寝込んでいたようです
再開しました。
長く期間開けて申し訳ありません。
( ノ;_ _)ノ
リリーは夢を見ていた。
長い長い夢。
ごく普通の生活をし両親に、親類に愛されながら最後は必ず戦場で、『小高い丘』で死ぬ夢を
『また……ここなのね……何故……』
自問自答しても誰も答えない。
それどころか、体は自由に動く事は無く、言葉を発する事も無く、思考だけはハッキリしながら時間だけが過ぎて行く。
何度も繰り返される死をどうにか回避しようと足掻くが、夢の中の自分は勝手に動き、そして『小高い丘』へとたどり着く。
痛みもなく、音も聞こえず、見える景色は全て灰色の世界。
一度目の死は、片手剣で首を一刀両断された。
二度目の死は、両手剣で袈裟斬りされた。
三度目の死は、逃げようとした所を無数に飛来する矢に貫かれた。
四度目の死は、槍斧に叩き切られた。
五度目の死は、投げつけられた短槍で心臓を貫かれた。
六度目の死は、メイスによって頭部を潰された。
七度目の死は、盾で吹き飛ばされた後、ナイフで喉を切り裂かれた。
どれもこれも、五歳で『私』が目覚め、十七歳で死ぬという事を繰り返していた。
二度目までは、ただオロオロと夢の中を見るだけだった。
三度目からは、どうにかこの『悪夢』を逃れ様と足掻いてみた。
そして六度目、死ぬ悪夢は変わらないと諦めた。
死ぬ日が来るその時まで、『勝手に動く自分』を見ているだけだった。
ただ、不思議な事もあった。
最初はこの『夢の世界』が『環』しているのではと思っていた。
でも、死んだ後目覚めた際、暦を知る機会があった。
それは、会話であったり書類であったりと、様々であった。
一度目の死の時代は分からなかったが、二度目と三度目の際は、暦を知る事が出来た。
大陸歴『三百十七年』と『四百三年』だ。
大陸歴とは、一番古い書物に使われていた数字から今を算出し、全ての国で共通して使われているモノだ。
さらに、五度目と七度目の際も暦を知る事が出来た。
大陸歴『六百十一年』と『八百二十九年』だ。
そこから推測すると、それぞれの夢は、約百年毎に繰り返されている風景とも取れる代物だった。
そんな事を頭の隅で考えながら、目の前の光景を見る。
過去七回見てきた景色、死の間際に必ず訪れる場所、『小高い丘』で今、リリーは立っていた。
『八度目の丘ね』
冷めた感情で目の前に広がる光景を見る。
何時もと同じだ。
自分を中心に配置されていた兵士が、いつの間にかいなくなっている。
側に居たハズの将もいなくなっていた。
その理由も分かっている。
対峙していた敵軍に対して何とか優位に立とうと、本陣の兵まで動員したのだ。
前線の兵一万五千に本陣の三千が加わり、ジリジリと敵兵を押していく……が、それが罠である事を知っているのは、この場ではリリーだけだった。
何故なら今まで七回、同じ状況に陥ったから。
『次に来るのは……』
そうリリーが思った瞬間、左右の森から騎馬隊が突出してくる。
数はそれぞれ二百、後ろを見る事無く。
『決死隊が突入』
ふうっとため息をつく。
もはや『何時もと変わらない』結末、八度目の死。
迫り来る先頭の兵を見る。
白銀に輝く鎧を身に纏う騎士が、一直線に突き進む。
それを何処か他人事の様に、呆然と見ているリリーに対し
「ねぇ、私の中の『私』、死ぬのは怖い?私は怖いわ」
リリーよりも幾分落ち着いた声が聞こえて来る。
『今』の自分より落ち着いた声。
無音の世界のハズなのに、何故か聞こえてきた声に、驚きながらもそっと耳を傾ける。
「私も『この結末』をどうにかしようともがいたわ……でも、どうにもならなかった……ねぇ、私は……私達は……後何回死んだら終わるのかしら?」
リリーに向けて問いかけている様でいながら、ただの自問自答に聞こえる、そんな皮肉めいた言葉を発しながら、迫る騎馬を見る。
白銀に輝く鎧姿が眩しい、これで白馬にでも乗っていれば、物語に出てきそうだが……栗毛の馬は全力疾走しながら近付いて来る。
「ねぇ次の私、この結末を覚えていてね。私の失敗を繰り返さないために」
そう囁いた瞬間、白銀の騎士が長剣を振り上げる。
自分の倍以上の高さから、真っ直ぐ自分へと剣が振り下ろされる。
「愛してるわ……アストリア・フォン・フォーエンローゼン王子」
中に居る私では無い、死ぬ事を怖いと言った『外の私』が、目の前の騎士に呟く。
その瞬間、リリーは見た。
振り下ろされた剣の向こう側、銀の兜から覗く目が、大きく開かれていた事を
『驚愕』?『後悔』?それとも……真っ直ぐに下ろされた長剣に、左肩から心臓まで切られ、意識が遠退いて行く。
最後に見たのは、倒れようとしたリリーに向かって手を伸ばす白銀の騎士の姿だった。
ーーー
目を覚ますと、目の前には『ヒラヒラとした白い布』が見えていた。
ゆっくりと周囲を見ようとしたが、身体が思った様に動かない。
『はぁ……また夢の中?』
大きく息を吸うと「はぁ~」っと盛大にため息をつく。
繰り返される悪夢にウンザリとしていたリリーが、夢の中で最初にしていた事だった……のだが
「お……お嬢様?!」
『ガタン』と音がしたと思ったら、女性の声が聞こえて来た。
『コツコツ』と足音が近付いて来る。
そこでリリーは疑問を覚えた。
『女の人の声?』
悪夢の中、八度目の死直前を除けば、全て無音だった。
しかし今、確かに女性の声が聞こえた。
「お嬢様?目を覚まされましたか?」
僅かに震える声で尋ねて来たのは、メイド服の女性だった。
歳の頃は二十代後半だろうか?心配そうにリリーの顔を覗き込んで来る。
「……ごごば」
「ここは何処ですか」と喋ろうとした瞬間、喉に凄まじい痛みを感じた。
喉の奥が張り付いている様な感じ、小さなトゲが刺さっている様な痛み。
「げほっごほっ?!」
咳が出て止まらない、息がし辛い、リリーは涙目になっていた。
「あぁぁ、お嬢様落ち着いて下さい、今主治医を呼びますから」
部屋を飛び出して行くメイドの足音を聞きながら、リリーはゆっくりと呼吸を整える。
『お嬢様?誰が?私?何で?やっぱりここも夢の中?でも、この喉の痛みは?それに声が聞こえて……』
豪華なベッドの上でグッタリしていると、ドタドタと沢山の足音が聞こえて来る。
開けっ放しの扉から、飛び込む様に入って来たのは、カタリーナ・アフィレス騎士伯婦人だった。
「リリーさん、気がついたのね?」
慌てて来たせいか、髪の毛も微妙に乱れていた。
そんなカタリーナが、リリーの側に来ると、そっと両手を伸ばしてその頬に添える。
「あぁぁ~良かった、十日も寝込んでいたから心配していたのですよ」
その言葉に、今度はリリーが固まる番だった。
今週中に続きを書き上げます(白目)