大きな馬車でした
(´・ω・){思ったのですが、ここから先をダイジェストにしたらどうかと
いやぁぁぁ!!三#`Δ´)ー○Σ)○△○){ぐはぁ?!
東から昇る朝日を受けながら、巨大な馬車が西へと疾走していた。
ガラガラガラと重低音を響かせ、力強く走る馬車。
車体は、禍々しい赤黒い塗装がされ、鉄製の巨体な車輪が四つ付いている。
普通の馬車の二倍の横幅を持つそれは、特製の軍専用馬車だった。
本体は、この西の森で稀に見つかる『ククルククルの大木』と呼ばれる木から削り出して作られている。
ククルククルの大木とは、数百年に見つかった古代樹で、一本の大木を切るのに『鉄斧百本以上』は必要とされる程の強度を誇っていた。
さらに、特殊な工具で、長い時間をかけて加工されるククルククルの木材は、とてつもない金額で取引されていた。
ちなみに、一部の冒険者は、このククルククルの木材から作られた防具を使用している。
見た目さえ気にしなければ、かなりの防御力になるのだが……玄人装備としては人気の代物だったりする。
そんな特殊素材の荷台部分を支えているのは、ドワーフの工房で作られた『特殊合銀製車輪』だ。
軸部分から全てが特殊合銀製であり、どんな悪路にも耐える設計になっている。
幌に至っては、南部の火山に住むと言われている『火トカゲの皮』を使っている。
斑模様の幌は、見た目こそ禍々しいが、火トカゲの名の通り、火炎耐性が付いている。
下級どころか中級の火炎魔法さえ弾く素材だ。
それら特殊な材料で作られた荷台を引くのは、普通の馬ではない。
北方の山岳地帯に住む『魔皇馬』と呼ばれる巨大な馬だ。
一応、動物の括りに入っているが、その気性の荒らさは、世話をする人間が命懸けになる程だ。
『肉食じゃない事だけが救い』とは山岳地帯に住む人々の話。
その気性の荒らい魔皇馬が一台当たり四頭。
さらに、そんな馬車の数が八台と、戦争中でしか見られない光景が誕生していた。
今回のゴブリン討伐の為、オルボア領主が手配した特別な足だ。
八台の内、六台に冒険者が乗り、残り二台に食料や武器等荷物が搭載されている。
そんな特殊な馬車は、普通の馬車の二~三倍の速さで、舗装されている訳でもないデコボコ道を軽々と進んで行く。
ーーー
当然、そんな馬車の中はと言うと……
「ぐ……おっ……」
「おい、吐くなよ?!いいか、絶対だぞ?!」
「くそっ、ケツが痛ぇ!!」
「まだ……到着しねえのかよ?!」
「痛っ、舌噛んだ!!」
冒険者逹が振り回されていた。
まるで『中華鍋に入れられた野菜の如く』前後左右に揺られる荷台から振り落とされない様、紐で身体を固定している冒険者逹。
とは言え、固定していても、揺れが収まる訳でも無いのだが……
そんな阿鼻叫喚の中……
「わぁ……クロノ兄、このパン、ハムが挟んであったよ」
胡座をかいた黒騎士の左手に腰掛けたリリーが、満面の笑みでパンを食べていた。
当初、巨体の黒騎士を何処に固定するかで揉めたのだが、馬車の前方側に紐で固定し、その手にリリーを抱える方向に決まった。
黒騎士は兎も角、リリーの方は「危ないんじゃねえか?」と心配していた冒険者逹だったが、いざ出発すると、そんな心配をしてる間すら無くなった。
それどころか……
『こんな中て飯食うだと?!』
くの字に曲げた黒騎士の肘を椅子にして座ったリリーは、まるで揺れ一つ感じないかの様な態度だった。
むしろ、周りの冒険者逹の状況に、首を傾げているのだった。
『何なんだよコイツら?!』
『あの黒いの、揺れを全部吸収……いや、相殺してるのか?』
『嘘だろ?!ありえねぇ』
黒騎士自身は、右手で荷台の縁を掴み、身体が跳ねるのを押さえている。
さらに、車体が上に跳ねれば下に、左右に揺れればその逆側に、左肩の付け根を軸にしてバランスを取る。
端から見れば、黒騎士の左肩を中心に、身体の方が振り回されている様に見える。
そんな事出来る者が、どれ程居るのかと……
そんな冒険者逹の心の声など知らないリリーは、食後のお茶をゆっくりと味わっていた。
ーーー
丁度リリーが、お茶を飲んで一息ついていた頃、宿屋では、朝食の下ごしらえが終わったデボラが、鍋へと具材を入れて煮込んでいた所だった。
