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黒騎士は行動している様です

遅くなり申し訳ありません。


( へ;_ _)へ{そして、中々旅立たない主人公

ーーー

黒騎士の朝は早い。

日の出まで後半刻(一時間)、リリーが眠る部屋の隅、完全なる暗闇から表れると、扉の前へと移動する。

ふと耳をすませば、通路を歩く音がきこえてくる。


朝早くから、館内の管理している者達の足音だ。

とは言うものの、その音は小さく、余程集中しなければ聞こえないレベルなのだが……その内の一つが此方へと近付いてくると、扉の前で止まり、ノック音が聞こえてくる。


少々時間を置いてからゆっくりと扉を開けると、そこにはリリーよりも年下に見える女の子が立っていた。

最近雇われたメイド見習いだ。

まだ雇われてから日も浅い為、簡単な作業しかさせてもらえていないのだが、今回は、リリーが起きた際、顔を洗う為のお湯を持って来たのだった。

小さな桶を右手に持ち、緊張した顔で室内に入ってくる。

一瞬、扉横に立つ黒騎士に『ビクリ』と、驚く反応を示すが、慌てて姿勢を正すと


「お、おはようございます、クロノ様」


と、小さな声で挨拶を行ってくる。

クロノも無言で頭を軽く下げ、室内に入る様促す。

緊張した顔で室内に入ると、直ぐ様左側奥の部屋へと進む。

そこは、小さな洗い場になっており、半分程水の張った桶が用意されていた。

洗面器を棚から出し、柄杓の様な物で水を注いで行く。

三分の一程入れると、次にお湯を足して行く。

左指を洗面器に入れながら、一杯ずつゆっくりとお湯を追加していく。


「……よし」


丁度良い湯温にすると、薄い布を上に掛け、お湯が冷えない様にし、残りの水とお湯を混ぜて洗い場の掃除を行う。

出来るだけ音を立てない様注意しながら。


その間、黒騎士は明るくなり始めた窓際へと移動しておく。

彼女がこの部屋に来た初日など、暗闇に佇む黒騎士に驚き、悲鳴を上げさせてしまったのだ。

その時の反省から、出来るだけ明るい場所に居ようと注意する事にしたのだった。


「あの、終わりました」


小部屋から両手に桶を持ったメイドが出て来る。

その動きに合わせて、部屋の扉を黒騎士が開ける。


「ありがとうございます」


と、一礼して退出する。

僅かに頬が赤くなっていたのだが……


実は、アフィレス家の一部メイド達の間では、黒騎士の態度が『とても紳士的』とウワサになっていたのだった。

アフィレス家に使える騎士達は、能力は高いが性格に少々難が有る者が多い。

そのせいか、騎士=野蛮と見られる節があった。

だが、黒騎士は寡黙で(喋れないだけ)メイド達に対して紳士的な行動(リリーの面倒を見てもらっているから)の結果、何故か好意を持たれてしまっていた。

これが『普通の男性』であれば喜ぶ所なのだろうが……


窓から差し込む光が強くなって来た頃、ミラーナとレンカが入って来る。

そうなると、黒騎士の役目は終了だ。

後の世話を託すと、邪魔にならない様、部屋を出る。


そのまま、長い廊下を歩き、下に降りる為の階段へと向かう。

階段を降りると、正面玄関と逆の方へと歩きだす。

途中で会うメイドや執事に頭を下げ、軽く挨拶をしながら裏口の扉を開ける。

そのまま歩みを止める事無く、屋敷裏にある広場へとやってくる。


「ようやく来やがったか、黒いの!!」

「今日こそはギッタギタにしてあげますよ!!」

「はぁ……お二人共、何言ってるんですか?」


目の前に居たのは、アフィレス家一の力持ち(自称)のゼーハートに、速度なら誰にも負けない(自称)ローシエーン、そして新人騎士のレントオールの三人だった。

朝一番に、騎士達の訓練場になっているこの広場に、黒騎士が来る事を知るゼーハートとローシエーンは、早めに朝食を取ると、直ぐ様ここに来てウォーミングアップをしているのだ。

そのせいか、彼ら二人の身体から『ゆらり』と湯気が立っている。

そんな二人だけでは心配だと、何故かレントオールまで付き合っているのだが……


「今日こそてめぇを地面に這いつくばらせてやるぜ!!」


そんな事を言うゼーハートに、黒騎士は左足を後方に一歩下げると、右手で『かかって来い』と挑発する様に手を振る。


「うぉぉぉおー!!」


額の血管を浮かび上がらせながら、巨大な鎚を振り上げて突撃する。

そんなゼーハートの体に隠れる様にしながら、両手にレイピアを持つローシエーンも走り出す。

どうやら二人で協力する事にした様だったが……結局、ジークレストや他の騎士達が来るまでの一刻(二時間)もの間、黒騎士に傷一つ負わせる事も出来ずに、体力切れで倒れる事となった。



ーーー

昼前になると、訓練を終えた騎士達がそれぞれの仕事に戻る。

とは言うものの、その殆んどが屋敷の警護だ。

そんな彼らを見送ると、黒騎士は周囲の様子を伺う。

誰の視線も無い事を確認すると、足を屈めてジャンプをする。


「クロノさん、一緒に食事で……も?」


途中で戻って来たレントオールだったが、瞬き一つした時には、黒騎士の姿が消えていたのだった。

不思議そうに周囲を見回すレントオールを高い屋根の上から見下ろす黒騎士だったが、姿勢を低くし、音も立てずに直ぐ様移動する。


『とん』と軽い音と共に、屋根の縁から黒騎士が大きく跳躍する。

目標は、数百メートル離れた隣の屋敷の屋根だ。

黒い塊が空を飛び、隣の屋敷に着地するが、スピードを緩める事無く、そのまま真っ直ぐ走り出し、次の屋根へと飛ぶ。

ほんの十分もしない内に、貴族街の端に到着していた。

誰にも気づかれる事も無く。


貴族街から中級層の住む住宅地まで、屋根伝いに移動した黒騎士は、下の大通りを覗き込むと、何の躊躇いも無く飛び降りる。

そこに居たのは、四人の商人風の男性達だった。

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