、リリーは二枚のプレートを手に持つ。
真新しい銀のプレートには『クロノ』と王国語で書かれていた。
それをしげしげと見ながら「うわぁ~……キレイ」っと感嘆の声を上げる。
窓からの光を浴びて『キラリ』と光るプレートは、確かにキレイな代物だった。
十分堪能すると、リリーの後ろに控えていた黒騎士に手渡す。
受け取った黒騎士は、その大きな手で器用にチェーンを付け首に掛ける。
黒い鎧にキラリと光る銀のプレート、その見た目に満足した顔をするリリーは、次に銅のプレートを手に取る。
そこに書いてある文字を読み、思わず噎せてしまう。
リリーの持つ銅のプレートには、しっかりと『リリアーナ・アフィレス』と書かれていたからだ。
「あ……あの……これって……?!」
「あぁ?見ての通り、本名で登録し直しといてやったんだよ、アフィレス家の要望でな」
「そんな……要望……何故?」
「それよりもその銅プレート、何か変だと思わねぇか?」
困惑顔のリリーに、ゲイルは畳み掛ける様に話しかける。
正直、今のゲイルにはノンビリ会話を楽しむ暇すら無いのだ。
「変?」
そのゲイルの言葉を聞いたリリーは、プレートを右に左にと傾けながら、じっくりと見る。
よく見れば、今まで持っていた銅プレートとは輝きが違った。
表面のザラザラした感覚は無く、しっかり磨かれ光沢のあるプレートに、キレイな文字で書かれた名前、さらによく見れば、金色の模様が刻み込まれていた。
「なんか……豪華……ですね?」
「豪華なんだよ」
ゲイルは、はぁ~とため息を付く。
「そいつは貴族専用のプレートだ、失くすなよ」
「貴族……専用?」
その言葉に、何とも言えない顔をしながら首を傾げるリリー。
そんなリリーに、ゲイルが簡単な説明をしてくれる。
曰く……貴族の次男以下、三男や四男と言った者達が冒険者になる事は多々ある事らしい。
貴族である以上、ある程度の武勇や魔法が使えるからと。
「実際、魔法都市オードナルドの学院出の冒険者に貴族が多いからな」
「魔法都市と言う事は……その貴族さん達は……魔法使い……ですか?」
「いや、騎士や戦士も居る」
「魔法都市……なんですよ……ね?」
「あぁ?何だ、知らねぇのか?魔法都市には、騎士等を養成する学園や貴族の基礎を教える学園もある。もちろん魔術を専門にする学園もあるがな。それらを含めて『魔法都市』と言う」
「へぇ~……そうだったんですね」
「あぁ、魔法都市の名の由来は、そこの自治を任された最初の者が魔法使い上がりだったからだな」
「なるほど……」
そう聞かされて考え込むリリー。
このまま冒険者として行動していれば、どちらにしても寄る予定の都市の一つだ。
その時にでも少しは魔法の事を聞いたりできないか、そんな事を思っていた。
リリーは魔法が使えるが、初歩的な魔法以外使う事が出来ない。
リリー本人も、せめて中級の範囲魔法の一つでも使える様になりたいのだが……
「おっと、話が脱線しちまったな。つまりだ、この特別な銅プレートは、そんな貴族上がりの冒険者を識別する為のモノって事だ」
「……それ……意味があるん……ですか?」
「そうだな……正直に言えば無ぇな」
「えぇぇ~?!」
ゲイルの言葉に、手に持っていた銅プレートをそっと元に戻す、何故か『汚らわしいモノ』とでも言いそうな目を向けながら。
「まぁ、そう言うな。貴族って奴らは、他者よりも特別でありたいって思ってやがるんだからな。ただの銅級冒険者となっても、特別ってヤツを求めやがるのさ。それがこれって訳だ」
ゲイルが指差す方向には光輝く銅プレート。
そんな特別扱いはいらないリリーは、出来れば普通のプレートが良いと思うのだが……
「悪いな。そのプレートはアフィレス家からの依頼の品だからな」
そう言われては何も言い返す事が出来ず、リリーは無言でプレートを受け取る。
ため息を一つした後、紐を通して首にぶら下げるのだった。