煮込み終わる頃には、各冒険者逹か起きて来る時間になり、そのまま朝食を食い、昨日の内に話をしていた避難場所の教会へと移動する事になる。
昼間は教会周辺を警護し、夕方には、男性冒険者と交代して宿屋へと撤収する。
この討伐が終わるまで、住人も含め、決められた行動をする取り決めになっていた。
デボラが鍋をかき混ぜている間に、テーブルの上を拭き、椅子を綺麗に並べて行くケーテ。
最後の一つを掃除し終えた後は、少しの間、休息時間となる。
デボラの方を見て、手伝う事が無いのを確認し、椅子に座る。
テーブルの上に、メダルを置き窓の外を見る。
太陽の方向へとメダルを置き直し、両手組み合わせて目を瞑る。
「偉大なる三女神様」
小さな声で呟くそれは神聖教会の祈りの言葉だった。
最初に女神へ、昨日を過ごせた事への感謝の言葉を 次に今日を過ごせる様続ける。
そんないつもの祈りの言葉が終わると、ひと呼吸置いて、
「三女神様、偉大なる御方、アリストレスティア様」
自らが信じる神の名をあげ、
「願わくば、リリーを……信者ではありませんが……私の知り合いに加護を……無事帰って来れる様……」
指に力が入り、爪が食い込む……が、そんな事はお構い無いにと祈る。
そんなタイミングで酒場に来たのは、神官見習いのジルリオーネだった。
彼女はテーブルの上のメダルを一瞥すると、ケーテの目の前の椅子に座る。
「ちょっと?!」
ケーテは祈りを途中で中断し、ジルリオーネを睨み付ける。
……が、ジルリオーネは、そんな事はお構い無くとばかりに、ポケットから出したメダルを目の前に置くと、両手を合わせて祈りだす。
「我らが主にして偉大なる三女神様」
ジルリオーネか唱えたしたのは、ケーテのと同じ神聖教会の聖句、ただし、微妙に違うのは、彼女が仕える神が違うからだ。
ケーテと同じく、神への感謝の言葉を発した後……
「我らが女神にして至高の御方ルルリアルリアルト様、我が願いをお聞き入れ下さい」
ジルリオーネが祈る神の名は、ケーテとは違う者だった。
ーーー
三女神、その名の示す様に三人の女性が元とされている。
この時代より千年程前、小さな国が乱立し、互いに覇を競う時代。
魔法の概念も無い世界で、初の神聖魔法を習得したのが三人の姉妹だった。
ある日、彼女達は世界初の神託を受けた。
曰く、『弱き人々を救済せよ』だ。
その言葉を聞いた姉妹は、村を飛び出し世界を旅し、怪我や病気で苦しむ人々を救ったとされている。
そして、彼女達亡き後、彼女の意思を継いだ者達が作り上げた組織、それが神聖教会だった。
長い年月が過ぎ三姉妹の意思が薄れて来た頃、神聖教会側は、三人の姉妹を神格化し、三つの宗派に別れてしまう。
大陸西部を中心とした長女派、南部の開拓民が支持する次女派、そして北方王国が、国教として支持する三女派。
ケーテは長女派に、ジルリオーネは三女派に属する宗教になる。
同じ神聖教会でありながら、仕える神が違うという不思議な状況であったが、千年という時間は、本来の意思を曲げ、権力闘争へと代わって行く。
もっとも、ケーテやジルリオーネの様な下っぱには権力は関係無い事なのだが……
ーーー
ジルリオーネの祈りは続く。
「最愛にして御身への新たな信徒であるリリーをお助け下さ」
「ちょっとお待ちなさい!!」
突然、ケーテが大声を上げてジルリオーネの祈りを遮る。
顔を歪めながらケーテを睨むジルリオーネ。
「ちょっとケーテちゃん、祈りを遮るなんて……協定違反よ?」
「協定以前の問題ですわ!!何よ、新たな信徒って?!リリーは私達の『アリストレスティア様』の元で信徒になる予定よ?!それを」
「あらあら、まだ『予定』じゃない。だったら問題無いわ」
「問題ありだと言ってるのですわ」
朝の食堂で二つの宗派が激突する。
何度も見た光景を横目に
「やれやれ……リリーも厄介なのに目をつけられたもんだねぇ~」
ため息を付きながら鍋をかき混ぜるデボラは、ケーテとジルリオーネを見ながら呟く。
「まぁ、心配してもらえるのは良い事だがね」
言い合いがデッドヒートしてきた二人に、いつ拳骨を落とそうかと、デボラはタイミングを図りながら、スープの味を整える。
すみません、ちゃんとやります。