食後のお話でした
はい、明けましておめでとうございます。
今年も『黒騎士さん』の方をよろしくお願いします。
( へ;_ _)へ{ノンビリ更新ですがご了承を
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テーブルの上の料理を一口食べては頬を押さえる。
『美味しい』
リリーはそう心の中で呟く。
昨日の夕食時は緊張の余り、じっくり味わう余裕など無かったが、今日は違う。
目の前のカタリーナとも目を合わせない様注意しながら、料理に集中する。
前菜はホウレン草に似た『茹で野菜』だった。
じっくりと茹でたらしい野菜は、口に入れるとフワリと溶け落ちる柔らかさだった。
そしてメイン料理は肉料理。
硬く消化のキツイモノの食べられないリリーには、ロールキャベツの様な『野菜巻き』が出てきた。
表面の野菜は、こちらもしっかり茹でて柔らかくし、さらに内部の肉も、ミンチにした肉をじっくりと煮込み、味を染み込ませていた。
そのどちらも美味しく、終止リリーはニコニコとした笑顔で食べていたのだった。
そして、食後に出されたのは、カタリーナには紅茶、ジークレストにはコーヒー(砂糖無し)だった。
ジークレストはこの後も仕事があった為、コーヒーで目を覚ます様にと、執事長がワザワザ料理長にお願いしたのだった。
「私も紅茶が良かったのだが」
「ジーク様には、この後も仕事がありますから」
「いやトータス、もう急ぎの仕事は無かったはずだが?」
「早めの確認が必要な物がいくつかありますので」
ジークの後ろに控えていた老執事が、何でも無い事の様に話しかけてくる。
それを受けたジークレストはというと……
「いや、昨日も夜遅くまで仕事してたし」
っと、手を振って抗議するが……
「早めに終わらせておくべきですよ、ジーク様」
「……」
老執事の有無を言わせぬ反論と雰囲気に、ジークレストは黙ってコーヒーを飲む事となった。
そんな様子を横目で見ながら、リリーは用意されていたお茶を飲む。
胃腸を整える薬でもある『千年樹の葉』を薄めた代物だ。
アフィレス家の主治医であるブランタークからは、もう大丈夫とのお墨付きをもらっていたが、一応の為、食後用に薄めた『千年樹の葉』のお茶を飲む様言い付けられていたのだった。
蜂蜜の入っていない、ちょっとした苦味を味わいつつ、ボーッとしていたリリーだったが
「ところでリリー、聞きたい事があったのだけど?」
「ひゃ、ひゃい?!」
いきなり話しかけて来たのはカタリーナだった。
飲みかけの紅茶を置くと、ゆっくりとリリーに顔を向ける。
『ごくり』とリリーの喉が鳴る。
何を聞かれるのだろうか?それとも何か粗相をしたのだろうか?そんな事を考えてるリリーに
「何故、私を呼んでくれないのかしら?」
「……はい?」
よく分からない質問だった。
呼ぶ?何を?カタリーナ様を?呼ぶって何を?
そんな表情が出ていたのだろう、カタリーナがクスクスと笑いながら
「ほら、いつも二人でいる時みたいに、ちゃんと私を呼びなさい」
「?!」
その言葉で理解してしまった。
敢えて、二人だけの時にしか呼ばないようにしている言葉。
『お義母様』
それをこの場で、よりにもよってジークレストの前で言えと言っているのだ。
リリーの額から汗が流れ落ちる。
『いくらなんでも、カタリーナ様の旦那様の前でお義母様は……』
チラリと右横を見れば、不思議そうな顔をしたジークレストと老執事のトータスがリリーを見つめていた。
慌てて目線をずらすと、カタリーナの後ろに立っているメイドが、意味有りそうな目でリリーを見ていた。
彼女は、カタリーナ付きのメイドだ。
当然、リリーがカタリーナの事を『お義母様』と呼んでいる事を知っている。
助けを求める様に後ろ、リリー付きのメイドであるミラーナと先輩メイドのレンカを見るが、その二人は笑顔でリリーを見守っていた。
むしろミラーナに至っては
『ガンバですお嬢様』
っと、拳を握って思念を送ってたりするのだが……
味方がいない状況に気付いたリリーは、周囲を世話しなく見るが、最後には諦め気味にため息をつく。
そして
「その……えっと……カタリーナお義母……様」
躊躇いながらもそう伝える。
すると『ガタッ』と音が室内に響く。
音のした方に目を向けると、そこには呆然とした顔で立っているジークレストの姿があった。
ジークレストは、その視線をカタリーナとリリーへと交互に向けてくる。
「ひっ?!」
自分に向けられた目線に、一瞬気圧されるリリーだったが
「良く出来ましたねリリー」
満面の笑みで答えるカタリーナの姿に、『ほっ』と息を吐く。
