這い出て来た様です
今回も主人公無し。
;・ω・){なん……だと?!
ーーー
黒衣の人物が、森の切れ目から前方をジッと見る。
彼はベンノの仲間で、金級のハンターだ。
目線の先にあったのは、数日前に訪れた、ゴブリンの居る洞窟。
ギルドマスターのゲイルから、斥候として先行し様子を見てこいと言われ、一足早くここに来ていた。
オルボアを出て三刻半(約七時間)、当初の予定では、とっくに洞窟前まで来ているハズだった。
だが、森の中のゴブリンが、予想以上に多かった為、現在行軍か遅れていた。
『ふむ、残り半刻(一時間)程と言う所か?』
太陽の位置と現在の場所、さらに別れる前の位置から、冒険者達の到着時刻を彼はそう判断していた。
その判断に間違いは無かった……だが、肝心の洞窟入口に変化が現れていた。
「……まずいな」
その彼の見ている前で今、洞窟から溢れ出ようとしているゴブリンを見る事となる。
洞窟の奥から、茶色い液体がドロリと出て来る様に、ゴブリン達が押し出されていく。
それはゆっくりと、しかし確実に増えて行く。
「……この勢い……あのオークが死んだのか?!」
洞窟の奥から溢れ出て来るゴブリンを見ながら考える。
洞窟入り口に居た弱い個体が、奥からの圧力でどんどん押し出されていく。
しかし、彼らも外に出た所で生きていく自信が無いのだろう。
どうにかして洞窟内に戻ろうと必死になっていた。
彼らゴブリンにとって、洞窟に居座る事は、ある程度の餌の確保が出来るからだ。
洞窟奥から追い出される個体は弱く数も多い、それらが押し出される途中で死ぬ事により、彼ら洞窟内のゴブリン達の腹の足しになっていた。
場合によっては、途中の脇道に弱い個体を連れ込み、仲間と共に殺害もしていた。
ある意味、外まで五体満足で到達出来たモノは、ある程度の強さと運を持っていると言える。
しかし、今は違う。
完全に洞窟から出ようとしている様に見える。
その状況から彼、金級ハンターは考える。
奥から出て来る個体は、洞窟入り口付近のモノと違って強いゴブリンだ。
餌も豊富で、場合によっては装備もしているハズだ。
しかし、手前に居る弱い個体が戻ろうとしている事から、恐らくゴブリン全体でオークが死んだ事を把握していないのだろう。
つまり、もう少しだけ時間を稼げると言う事だ。
そう判断した彼は、直ぐ様踵を返すと、森の中を疾走する。
『急げばまだ、ゴブリン共をどうにか出来る』
一縷の望みを掛けてゲイル達の元へと走る。
ーーー
黒いハンターの予想通り、洞窟の中は、大混乱に陥っていた。
洞窟奥へと死んだオークを食う為に前進しようゴブリンと、さっさと外に出て獲物を探そうとするゴブリンの争いが、此処彼処の通路で起こっていた。
互いに威嚇し合うモノもいれば、殴り合いを始めているモノもいる、さらには細い枝道で殺し合うモノも出ていた。
ある意味、彼らゴブリンの帝国が終了した瞬間だった。
だが、この混乱状態が、冒険者達にとって良い方向へと動いていた。
ーーー
同時刻、ダルビッポ山後方の崖に、巨大な腕が掛かっていた。
崖の縁に掛かった腕に力が入り、その下にあった巨体を持ち上げる。
全体が上がり、その姿が現れる。
それは、肩に縄を持つオークだった。
完全に上がりきったオークは、近くの岩場に縄を掛け、崖下へと投じる。
暫くすると、縄が『ぎしぎし』と音を立てだす。
その間、オークはナイフを片手に周囲を警戒する。
その姿は、隙の無い歴然の戦士だった。
そうして時間が立つと、そこには三十匹のオークが居た。
最初の一匹を除けば、全員が動物の皮で作られたと思われる防具と、二メートル程の槍を装備していた。
その中の一匹、他のモノよりも小柄なオークが、山の下側で何かを見つける。
彼の視線が捉えたのは、冒険者達が目指している場所とは違う、少し小さな洞窟から、這い出して来ようとするゴブリン達だった。
姿を一瞥した小柄なオークは、短く一声鳴くと、槍と盾を持って走り出す。
オークとは思えない程、素早く動く。
ボロボロになりながらも洞窟から這い出してきたゴブリン達は、その姿を見る前に、槍の一凪ぎで死んでいた。
近くの岩場等に隠れていたゴブリン達が、オークの姿を捉え『ぎいぎい』と鳴く。
その様はまるで『獲物が来た』とでも言いたげだった。
涎を足らしながら、此処彼処からゴブリン達が表れる。
武器は一切無く、数と爪だけの特攻だ。
小柄なオークの槍捌きに翻弄されている隙に、彼らゴブリンを包囲する様オークが立っていた。
気がつけばゴブリン達は、周囲から槍で刺されていた。
あっという間の殲滅戦だった。
彼らは南部に住むオークの一団、その中でも腕に覚えのあるモノ達を集めた精鋭だ。
彼らの目的はただ一つ、奪われた王女の救出だった。
勿論それは建前、いくらなんでも時間が経ち過ぎている。
だから、彼らは決死の覚悟でここに来ていた。
運良く生きていれば助け出す、そうでないなら……
小柄なオークは、足元のゴブリンに目をやる。
二十匹程のゴブリンが死体になっている。
だが、一匹だけ息のあるモノが居た。
そのゴブリンは、虫の息でありながらも、目の前のオークから逃げようと、這いずっていた。
その姿を感情の無い目で見ていた小柄なオークは、『ひょい』と槍を持ち上げ、石突きをゴブリンの頭部に当て、一気に落とす。
『ぐしゃり』と鈍い音を響かせ、ゴブリンは絶命した。
だが、彼は自らの足を上げると、死体になったゴブリン達を踏み潰す。
徹底的に、まるでそこに生きていた痕跡さえも許さないとばかりに。
肩で息をする彼に、他のオーク達が一鳴きする。
小柄なオークも一鳴きして答えると、ゴブリン達が出て来た穴へと目を向ける。
そこには、今まさに飛び出そうとしていたゴブリンの姿があった。
オーク達は槍を構えると、それぞれの穴から出て来るゴブリンの元へと向かう。
『皆殺シ』
ここに居るオーク達にあるのは、ゴブリンに対する殺意のみだった。
こうして、冒険者達の知らない所で、オークとゴブリンの戦いが始まっていたのだった。
次回、主人公に不幸が?!
ω・`)ノシ{次は早め予定です