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脱出出来たようです

長くなり過ぎたので、少々カット&二部構成に変更しました。


ーーー

洞窟奥で黒騎士は動きを止めていた。

周囲は頭部を踏み潰されたゴブリンの死骸が、数多く転がっている。

ダルビッポ山の洞窟からゴブリン達が溢れ出したと言っても、その全てが一気に出れた訳では無い。

その為、所々に潜んでいたゴブリン達を殲滅しながらも、この場へとやって来たのだった。



ーーー

『ばちん』と大きな音が響き、リリーの目の前の鎧が開いていく。

黒騎士の内部で、身体を丸めていたリリーは、フラフラとしながらも、鎧の外へと顔を出す。


洞窟内部は斜め下へと下がる坂道、そこを全力疾走する黒騎士、更に途中で襲い掛かってくるゴブリンと戦う、そんな黒騎士の内部のリリーは、手足で身体を支える事など出来ない程だった。


支える事を諦めて、身体を丸くし、前後左右上下の動きにただただ我慢する他無く、動きが止まるまで、ピンポールの球の如く、内部を転がり続けていた。


やっと止まった事でゆっくりと顔を出すと、外気を吸い込む。


「はぁ……外の……空……気?!げぼげほごほっ」


胸一杯に空気を吸い込もうとしたが、入って来た匂いにむせてしまう。

漂って来たのは、僅かながらの冷たい空気と生臭い獣臭、さらに腐敗等の刺激臭もあった。


涙目になりながらも周囲を見渡し、臭いの原因を見つける。

洞窟奥へと続く複数の細道に、所狭しと積み上げられていたのはゴブリンの糞尿、更に食い散らかした動物の残骸等、ありとあらゆる汚物が、押し込められていた。


この奥の間から、さらに地下へと続く道が複数あったハズだが、今はその全てが汚物の塊によって塞がれている。

唯一、繋がっていると思われる通路も今、黒騎士が降りて来た後方と、天井付近にある複数の縦穴、高い位置にある横穴ぐらいだ。


恐らく、この場所が彼らゴブリンの繁殖地だったのだろう。

中央付近に盛り上がった台が有り、そこに外部からの僅かな光が当たっていた。


黒騎士の胸から鼻をつまんだリリーが顔を出すと、ゆっくりとした足取りで中央付近の台へと近付いて行く。


そこには、黒い液体の跡と巨大な生物の骨だけが残って居た。


「これ……は?」


リリーには、それが何か分からなかったが、その骨こそ、ゴブリン大発生の元になったオークの成れの果てだった。

肉体は全て食べられ、大量に流れ出たと思われる血液すらも、ただの跡として残っているだけだ。


死骸を前に色々と考え込んでいたが、そんな中、後方の通路が騒がしくなって来る。

『ぎぃぎぃ』と聞こえる鳴き声に、体を震わせたリリーは、黒騎士の鎧奥へと身体を押し込む。


「く……黒騎士さん、行き止まりですけど……どうするんですか?」


リリーとしても、最早黒騎士に頼るしかない。

今の彼女は、ゴブリンに対して苦手意識を持ってしまい、マトモに戦える状態では無かった。

魔法の集中も上手く行かない。


『ドドド』と地響きを立てながら、坂道からゴブリン達が雪崩れ込んで来る。

最初に広場に到着したゴブリン達は、後続のゴブリンによって踏み潰され、その重さによって絶命する。

それでも、まるで茶色い波の様に黒騎士の居る台へと、止まる事無く近付いて来る。


黒騎士が開けた鎧の胸部分から、濃厚な香りが漂ってくる。

彼らゴブリンにとっての好物、メスの匂いと血の匂い。

最早、ゴブリン達には、黒騎士から漂う匂いにしか興味がない。


そんなゴブリン達を十分に引き付けた所で、黒騎士は跳躍する。

飛び掛かってきたゴブリンの背中へと足を乗せる。

大柄なゴブリンの背中を足場にすると、『とん』と軽い感じで、さらに上へと跳ねる。

背中を蹴られた大柄なゴブリンはバランスを崩すと、そのまま壁際までゴロゴロと転がって行く。


