正式に決まったようです
大変遅くなり申し訳ありません。
;=ω=)ノシ{色々書き直してました
真っ白い紙に書かれた現国王の名前、それを見て固まるリリー。
「あ……あの……これ……」
その部分を指差しながらカタリーナに見せるが
「あら、リリアーナの名前は気に入らなかったのかしら?」
右頬に人差し指を当てながら、首を傾げる。
「いえ……凄く良い名前……いえいえ、そこじゃなくて」
「申請出す時、『リリー・アフィレス』で出そうと思ったの。でもね、何て言うか、ちょっと字数が足りない気がしたの。そこで、私の遠縁の方に『リリアーナ』と言う方が居たのを思い出して、その名をいただいたの」
そう一息に言うと、紅茶を一口飲むカタリーナ。
「あ、はぁ……って、そうじゃなくてですね」
「リリアーナ、その喋り方はどうかと母は思うのだけど?」
「うっ……はい、ごめんなさい」
「そこは『すみません』よ?」
「はい……すみません」
「お母様?」
「……お母様」
「はい、よろしい」
「あ~、君ら、もういいかな?」
カタリーナとリリーのやり取りを 何とも言えない顔で見守るジークレストと、その周囲で『微笑ましい』とでも言いたげな顔をしたメイド達と老執事。
「あらジーク、貴方も混ざりたかったの?」
「そうしたいのは山々だが……さてリリー、君に渡した書類だが、別にカタリーナが気に入ったと言う訳だけで用意したんじゃないんだよ」
「えっ?」
ジークレストのその言葉に、不思議そうな顔をするリリー。
そして語られる、自分の身に起こっている事態。
「『ベンネルヘーム辺境伯』様……ですか?」
「ああ、そうだ。御年五十才、子供も孫も居るそうだ」
「は……はぁ、それで、その方が……私を?」
「後妻として欲しいと言って来てな」
リリーも、ベッティーナ主催の社交界に出た以上、どうしても貴族界に名と容姿が伝わってしまう。
そこで、気に入る人達も出て来るだろうとは言われていたのだが……
「ですが……私は一般人」
「相手は辺境伯だ。君が『ただの』一般人だと知られれば、街中でも平然と拐って行くかもしれん」
あっさりとそう言われ、改めて貴族の力と言うモノに恐怖を感じ、真っ青な顔になるリリー。
「まぁ安心しろ。その書類があれば、彼らとて簡単には手を出せないだろうしな。いくら爵位が下だとはいえ、貴族の娘を堂々と拐うなんて事は出来んよ。その為の書類だしな」
『貴族の娘』を名乗るだけであれば、ジークレストが周囲に大々的に宣伝するだけで良かったが、それを少しでも調べれば、リリーが『貴族の娘』ですら無いと簡単に分かってしまう。
だからこそ、国の中枢にある貴族院にまで話を通し、正式な貴族の娘として、王の認め印まで得たのだった。
そんな者を拐いでもすれば、場合によっては王の顔に泥を塗る行為と取られる恐れがある。
「もちろん、それだけでは足りないがな」
「……はい?」
「もう一つ、手を打っておいた。リリー、君に婚約者を作っておいた」
「……はいぃ?!」
危うく落としそうになったカップをテーブルの上に置き、ジークレストの方を見る。
「そんな目で見るなよ……安心しろ、形式上だけだ」
「形式上って……私……」
「さっきも言ったが、相手は辺境伯、その手から逃れるには、それ以上の人間の保護に入るしかない。そこで……だ、君も良く知る人物から打診があったのさ、息子の許嫁にってな」
『ぐいっ』とコーヒーを飲み干すと、ジークレストはカタリーナに目線を移す。
「お相手は、ベッティーナ様のご子息、次男よ」
「ベッティーナ様の?!」
カタリーナの言葉にさらに驚くリリー、段々と大きな話になって行く為、最早『考える事』を放棄していた。
「あは……ははは……」
「ふむ、ところで……だ、私達は『正式に親子』となったのだが……」
