目力が凄かった様です
少し内容に詰まり中。
(へ;_ _)へ{こんなハズでは……
リリーの黒髪を櫛で鋤くミラーナを横目にカタリーナを『ちらり』と見る……と、ニコニコと笑顔を向けている。
『これは……凄く怒って……る?』
目線を手元に落とすとリリーは考える。
『私、何やったんでしょう?カタリーナ様が怒る様な事した……の?でも何を……』
リリーは一度、カタリーナに怒られた事がある。
それはダンスレッスンの最中だった。
ーーー
「はいリリーさん、少し休憩したらレッスン再開ですよ」
フロアーで、はしたなくも大の字で寝転がっていたリリーに、そう声を掛けるカタリーナ。
『ぜーぜー』と苦し気に息を吐くリリーは思わず
「あの……カタリーナ……様?」
「何かしら?」
休息時間を測る為に、テーブルの上に置いてある砂時計をひっくり返していたカタリーナが、リリーの方を向き、首を傾げる。
「その……私は……ただの冒険者……ですので……はぁ……ダンスはそこまで……『細かく』覚えなくても……」
その一言で室内の空気が変わる。
部屋の隅で紅茶を飲んでいたベッティーナ達が息を飲む。
壁際で気配を感じさせず立っていた執事が、驚愕の表情を浮かべている。
それらの変化を感じたリリーが、首を上げて室内を見回す。
そこには、青い顔をしたベッティーナ達、壁際の執事とメイド達、そして『とてつもなく良い笑顔をした』カタリーナが、リリーを見下ろしていた。
「今、何と言いましたか?」
「ひぃっ?!」
「リリーさん、今、何と言いましたかと聞いてますの」
顔は笑っている……のだが、その背後とでも言うべきか、何やら得体の知れない力を感じるリリー。
「カタリーナ様、落ち着いて……ね?」
「そ、そうそう、リリーも悪気があった訳ではありませんし」
「ちょ~っと口がすべっただけですわ、ねぇ~リリーちゃん?」
フリーデ、エマ、ハンナと、それぞれが口々にフォローを入れる……が、
「……二十セットです」
「えっ?」
「これから連続二十セット休憩無しで踊ってもらいます」
『コトン』と音を立て、机の上に立ててあった砂時計を倒すと、笑顔のままカタリーナが指示を出す。
「あ……あの」
「『細かく』覚える必要が無いダンスですもの、そのくらい簡単でしょ、リリーさん?」
「ひぃぃっ?!」
向けられた目は笑っていなかった。
顔は笑顔なのに、目だけは笑っていなかったのだ。
息を飲み、ガタガタ震えるリリーを無理やり立たせると、『パン』と一つ手を打ち、
「さぁ、始めなさい」
カタリーナの眼光の元、リリーは『連続二十セットのダンス』をさせられる羽目になる。
ちなみに、体力の無いリリーが十セットを越えた辺りから、もはやダンスではなく『ただフラフラするだけ』の行動になっていたのだが……
ーーー
そんな悪夢の時と同じ笑顔を今、リリーは向けられていた。
『えっと……何で怒ってるの?取り敢えず理由を聞く……うん、そうよ……ね?』
「あの……カタリー……ナ様?」
『ギッ』
「ひぃぃっ?!」
意を決っしてカタリーナに話しかければ、今まで以上の何かをぶつけられた。
まるで『目に見えない魔力の様な物』を放出している様に……
気が付くと、髪の毛を整えていたミラーナが壁際まで下がっていた。
その額に、うっすらと冷や汗が浮かべながら。
直接ではなく、近くで『目に見えない何か』に触れただけでこうなのだ。
直接受けているリリーはと言うと……
「あ……う……」
『がちがち』と歯を鳴らし涙目になりながらも、必死にどうするべきか考えていた。
『何で何で何でぇー?!私、ただカタリーナ様の名前を呼んだだけなのに?!何で怒られ……名前……名前?』
つい最近あったやり取り、名前……そこから導き出した答えは
「お……お義母……様?」
震える声で、何とか言葉を絞り出すと、それまでの圧力がウソの様に退いて行く。
『ほっ』と一息つき、何とか怒りの原因を聞こうとした時、
「リリーさん、貴女、ゴブリン討伐に参加したって本当?」
笑顔の奥に怒りを滲ませながらの質問に、リリーも固まる。
『怒ってる理由はそれ?』
リリーも返答に困る。
ゴブリン討伐に女性が参加するのはご法度、たとえば、自分達が襲われた為に戦ったと言う事なら話は違うが、カタリーナはこう言ったのだ。
『参加したって本当?』っと。
リリー的には、ギルドマスターに『無理矢理』参加させられた結果なのだが、事情を知らない人々にとっては、まるで『リリーが自主的に参加』したかの様に思われている可能性もある。
実際、カタリーナの目と態度は、そう語っていた。
だからこそリリーは困っていた。
事実を語れば、自らのスキルまで話さなければならない、それを話すと、今度は『教会側』の不参加理由まで話さなければならない。
一応、教会側が神官を参加させなかった理由は聞いている……が、それをカタリーナに言えばどうなるか……考えもつかない。
教会側の協力が無かった事は、別に秘密でも何でもなく、冒険者ギルドから箝口令が出た訳でも無いが……。
リリーは、カタリーナの鋭い眼光の前で『蛇に睨まれた蛙』の如く、冷や汗をダラダラ流しながら必死に考えるのだった。