天井まで十メートル、最初のジャンプで二メートル、飛び掛かって来たゴブリンの背中を踏み台にし、さらに三メートルを飛ぶ。

助走を付けていれば、黒騎士単体でも天井付近まで飛ぶ事が出来たのだが、今は膝だけの脚力で五メートルを飛ぶ。


『足りない?!』


鎧の隙間から見て、リリーはそう判断する。

天井までまだ半分、このままでは自由落下、そうなれば後は……


『ぶるり』と背筋を震わせる。

あの鉄箱での事を思い出す。

引きずり出され、指を食われ、首筋を噛まれ、死に瀕した瞬間を……


「……イヤっ!!」


身体を抱え、小さくなる。

足元に迫るゴブリンの鳴き声に恐怖しながら目を閉じた瞬間、それは飛び出して来た。


高さ五メートル程の場所にある横穴から、岩を削り出しながら、二~三メートルの肉の塊が、弾丸の様に飛び出して来る。

丁度リリー達の目の前に迫る勢いだ。


『ブルォォォォオー!!』


豚の様な顔に巨大な牙を持ち、皮鎧に身を包んだ魔物、オークの戦士が目を血走らせ、絶叫を轟かせながら迫る。

前方に槍を構えたオーク、その背中を足場にし、黒騎士が再度跳躍する。

今までと違い、かなりの力と速度で……だ。


背中を蹴られたオークが態勢を崩し、『ブルォ?!』っと困惑の表情と声を上げたが、そのまま山の様に積み重なったゴブリンの中へと落ちていく。

落ちた衝撃で、ゴブリンの山がグニャリと音を立てて潰れて行く。


天井付近まで飛んだ黒騎士は、その両手を万歳する様に突き上げ、頑丈な天板に突き刺す。

高さ十メートル程の天井に、肘まで差し込むと『ブラリ』とぶら下がりながら、下を見る。


目を瞑っていたリリーも、急に動きの無くなった黒騎士の中から、そっと外を見る。

遥か足元では、飢えて理性を失ったゴブリン軍団と、鬼気迫る勢いで、次々と壁穴から飛び出して来るオーク軍団との死闘が始まっていた。



ーーー

そのオーク達は、途中で出会うゴブリン達を容赦無く潰しながら、狭い洞窟奥へと突き進んで行く。

途中、通路が汚物で塞がれていた為、小さな横穴を削りながら、さらに奥へと進む。


汚物と獣臭、その中に僅かながら混ざるオークの臭い、それだけを便りに方向を決め、無理やり道を作りながら進んで行く。


気が付くと、目の前には一メートル程の穴があり、その先には大広間が広がっていた。

ゴブリンの死骸が多数あるだけで、だだっ広いだけの空間、そこには黒い鎧が立っていた。


そして、その眼前には巨大な骨。


『ブルッ?!』


同族だから分かる、その骨はオークのモノ、その周囲から匂うのは『彼らの探していたオークの姫君』。

それに気付いた瞬間、彼らは小さな穴へと殺到していた。

同時に広場へと雪崩れ込むゴブリンを見つける。


オーク達は黒騎士を目指して進んだ訳では無い。

その広場にある骨に向かって、飛び出しただけだった。


その飛び出したタイミングに合わせる様に、黒騎士が宙を舞う。



ーーー

助走が足りない部分を迫るゴブリンと、壁から飛び出して来たオークの背中を利用し、天井へとへばり付く黒騎士。


ゴブリン達は、突然表れたオークに見向きもせず、ただひたすら天井にぶら下がっている黒騎士へと手を伸ばす。


そんなゴブリン達の背後に向かって、オーク達が槍を振るう。

突いて払って叩き潰す。

たった二十匹のオークに、理性の無いゴブリン達がどんどん殺されて行く。

だが、数が多過ぎる。

ゴブリンの数は、多少減ったとは言え、千を切った程度だ。

何時までオーク達の善戦が続く訳が無い。


黒騎士の胸鎧から顔を出し、下を確認するリリーだったが、その変化に気付く。

出入口になっていた穴から、顔を押さえ、咳をしながら、ゴブリン達が広場内へと転がって来る。

さらに目を凝らしてみると、薄い煙がゆっくりと広場へと広がっていた。


『確かユグリナ草でしたっけ?』


