噛み千切られそうになってました
会社から強制的に有休を取らされました。
有休溜め過ぎ}( ・上・) (・ω・`){えっ?
急遽出来た休みの日に、続きを書き書き中。
ダルビッポ山へと近づいて行くと、段々と木の密集度が下がって行く。
森の中と違い、この辺りの木々は細く、枝もまばらだった。
足場も土から岩が多くなる。
「まもなく森を出る!!」
先導していた金級ハンターが小さく叫ぶ。
その声に、後続の冒険者達が武器を構え直す。
弓使い達が、狙撃に使えそうな場所を探して木を登って行く。
ハンター達も、木の影等不意討ちに使えそうな場所を探して散開する。
戦士達は、盾を持つ者達、防御力の高い者達を前衛に隊列を組み直す。
魔法使い達は、それぞれ指示されていた位置で魔法詠唱に入る。
そして黒騎士は……
「ちょっと待って黒騎士さん!!私も魔法を」
冒険者達の中央辺りに鉄箱を置くと、蓋を閉めようとする黒騎士。
グイグイと押さえられ(多少は力加減をしながらも)押し込まれそうになるリリー。
「よし、魔法放て!!」
そんな中、ゲイルの掛け声と共に、ダルビッポ山に各種魔法が飛び交う。
ーーー
洞窟入り口は混乱の極みにあった。
洞窟奥から押し出される様に進んで来る大きなゴブリン達、それに対し、数で押し切ろうとする入り口近くの小柄なゴブリン達。
如何に大柄なゴブリンであっても、数で来られると殺られる個体が出て来る。
もちろん、それ以上の被害が小柄なゴブリン達に出ていたのだが……
『ギィ?!』
一番外側で様子を見ていた一匹のゴブリンがキョロキョロし出す。
風に乗って漂ってきた匂いに反応する。
鼻を鳴らしながら、匂いの出所を探る……そして
今、正に魔法を放とうとしている冒険者達を見付ける。
『グギィィィー!!』
その小柄なゴブリンが一鳴きすると、それまで争っていたゴブリン達の動きが止まる。
一斉に見た視線の先、冒険者達の一団、そして何より彼らの好む匂い。
『メス……ノ……ニオイ!!』
ゴブリン達が動き出す……が、その眼前に多数の魔法が迫っていた。
ファイアーアロー、ファイアーウォール、ウィンドカッター、アースジャベリン、ウォーターアロー、アイスジャベリン、それぞれが複数飛んで来る。
もちろん、それぞれの魔法が干渉しない様、間隔を開けながら。
空から降り注ぐ火と氷と水、横から切り刻む風、地面から飛び出る土がゴブリン達を襲う。
先頭を切って走ってたゴブリン達が、粉々に吹き飛ぶ。
さらに、後方から走り出そうとしたゴブリンも、空から降り注ぐ魔法で串刺しにされていく。
ある者は燃え、またある者は刺さり。
さらに、横からの風の刃でバラバラに切り刻まれる。
初手は、冒険者側の圧勝だった……しかし、ここで誤算が出る。
当初予定では、魔法によって洞窟奥へとゴブリンを押し込む作戦だったが、餓えた彼らは逆に飛び出して来た……リリーを目指して。
ーーー
ゴブリンの動きを見て舌打ちをする。
予想以上に勢いがある、しくじったな。
そう見たゲイルは
「土魔法で壁を作れ!!出来るだけ広範囲にだ!!」
直ぐ様、魔法使い達に指示を送る。
今回連れて来た魔法使い達は八人、戦力としては多い方だ。
ただ、千を越えるゴブリン達相手となると心許ない。
ーーー
今回の戦いに備え、事前に魔法ギルドへ、高位の魔法使いの協力要請をしたのだが、彼らの答えは『拒否』だった。
曰く『魔法使いとは大事な戦力であり、この程度の危機に出す程ではない』と言う返答だ。
当然ながらゲイルは激怒し、魔法ギルドに殴り込みをかけようとまでした……のだが、そこはギルド職員の必死の抵抗(主に職員達による懇願)によって防ぐ。
職員達にしてみれば、彼ら魔法ギルドと事を構える事のデメリットの方が大きいと判断したのだ。
結局、現在冒険者ギルドに所属している魔法使い達だけで何とかする事となる。
さらに、ゲイルを怒らせたのが『神聖教会』。
彼らに至っては『市民を守る為に戦力を出している為、『冒険者ギルド如き』に回す余裕は無い』とまで言い出す。
神聖教会には、神官戦士団に神殿騎士団までおり、戦力としても十分なハズだった。
結局、回復の担い手が全く居ない状態での進撃は不味いとなり、苦肉の策として『リリー』を連れて行く事となる。
つまり、リリーが駆り出される根本的原因は、教会側が原因だった。
ーーー
怒涛の勢いで迫って来るゴブリンに対し、次々と土の壁が行く手を阻む。
縦横三メートルの壁が、多数作られるが、軽くかわすゴブリン達は、モノともせず突き進んで来る。
「くっ、もっと数を出せないのか?!」
「無理言わないで下さいギルドマスター、これでも限界まで出したんですよ?!」
ゲイルの言葉に、真っ青な顔をしながら答えるのは、金級魔法使いだ。
