表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/121

お断りしてました

投稿がかなり遅れて申し訳ありません。


ーーー

オルボアの街、その北側、貴族階級の人々が住む地域から南の一般区域へと続く大通りを 黒い鎧の大男が歩いていた。

その左肩には、何やらグッタリとした様子の赤いローブ姿の女の子を乗せて。


「やっと……解放されました……」


赤いローブを着た女の子はリリー、つい先程アフィレス家を出て、この大通りを南下して来たのだった。


あのゴブリン騒動から十五日、街はいつもの風景になっていた。

貴族区と一般区の間にある商業区、買い物をする人々の間を抜けて、黒騎士は歩いていく。


その肩で揺られながら、リリーはカタリーナとのやり取りを思い出す。



ーーー

十四日目の夜、リリーはカタリーナ達との夕食を共にした後だった。

優雅に紅茶を飲むカタリーナに、リリーは緊張した赴きで


「あの……カタリーナお義母様……お話があります」

「まあ、何かしら?」


カッブをテーブルの上に置き、正面からリリーを見る。

緊張した顔のリリーが、意を決した表情で『ごくり』と喉を鳴らすと


「私……明日、冒険者に……戻ろうと思います」


その言葉に、カタリーナの眉が『ぴくり』と反応する。

それと同時に、室内の温度が下がったかの様な気がした。

カタリーナの後ろに控えていた専属メイドが、まるで何か見えない力に押された様に一歩下がる。

対面に座るリリーの後ろに居たメイド二人は、カタリーナの視線の直線上から逃れる様に横に移動する。

問題なのは、視線の正面で逃げ道の無いリリーと、その右側、上座の席で両者の間に挟まれる形になったアフィレス家当主、ジークレストだった。


「あ……あの……その……」


カタリーナからの圧力に震えながら、何とか喋ろうとするが、何を言うべきか分からず混乱するリリー。


「あ~……落ち着けカタリーナ」


同じく、カタリーナの剣幕に尻込みするジークレスト。


「リリー、今の貴女に『冒険者』が出来るのかしら?」


鋭い口調でカタリーナが語りかけて来る。

その言葉に返答に困るリリー。

実際、目覚めてからの四日間で回復した体力は、高々百メートル程度を歩ける程だった。

普通に考えれば、まだ数日は休むべきだったのだが……


「だ……大丈夫です……そこは黒騎士……クロノ兄がいますから」


実際、リリー本人の体力が無くても、最悪黒騎士がリリーの足代わりを勤めるだけ。

もっと言えば、リリーを黒騎士の鎧の中に入れてしまえば、どんな危険も回避出来る程だ。

もちろん、そんな黒騎士の『中身』の事など知らないカタリーナにすれば、そこまで言い切る理由も分からず、無謀な行動に出ようとしている様にしか見えていないのだが。


「そんな身体で何が出来るのです。ここは大人しく休みなさい」

「い……イヤてす」


『はあ~』と小さくため息をつくカタリーナだったが、リリーの予想外の言葉に目を大きく見開く。

カタリーナの前には、小さな身体をプルプルと震えさせなから、真っ正面から見返すリリーの姿があった。

目に大粒の涙を溜めなから……


「リリー……」

「ご厚意にはとても感謝しています……でも……私も……どうしても行かなきゃいけない所が……あるんです」


いつもの『オドオドした』姿では無い、正面から力強い目でカタリーナと対峙する。

その姿に、思わずジークレストは口笛を吹いてしまう。

後ろに控えめいた執事長が、


「はしたない」


と、苦言を言うか、そんな事何処吹く風と、ニヤリと笑みをリリーに向ける。


『ははは、何とも気の弱い女の子だと思っていたが、いやはや……強い所もあるんじゃないか』


今までと違う、強い意思を持ったリリーの眼差しに、ジークレストは好感を覚える。

だが……


「そんな身体で、帝国(・・)まで行けると思ってるの?」


カタリーナのその一言に、室内の時間が止まる。


「えっ……」


リリーが大きく目を見開き、カタリーナを見る。


「何故って顔ね?リリー、私も貴族よ。気に入った子が居れば、背後関係ぐらいは調べさせるわ。でもね、貴女に関しては分からない事が多過ぎだったわ。西の外れ、名も分からない程の辺境から来た事、仲間と言えるのは『黒騎士』と呼ばれる義兄のみ、そして、『東』へと向かって旅をしている」

