強行進撃した様です
(´・ω・`){次で主人公がヒドイ目に合うと言ったな?あれは嘘だ。
前後左右さらに上下に揺れる箱の中、真っ青な顔をしながら膝をかかえるリリーが、口元を押さえていた。
「うぐ……ぐぐ……うぷっ……」
喉へと上がってくる感覚を必死に我慢する。
彼女は今、黒騎士の背負う『真っ黒い鉄の箱』の中に入っていた。
ただし、蓋は開けてある。
ーーー
この鉄の箱は、討伐隊か出発する前にオルボア領主の方から貸し出された物だ。
鉄の箱を持ってきた領主の部下曰く、
『オルボア領の一大事とは言え、年端もいかない少女を無防備で送り出す訳にはいかない』
との事で、この鉄箱も貸し出したとか……。
正直、現物を見たギルドマスターは、
「こんな塊をどうしろってんだ?!」
っと、大いに困る事になる。
それと言うのもこの鉄箱、領主宛の重要な荷物を搬送する為の『特殊合金』製だった。
多少の衝撃も何のその、下手な魔法でさえも耐えられる代物。
しかし、今回の相手はゴブリン、衝撃も魔法もまったく……ではないが、無縁のモンスター。
「どこで使えってんだよ?ってか、これ、どうやって運べはいいんだ?」
それだけ頑丈なだけあり、重量もそれなりの物だ。
持ち上げる程度は出来ても、『これ』を持って移動する……さらにその場は森の中など、運び人にとってかなりの負担になる。
現に、領主宛の荷物をこの鉄箱に入れて運ぶ際は、大型軍馬の魔皇馬を使っている程だ。
唯でさえ食料や回復薬等の荷物もある中、これ以上の余計な荷物をどうやって運ぶか、それが問題になる……ハズだった。
「いや……まぁ、出来るんじゃねぇかとは思ってたんだが」
呆れ顔をするゲイルの前で、鉄箱を背負った黒騎士が悠々と立っていた。
他の荷物を背負った銅級の面々が、呆然としている。
彼らの背負う荷物も、それなりの重量があったが、空の状態でさえ荷物が満タンの木箱より重い鉄箱を背負う黒騎士は、余りにも異常だった。
「まぁ、問題解決にはなったんだからいいじゃないか?」
呑気な事を言うベンノに何とも言えない顔を向ける冒険者達だったが
「この力なら、木箱の荷物も全部持てるんじゃないか?」
「いやいやベンノさん、流石にそれは言い過ぎで」
……っと、妙なフラグを立ててる冒険者達の前で、木箱三つに鉄箱一つを軽々と担ぐ黒騎士。
もはや誰もツッコまず、ただ乾いた笑いをするだけだった。
ーーー
そして現在、冒険者達一向は、慎重に進むのでは無く、一気に森を突っ切る事となっていた。
原因は少し前、斥候に出ていた金級ハンターな情報だった。
「洞窟入り口にゴブリンが溢れ出している」
知らせを聞いた冒険者達は、一様に動揺していた。
千を越えるゴブリンが溢れ出す、遅かったか……っと、しかし
「ただ、奴らはまだ、此方へ本格的行動には移っていない模様」
続きの報告にゲイルは考える。
本格的な行動、つまりまだ、時間的余裕があると言う事だ。
このまま予定通り進むか、それとも下がって騎士団と合流するか。
進むにしても、間に合う可能性は五分、さらに、下がるにしては進み過ぎている、下手をすると、後方からゴブリンの襲撃を受ける事もある。
そして何より……
「進みましょう……ギルドマスターさん……」
そう発したのは意外な事にリリーだった。
ゲイル自身、進む方を優先したかった……だが、リリーを連れて行くには危険過ぎる。
「へぇ、お前さんでも躊躇う事があるんだな。アレか、実の子を重ねちまったか?」
「少し黙っとけベンノ!!」
ニヤニヤしながら話しかけるベンノを睨み付けながら、リリーの前に出る。
「分かってんのか?進むって事は、今まで以上の危険が付きまとうんだぞ?最悪死ぬ……いや、てめぇも『女』だ、それ以上の目に合うかもしれねぇんだぞ?」
「でも……そうならない様……此処へ来たんですよ……ね……みなさんと一緒に?」
『こてん』と首を傾げるリリーを見て、鼻先を押さえる冒険者達が数名居た……のだが
「ゲイル、お前さんの負けだ、お嬢ちゃんの方が一枚上手だ。それに、ここでウダウダやってる時間も勿体無ぇ」
「ベンノ……てめぇ?!」
「何、簡単じゃねぇか、ゴブリン共を洞窟へ押しやる、お嬢ちゃんも守る、それだけだろ?」
「……」
数秒考え込んだゲイルは顔を上げると、力強い目線で冒険者達を睨み付ける。
「おうおめぇら、悪いがこっから先、死を覚悟しろよ!!な~に、失敗しても金は出る、てめぇらが受取人にしてる連中に大金がな」
そう言うと『ニヤリ』と意地の悪い顔を向ける。
「えぇー、そいつは勘弁願いやすよギルマス」
「そうだぜ、俺は今回の金で当分遊ぶ気満々なんすから」
「お前の場合、借金返済の方が先だろ?」
「んだとてめぇ!!」
その場に居た冒険者達が、口々に軽口を叩く。
ヤル気は十分、ならば後は……
「小娘、てめぇも覚悟を決めろよ!!こっから先、泣いても喚いても無駄だからな!!」
最後にゲイルがそう言い放つ。
その目は他の冒険者達に向ける目と同じ。
「望む所……です。私の魔法……お見せする時が……来ました」
「ふん、上等!!」
杖を持つ手が小刻みに震えているが、ぐっと歯を食い縛り、ゲイルを睨み付ける。
「山の麓、森が切れる直前までは黒いのと一緒に居ろ。その後は鉄箱の中で大人しくしてろ!!」
この場所に放置する手もあるが、万が一、森を彷徨いているゴブリン達に見つかると面倒だ。
なら寧ろ、目の届く範囲に居させるか……その考えから、リリーを連れて行く事にした。
そして彼らは森の中を全速力で突っ切る。
途中で襲いかかって来たゴブリン達は、一刀の元、切り伏せる。
息があるかどうか、死体の処理等一切無視して。
生きていようとも、死んでゾンビになろうとも後の事。
今は、ゴブリン本隊が進んで来る前に、洞窟を封鎖する、その為だけに。
次回、ゴブリン軍団との大死闘予定です。
ω・`)ノシ{今度はホントに主人公がヒドイ目に合う……かも?