遠い目をして乾いた笑いを浮かべていたリリーに、ジークレストが何やら言い難そうにしていた。
「その……あ~、ほら、カタリーナの事をお母様と呼んでいるだろ?だから……えっと……」
空になったカップを 持ち上げては下ろしと繰り返すジークレストを見て、何やら納得顔のカタリーナ。
「ふふふ、リリー、ジークはね、貴女に『お父様』と呼んで欲しいそうよ」
「……はい?」
「カタリーナ、お前!!」
「あら、違ったの?」
「ぐぅ……」
カタリーナの指摘に、顔を真っ赤にさせるジークレスト、それを見たリリーが
「えっと……では……こほん、ジークレストお父……様?」
「ぐはぁ!!」
リリーの言葉を聞いた途端、胸を押さえて倒れ込むジークレスト。
「あっ?!……あの……カタリーナお母様……ジークレストお父様が!!」
「ぐふぅ!!」
さらにテーブルの上で悶え苦しむ姿を見せるジークレストに、カタリーナはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「うふふ、リリー、ジークはとても嬉しいと『そんな姿』になってしまうのよ、困ったわ」
心底嬉しそうに言うカタリーナを ゆっくりと顔を上げたジークレストが睨み付ける。
「カタリーナ……」
「あらあら、この五日間、素直になれずにリリーに『あんな態度』を向けていた誰かが悪いのです」
ふいっと顔を背けるカタリーナを見たジークレストは、ふと何かを思い出したかの様な顔をすると
「そういえばリリー、さっきの話だが」
「さっきの……ですか?」
「そう、さっきの話、『世間知らずだったから、この世界を見たい』と」
「あぁ……そういえば」
思わずカタリーナに言ってしまったセリフを思い出し、赤面するリリー。
「ちょっとジーク?!」
「同じセリフを吐いた人物がいてな」
「ジーク!!」
『ばん』とテーブルを叩いて立ち上がるカタリーナと、先程とは逆に、ニヤニヤした笑顔のジークレスト。
「その人物は、お偉い貴族様だったのに、冒険者になった挙げ句、連れ戻しに来た執事に、君の言った事と同じセリフを言ってな」
「ジーク、貴方いい加減に」
「しかも、そのセリフ、演目にまで取り入れられる程有名でな~」
「ジーク……」
睨み合いをし出した二人を オロオロしながら見るリリーだったが
「リリーお嬢様、今夜はもう遅いですし、寝室に戻りましょう」
とても良い笑顔で、メイドのミラーナが椅子を引く。
「でも……カタリーナお母様と……ジークレストお父様が……」
「大丈夫です」
目の前では、笑顔でありながら『目は笑っていない』二人が、何とも言えない圧を出していた。
それなのに、周囲の面々、老執事やメイド長まで止める気配か無い。
「あの……ミラーナ?」
「明日の為にも、お早めにお休み下さい、リリーお嬢様」
手を引かれながら部屋を出る。
扉が閉まる瞬間、何やら怒声が聞こえた気がしたが……
ーーー
そして早朝、ついさっきだが、屋敷の前で盛大に見送られて出て来た。
「ジークレストお父様……右目に痣が……出来てましたが……」
あの後、何があったのかは聞く事は出来なかったが、朝の雰囲気からすれば、二人共ニコニコ笑っており、問題があった様には見えなかった。
ただ老執事が『来年、お子が出来たらどうしましょうか』と呟いていたのが印象的だった。
「ほんと……何があったんでしょうね……」
そう言いながら、後ろを振り替える。
最早、屋敷は遠くて見えなくなっていた。
「また……ここに来れたら……その時は……」
貴族街の方を見ながら呟く。
そこで出来た『祖父以外の家族』に思いを馳せながら、リリーと黒騎士はオルボアの街を進んで行く。
「さて……まずは冒険者ギルドに行きましょう……黒騎士さん」
「……」
ぎこちなく微笑むリリーに、右手を軽く上げて答える黒騎士だった。