残念な事に彼は、土魔法が苦手だった。
彼の得意とするのは火と風、とは言うものの、十を越える土壁を出せたのは、流石金級と言うべきか。
そんな騒ぎの中
「ア……アースウォール」
鉄箱から右手だけを出しながら、リリーが魔力を振り絞って唱える。
『ズドンズドンズドン』と、まるで大地を叩く様な音と共に、高さ五メートル、幅三メートルの土壁が冒険者達を囲む様に展開されていく。
ただし横幅が短い為、隙間が多い……が、逆にゴブリン達の進行方向を制限する事が出来た。
「こ……これは?!」
「小娘、お前」
金級魔法使いとゲイルが鉄箱へと視線をやると、隙間からリリーの籠った声が聞こえて来る。
「て……低級の魔法ですが……この程度なら……私でも」
完全に押さえられた蓋から聞こえる声にゲイルは
「よくやった小娘、後は俺達に任せとけ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、周囲の冒険者達に指示を出す。
「よし、いいかお前ら、小娘のお陰で敵の進路は限定的になった。魔法使い共は洞窟入り口に向け、断続的に魔法を放て!!戦士共は、魔法をくぐり抜けて来たヤツを叩く。弓使いとハンター共は、魔法使い共の護衛と戦士達の援護だ!!行くぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」
ここに、ゴブリン軍団と冒険者達の、本格的な戦端が開かれる。
ーーー
暗い鉄箱の中、リリーは膝を抱えてジッとしていた。
耳に聞こえて来るのは、冒険者達の怒号とゴブリンの鳴き声。
そして、何度か接近されたのか、鉄箱が揺れる。
鉄箱は、外側から頑丈な鍵で施錠されている。
本当なら、魔法処理された特殊な錠前を使うのだが、いかに領主であっても、重要な代物を運ぶ為用の鍵まで貸し出す訳にもいかず。
(予備鍵を作られる事を恐れたらしい)
結果的に、鍵だけはギルドで使っている倉庫用のを使用していた。
外から施錠されている為、内部のリリーにはどうする事も出来ず、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
「黒騎士さん……私がいなくてもちゃんとやってるかな?」
ポツリと言葉が出る。
彼女が知る限り、あの『黒騎士』が不覚を取る可能性は無い……が、暴走でもしたら目も当てられない。
一応、ベンノの指示を守る様に言い付けておいたが……それも何処まで守るのやら。
そんな事を考えながら、ついウトウトとし出すリリー。
そのまま時間だけが過ぎて行く……ハズも無く、彼女へと不幸をバラ撒く神は近づいて来る。
それは唐突だった。
『ガン』と短い音と衝撃、そして身体に感じる浮遊感。
鉄箱の中で、フワリと浮いたと思った次の瞬間、リリーの体を叩き付ける程の衝撃が襲う。
「きゃうっ?!」
正面の壁だったハズの場所に鼻先をぶつける。
一呼吸置いて、背中に衝撃が走る。
「な……何?!何なの?!」
暗い鉄箱の中で、上下の分からなくなる程揺すられたリリーは、全身をありとあらゆる場所でぶつける。
身体を丸くしながら衝撃に耐え様とする。
恐る恐る目を開けると、光が差し込んできた。
「……光?!」
まさかの光景、鉄箱の蓋が開いていた。
ーーー
洞窟から新たなゴブリン達が出て来る。
四十匹程のそれらは、他のゴブリン達と違い、全員が武装していた。
体も一回り大きい個体。
洞窟中央に陣取っていた群のリーダーと取り巻き達だ。
リーダーであるゴブリンファイターは、周囲をゆっくりと見回す。
その眼力に小さなゴブリン達は『ギィ?!』と、小さな悲鳴を上げながら逃げ出す。
一番小さな個体の二倍以上あるゴブリンファイターの姿は、彼らにとっても恐怖の対象だ。
そのゴブリンファイターの後ろには、ヒョロリとしたゴブリンが二匹居た。
ゴブリンファイターの弟達のゴブリンメイジだ。
初歩的な魔法しか使えないが、ゴブリン達にとってはリーダーと同じ、恐怖の対象だった。
そんなゴブリンファイターの目線が一点に集中する。
リリーの入っている鉄箱、それを指差し、ゴブリンメイジ達へ『ギギィ!!』と命じる。
ゴブリンメイジの二匹は、互いに顔を見合せると、木の棒を目の前に掲げ、ブツブツと何やら呟く。
一際大きな鳴き声と共に、直径十センチ程度の火球が二つ、頭上に表れる。
それは、狙い違わず真っ直ぐに飛んで行く。
黒い鉄箱に向けて……
それは偶然だった。
放たれた火球が、鉄箱の表面に当たった『だけ』であれば、特殊合銀によって弾かれるハズだった。
だが、運悪く魔法が当たった場所は錠前、それもピンポイントに当たってしまう。