「……」


先程とは違い、今のリリーは顔色も悪く、真っ青になっていた。

テーブルの下では、『ぎゅっ』と手を固く握り締めながらも、脚がカタカタと震えている。



ーーー

この聖王国、正式名称は『神聖アウグスティア王国』と呼ばれている。

初代の王で『最強の聖騎士』と呼ばれた人物の名から付けられた名称だ。

そのアウグスティア王国と対をなすのが、東に帝国『ヤグマカト帝国』だ。

アウグスティア王国とヤグマカト帝国は、同じ時期に出来た国でありながら、千年もの間、争ってきた。

争う理由は様々だか、一番の理由は『両国の間にある穀倉地帯』だ。

アウグスティア王国もヤグマカト帝国も、国土的共に森林地帯が多く、作物を作る為の平地が少ない。

アウグスティア王国側は、西に広がる広大な森林地帯を 長い年月をかけて開墾して行った。

しかしヤグマカト帝国側は、穀倉地帯を取り込む事を念頭に行動していた。

両国の間にある穀倉地帯は、千年に渡り、血を血で洗う決戦場としてしか機能していない。


そんな両国だが、互いに外交的な付き合いはしている。

戦争が起これば拘束されてしまうが、見せしめに殺される様な事は無い。

ある意味、ドライな関係とも言える。


当然、そんな両国に『無理』をして出入りしようなどと言う者は少なく、精々、商人が細々と取引をしている程度だ。


そして、リリーは、そんな情勢の帝国へと向かっている、そう思われている。



ーーー

もはやリリーには、何も言う事は出来なくなっていた。

この聖王国で『ごく普通の一般人』が、国境を越えて帝国へ向かうなど、ありえない話だ。

『何かしら』の理由が無ければ、国境を越える事すら無理だ。

最早、何を言うでも無く、ただ震えるリリー。


「なあカタリーナ、リリーは『東』へ行こうとしているんだろ?それが何故帝国に行くになるんだ?」

「そんな事も分からないのジーク?」


ジークレストの言葉に、呆れた顔で答えるカタリーナ。


「この聖王国で、東を目指しているとすれば、精々国境の街。ならば、街名を言えば済む話だわ。でも、リリーは違う。どれだけ聞いても『東』としか言わない。ならば」

「国境の街よりも東……地名すらも何も言えない所……なるほどね」


だから、カタリーナは今ここで『帝国』と言う名を使ったのかと、ジークレストは想像する。

ただのハッタリだが、リリーの様子を見れば、それが本当だと知る事となった。


「さて……リリー、もう一度聞くわ。今の貴女の状態で、本当に帝国まで行けると思っているのかしら?」


身体を強張らせ、さらに小さく見えるリリーは、哀れな程震えていた。


「行きます……私は行かなければ……ならないんです」


それでも、うつ向きながらも意見を変える事の無いリリー。


「一応聞くけど、どんな理由があるのかしら?」


先程とは違い、怒りも何の感情も無い視線をリリーに向け、カタリーナは聞く。


「わ、私は、世間知らず……でした。自分の生まれ育った家と近くの村……それだけが私の世界……でした」


身体を震えさせながらも、一生懸命言葉を紡ぐ。


「そんな私に、師匠……お祖父さんが、世界を知る機会をくれたのです……やり方が酷かったですけど」


そう言って『くすっ』と小さく笑うと、下げていた顔を上げ、カタリーナを正面から見る。


「まだ、このオルボアまでしか知りませんが……私は、私の意思で……この世界を歩きたい……もっと世界を知りたい……んです」


力強く言うリリーを ニヤニヤしながら見守るジークレスト。

彼からすれば『若い子が、背伸びをしながら世界を夢見る』姿に、色々思う所があるのだろう。

その逆にカタリーナは、その顔を僅かに歪ませていた。


「くっくっくっ……ふっ……はははははー、カタリーナ、お前の負けだ」

「私は勝ち負けなど競ってないわ、ジーク」

「だが……くっくっく、あの台詞……いやいや、血は繋がらぬとも親子だな」


ジークレストのその言葉に、しかめっ面をするカタリーナ。

そんな二人のやり取りを見て、キョトンとするリリー。


「良いぞリリー、お前のその覚悟、私は認めよう」


そう言うと、ジークレストは背後の執事長に合図をし、テーブルの上に二通の手紙を置く。

真っ白く、一目で上質な紙であると分かる手紙と、少し黄色がかった手紙。


「白い方はカタリーナ、もう一つは私からだ」

「……これは?」

「お前の『これから』の旅に役立つ代物だ」

「……」


二通の手紙を手に取り、封を開け、中を確認する。

真っ白い封筒から出た白い紙、その文字に目を通す。

上に書かれていたのは、このオルボアの領主である『バルトルト』の名、その下にはベッティーナの息子で現当主の名、その下へと、合計六人の貴族の名前が書かれていた。

そして、それらの名前の後には、『上記六名の名のもと、リリアーナ・アフィレスを認める』と書かれていた。


「リリアーナ?」


『こてん』と首を傾げるリリーだったが、最後に書いてあるサインを見て、目を大きく見開く。

そこに書かれていたのは、百二十五代目聖王国国王『フォーエンローゼン』の名だった。

エターならせない。


( へ;_ _)へ{まだまだ続きますので

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