煙を見て、ベンノ達が言ってた事を思い出す。

洞窟内にゴブリンを押し込め、ユグリナ草で殲滅する……と。


『人には影響がないと言ってましたが……』


チラリと黒騎士を見やる。

黒騎士は魔法生物、所謂『ゴーレム』と呼ばれる代物に入る。

呼吸を必要としていない為、ユグリナ草の影響は受けない……が


「絶対……とは言えないですね。黒騎士さん、どうにかして地上に出れませんか?」


一応、黒騎士の首の辺りへと声を掛ける。

返事がある訳無いのだが、声を掛ければ『何かしら』の反応はしてくれる。

そう考えての事だった。


天井に腕を刺した状態から、両足を振り上げる。

『ズドン』と言う音と共に、両足が天板へとめり込んで行く。

今の黒騎士の姿勢を言うかならば、まるで『ハイハイをする赤子』が、重力を無視して『天井を進んでいる』ような格好にも見えた。

肝心の両手両足が、壁の中だが……


その状態で少しずつ、手足を差し替えながら上へと進むと、光が差し込む天井の穴付近へやって来た。

穴の幅は二メートル行かない程度、黒騎士が真っ直ぐ入れる程度の縦穴だった。

その縁に両足を突き刺すと、右手と左手を交互に差し込みながら、穴の中へと入って行く。


リリーが鎧の隙間から上を見上げると、遥か遠くに小さな光の穴が見えた。


『結構上……ね?』


リリーのそんな思いは知らないとばかりに、黒騎士は強引に登って行く。

『ゴリゴリゴリ』と音を立てて、穴側面の岩肌をを削りながら、黒騎士はどんどん進む。

遥か下からは、ゴブリンとオークのモノと思われる小さな叫び声が響いて来る。


上に上がる毎に、縦穴は、細く小さくなって行く。

この感じからして、出口と思われる穴は、相当小さいのかもしれない。

その答えに行き着いたリリーは、無理矢理進もうとする黒騎士を一旦止める。


上を見上げ、大体の距離を予測する。


『残りは多分……三分の一程度?って事は、横も同じ位の距離かしら?』


黒騎士の胸からそっと指先を伸ばし、目の前の壁へと当てる。

そこは既に岩肌では無く、ヒヤリとした土に変わっていた。

ゆっくりと深呼吸をしながら集中する、ゴブリンの鳴き声はもう殆ど聞こえてこない。

息を一つ吐くと、小さな声で『アースウォール』と呟く。

目の前の土が、まるで粘土の様に溶け出し、黒騎士の足元の方へと流れ出す。


黒騎士の足元に土が敷き詰められると、リリーは集中を解く。

リリーがやったのは、土属性の下位魔法、目の前の土、山の斜面の土だが、それを黒騎士の足元へと移動させたのだった。


土を集めて壁を作ったのと同じ方法だ。

結果、黒騎士の正面には、一メートル程の横穴がポッカリと空いていた。

その空間を匍匐前進する様に、黒騎士が進んで行く。

五十メートル程進むと土の壁に突き当たる……が、リリーが外に出て来て、再度『アースウォール』の魔法を使う。

今度の土は、黒騎士の後方へと移動させる。

そうして、少しずつ少しずつ土を移動させ、横穴を作りながら外を目指す。

そして


四度目のアースウォールを使うと、そこは外の景色が広がっていた。

トータルで言えば、上に四百メートル、横穴に二百メートル程度を移動して来た事になる。


警戒しながらゆっくりと顔を出すと、そこはダルビッポ山中腹だった。

緩やかに見えていたハズの斜面は、かなりの急勾配になっており、貧弱なリリーでは降りれそうにない。


そんな斜面の縁で、途方に暮れてたリリーを左手で掬い上げ、いつもの様に肩に乗せると、黒騎士はその身体全体を外へと出して行く。

下から吹き上げて来る風に目を瞑るリリーを他所に、急斜面に足をめり込ませる様に踏み込みながら、一歩一歩降りて行く。

ω・`)ノシ{やっとゴブリン編の終わりが見えて来ました

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