いくら頑丈とは言え倉庫で使用している程度の代物、普通に使われる錠前より大きくちょっとだけ頑丈なそれに直撃してしまう。
そして二発目の火球が鉄箱を吹き飛ばす。
軽く浮き上がった鉄箱は、二転三転し土壁にぶつかり停止する。
その瞬間、『パキン』と音を立てて錠前が吹き飛ぶ。
土壁にぶつかった瞬間、熱っせられた錠前が割れ、弾けたのだった。
そして、ゆっくりと開かれた蓋の先には、唖然としたリリーの顔があった。
そして今、リリーの姿を見つけたゴブリン達が、我先にと殺到し始める。
ーーー
その光景から復帰するのに、たっぷり五秒は使ったかもしれない。
唖然としていたリリーだったが、今の自分がどういう状況か気がつくと、直ぐ様蓋を戻そうと手を出す。
しかし、只でさえ重い鉄箱、その一部の蓋だけであっても、ひ弱なリリー一人で持ち上げられる訳も無く……
「ど……どうすれば……」
片手だけを伸ばしていたが、意を決し鉄箱から両手を伸ばす。
目標は蓋の端。
「両手で持てば……もしかしたら」
しかし、その手は途中で止まってしまう……いや、止められてしまう……上から伸びた『毛むくじゃらの手』によって。
「えっ?!」
リリーの間の抜けて声が漏れる。
『箱の上から……手?何これ?何の手?人?違う?!これは』
明らかに人とは違う毛むくじゃらの手が、右手首を掴んでいる。
次の瞬間、力強く引っ張られ、リリーは箱の外へと弾き出される。
「きゃぁ?!」
小さな叫び声が聞こえる。
それを聞いた何人かの冒険者達が、「お嬢ちゃん?!」っと叫び振り返る。
箱から引きずり出され地面に倒れたリリーの上に、何かがのし掛かる。
「な……何……が?!」
見上げたリリーの前には、獲物を前に舌嘗めずりするゴブリンの顔があった。
「あっ……な……何……で?!」
「お嬢ちゃん、逃げろ!!」
少し離れた所に居る冒険者の声が聞こえた、あの声は確か……銅級の戦士さん?
そんな場違いな事を考えながらも、直ぐ様行動する。
自由な左手をゴブリンの顔の前に出し集中する。
「ファイアーボー」
『ぶちり』
ゴブリンの顔に火球をぶつけようと出した手を『噛り』取られた。
リリーの目の前には、血が吹き出す左手、その向こう側には、リリーの人差し指と中指を口の中で咀嚼するゴブリンの顔。
「えっ……なっ……あっ……」
じわりと左手から痛みが伝わり、折角集中した魔力が霧散する。
「があぁぁぁぁ?!痛っ?!」
流れ落ちる血が周りに飛び散るが、そんな事は関係無い。
ジタバタと大暴れするリリーに、さらに二匹のゴブリンが飛び掛かる。
のし掛かっているゴブリンよりも小柄なそれらが、一匹はリリーの足を抱え、もう一匹は腰の辺りにしがみつく。
足を押さえられたリリーだった、指のケガも忘れたかのように左手を振り回す。
のし掛かっていたゴブリンは、イラついていた。
折角捕まえたメスであったが、無駄な抵抗を続けている……っと。
服を無理矢理破ろうとしていたが破れない、それもまた、ゴブリンのイラつく原因になった。
リリーの服は防御魔法の掛かったローブだ。
とは言え、精々『皮鎧』より弱く、普通の服より強い程度の代物だ。
目の前のゴブリンの力では、早々破れる事は無かった。
中々破れないローブ、無駄に抵抗するリリー、それにイラついたゴブリンは、大きく口を開け、そして……
リリーの首筋に噛り付いた。
迫るゴブリンの口に気がついたリリーは、無理矢理顔を背ける。
それは生き物として、当然の動きだった。
しかし、顔を無理に背けた事により、首筋が僅かに表れる。
本来なら、襟首によって守られているハズの部分、そこにゴブリンの口が近づく。
『がりっ』
左肩と首の間から音が聞こえる。
「っあぁぁぁぁあー!!」
首から、今まで経験した事の無い痛みが来る。
ぶちりぶちりと肉が千切れ、何かが刺さっていく音が聞こえる。
肩の骨が、内部から外へと無理矢理引っ張られる感覚。
リリーは涙を流しながら叫ぶ事しか出来なかった。
「嫌ぁ……だ……誰……か……黒……騎士……さ……」
視界の向こう側で、何人かの冒険者達が走って来るのが見えた……が、それさえも涙で揺らぐ。
「助……け……て……」
首筋の肉が千切られる、もうダメ、そうリリーが思った瞬間、リリーの顔近くを風が通り抜ける。
一つ二つと瞬きした後、目の前のゴブリンの身体が消えている事に気付く。
手と足だけが、リリーの側にあった。
「何……が?!」
遠退きそうな意識を繋ぎ止め、痛む首を動かす。
リリーの傍らには『片ヒザを付き、右手を付き出した姿勢の黒騎士』の姿があった。
そして、来週の月曜日も強制有休。
有休溜め過ぎ}(;・上・) (・ω・`;{えぇっ?
ちょっと理不尽。
ω・`){好んで溜めた訳じゃないのに……