「カタリーナ、これは……」
「あらあらジーク、どうしたのかしら?」
立ち上がったジークレストに対して、笑顔を絶やさず接するカタリーナの図に、リリーはオロオロとしていた。
そんなリリーに
「奥様、お嬢様は疲れているようです」
っと、カタリーナ付きのメイドが進言してくる。
その言葉に
「あら、そうだったの?リリー、もう部屋に戻ってゆっくりと休みなさい」
カタリーナの優しい微笑みに後押しされる様に、リリーは椅子から立ち上がり、そして
「そ……それでは……部屋に戻ります……お休みなさい……カタリーナお義母様……アフィレス騎士伯様」
そう言うと、そっと頭を下げて挨拶をし、ミラーナに手を引かれながらダイニングルームから出る。
出入口の扉が閉まる瞬間、カタリーナとジークレストの声が聞こえた気がしたが、そんなもの関係無いとばかりにミラーナがグイグイと歩を進めて行く。
「あの……ミラーナ……お義母様と……騎士伯様が」
「お嬢様、ナイスでしたよ」
満面の笑みで振り替えるミラーナに『何が良かったのかしら?』と首を傾げるリリーだった。
ーーー
その頃のダイニングルームでは……
「何をそんなに興奮しているの?」
紅茶のお代わりを頼むカタリーナ。
その顔は、挑戦的と言うか、勝ち誇った顔と言うか、そんな感じだった、所謂『ドヤ顔』と言うモノだが……
そんなカタリーナを前に、ジークレストは
「……ズルいぞカタリーナ!!」
何とも言えない顔をしながらのこのセリフ、悔しさ満点の顔である。
アフィレス家には二人の子がいるが、両方とも男の子だ。
そして、ジークレストもカタリーナと同じく、娘が欲しいとも思っていたのだった。
さすがに、カタリーナと同じ理由では無いのだが……そんな中、リリーがカタリーナの事を『お義母様』と呼ぶとは思ってもみなかったらしい。
しかも自分の事は『アフィレス騎士伯』だった事が余計に重くのし掛かる。
「貴方が『あんな』接し方をするからですわ」
「ぐっ……だがあれは……仕方がなくだな……」
「騎士伯として警戒するのは仕方がないと思うわ。でもね、私がここまで気を許しているのは何故かと、考えていない事が問題ね」
「ぐぐぐっ……」
ジークレストとしては、反論する余地も無く、項垂れるしかなかった。
「リリーは今、貴方を『と・て・も』怖がっているわ。ふふふ、最初の接し方を間違えたわね」
「ぐはぁ!!」
胸を押さえてテーブルに突っ伏すジークレストを 冷ややかに見るカタリーナ。
そんな二人のやり取りをカタリーナの後ろに居るメイド長と、ジークレストの後ろに居る執事長が、それぞれ呆れ顔で見ていた。
ーーー
寝室に戻ったリリーは、ミラーナの手で寝間着に着替えさせられる。
化粧液で顔の化粧を落とし、髪の毛を整えると、寝台へと移動する。
「それではお嬢様、お休みなさいませ」
ミラーナとレンカが扉の前で頭を下げる。
「えぇ……ありがとう……お休みなさい」
リリーも軽く頭を下げ、ベッドの中へと潜り込む。
ミラーナとレンカが、部屋に備え付けてある魔光石ランプを持って扉を閉めると、室内は月明かりのみの闇夜となった。
「ねぇ……黒騎士さん」
リリーが部屋の隅、月明かりすら届かない陰へと声を掛ける。
その声に答える様に、ゆっくりと闇が前に動く。
それは、艶の無い真っ黒な鎧だった。
全長二メートルを越える鎧姿は、一切の音も無く、気配すら出さず一歩前に出る。
魔力によって疑似生命を与えられた魔法生物、自らの意思で動く鎧。
メイド達にすら気付かれる事無く、そこに存在していた。
リリーの身を守り、そして『監視』する存在。
だが……
「あのね……私、カタリーナ様に……お義母様と一緒に行ってもいいかなって……そう思ったの」
ベッドの上から天井を見上げつつ、リリーは小さな声で語る。
「実の娘として……そう言われて……嬉しくって……私は、両親ってモノがどんなモノか知らないの……でも……もしかしたら……」
どれだけ語っても、決して黒騎士は喋らない。
魔法生物であり、感情も持っているが、それを形にする方法が無い。
だから、黒騎士はただ、無言で佇む。
「ふふふ……ごめん、クロノ兄……私、ちょっと変だったわ……大丈夫……ちゃんとクロノ兄を……黒騎士さんを……東へ……帝国へ……連れて……」
急に襲って来た眠気に抗うことも出来ずに、リリーは寝息を立てる。
そんな彼女を黒騎士はただ、無言で見守るだけだった。
『彼女に掛けられた、制約と言う名の呪いの中で』
今週中に、後1~2回は更新する……予定です。
(´・ω・){せめて、東への旅立ちまで行きたい所です