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その頃の……

遅くなり申し訳ありません。

王子の話が短過ぎに感じたので、ご夫人話を追加してました。

ー少し前の王子様はー


オルボアの街を出て五日、途中にある小さな宿場町に一台の馬車が到着していた。

前に二人、後ろに二人の騎士が守る馬車は、ゆっくりと宿場町を進んで行く。


「クルト王子、間もなく宿屋に到着いたします」


揺れる馬車の中で飲み物を出していた老執事は揺れを気にせず、空になったカップを手際良く片付けていく。

そんな老執事の言葉を聞きながら、クルトと呼ばれた少年は、馬車の小窓から沈む夕日を眺めてる。


「今回の社交界はいかがでしたか?」

「楽しかったよ……とても」


夕日を眺めながら、少年の顔が笑う。

今まで見たどの笑顔よりも年相応の笑顔。


幼い頃から王宮内に居た末の王子は、小さなパーティーがある度に出席させられていた。

重要なパーティーは、長男次男が出席し、その他の場合、下の子供達が出る様になっていた。


主催者側は、上の王族が出て来る事を自らの権威付けとし、逆に下の王族が出て来るパーティーでは落胆する。

さらに陰で主催者を貶める発言を繰り返す者もいた。


末の王子であるクルトが訪れると、表向きは歓迎しながら裏では蔑む。

その度に微笑みを顔に張り付けて心を殺す。

何度も何度も行ってきた『王族としての作業』だ。

少しずつ少しずつ、幼い子供の心が壊れていくのを目にした老執事は、せめてもの救いをと社交界デビューに期待した。


結果としては『大成功』と言って良い……だが


『あの娘に出会ってしまったのは間違いかもしれない』


老執事はそう思ってしまう。

なにしろ、クルトの表情を見れば分かる。

その顔に、瞳に写るのは『愛』だ。

老執事には、初めての異性に引かれる王子を微笑ましくもあり、それでいて『王族』の一員としては、決して結ばれる事のない気持ちに引かれている姿が痛々しかった。

だが


「大丈夫だよ、じぃ」

「?!クルト王子?」


考え事をしていた為、反応の遅れた老執事に目を向けながら


「彼女との出会いのお陰で、今後何があっても『王族』として生きて行けるよ……だから、僕は大丈夫」


彼は理解している、王族の末とは言え、もし結婚するとした場合、相手は当然貴族、それも王家にとって有益になりえる家系となる。

リリーが、市民にとって有名なカタリーナ騎士伯婦人の一族であったとしても(実際は他人なのだが)、王は良しとしないだろう。


つまり、どんなに思い合っても結ばれる事は無い。

クルトはそれを理解している。


「僕の未来がどうなったとしても、この記憶が癒してくれるよ。この先何年たとうとも、僕の心は満たされたのだから」

「王子……」


老執事は、王族としての責務を理解した十三歳の少年を 哀しい目で見る。

願わくば、クルト王子の心を理解してくれる女性が現れてくれる事を願いつつ。



ー同時刻、とある婦人はー


つい先程届いた手紙を見ながら溜め息をつく。

表には『カタリーナ』の名があり、裏にはとある『辺境伯』の名と、家紋の入った蝋封が目につく。


「それで何通目ですの?」

「四通目ですわ」


ベッティーナの質問に、何とも言えない顔つきで答えるカタリーナ。

その表情を見たベッティーナは、


「面倒事?」


っと、呟く。

珍しく顔を歪ませるカタリーナを見やると、目線をずらし紅茶を一口飲む。

そんなベッティーナの前に手紙を差し出す。


「私が読んでもよろしいの?」

「えぇ、出来れば感想も聞かせてもらえるとうれしいわ」


怪訝な表情で手紙とカタリーナの顔を行き来すると、作り笑いをしたカタリーナが言う。


『私も関わっている内容なのかしら?』


そう思いながら、手紙を手に取り読む。

最初は季節、次に社交界の出来の良さと続く。

よくある社交辞令有りの手紙に見えた……が、中程から怪しい言葉が……


「あの……カタリーナ様、これは……」

「前の三通と同じ、求婚のお手紙です」


そう、社交界終了と同時にカタリーナの元へと、毎日手紙が届けられていた。

その全てが


「リリーさんを嫁に……と」


ただし、他の三通と違うのは


「まさか、辺境伯自らリリーさんが欲しいなんて言うとは……」


はぁっと溜め息をつき、額を押さえるカタリーナ。

それまで来ていた手紙は、『自分の息子』や『孫』の嫁にと、リリーと近い年頃の男性との誘いだったが、今回は違う。


「えっと……この方のお年は確か……」

「今年で五十になられますわ」

「奥方様がいたハズですよ……ね?」

「昨年亡くなられたそうよ」

「えっと……お子様が何人か……」

「男三人女四人、さらに其々にお孫様がいるそうよ」

「……何の冗談なのかしら?」

「それにこの方、大の東方人嫌いなのよ」

「本当に……何の冗談なのかしら……」


黒髪黒目褐色肌、この世界の東方人の特長だ。

リリーは、肌の色こそ北方系だが、その黒髪黒目は確実に東方系だ。


二人そろって溜め息をつく。

齢五十の……老年に入った貴族が、十三歳になったばかりの『女の子』を妻に欲しいと言うなど……心底、呆れたと言った感じで言葉を吐く二人。


「それで、私は何をすれば良いのかしら?」

「あら、流石ベッティーナ様、話が早いわ」


溜め息混じりのベッティーナに軽い口調のカタリーナが笑いかける。

今回のお茶会は、カタリーナ主催でベッティーナしかいない。

その時点で何か要望があるのだろうと、ベッティーナは推測していた。


「確か……ベッティーナ様の御子息は今、王都でしたわよね?」

「え?えぇ、第一王子付きの護衛騎士をやってますわ」

「それは丁度良かったわ」


ニッコリ笑うカタリーナに、怪訝な表情を向けるベッティーナだったが、息子の話から「はっ」と何かを思い付く。


「もしかして、断る理由に私の息子を?」

「ご明察、リリーさんをベッティーナ様の御子息の婚約者って事にしてはどうかしら?もちろん、本当の婚約って訳ではありませんけど……私の息子では騎士伯だから、今回の様な上の立場の方が相手だと、強引に連れ去られてしまう恐れもあるでしょ?」


カタリーナの説明に「なるほど」と頷く。

カタリーナは騎士伯、辺境伯より一つ下の爵位だ。

だが、ベッティーナは違う。

数年前に、伯爵であった夫を亡くしたが実権は長男に譲り、元伯爵婦人として悠々自適な毎日を過ごしている。

貴族としての肩書きは伯爵であり、今回の辺境伯よりも上になる。


「でも、リリーちゃんが一般人だと伝えた方が早いのでは?」


っと、ベッティーナが聞くと、


「ダメよ、それだと余計にリリーさんの身が危ないわ。貴族でもない普通の人と分かったら、自らの権力を使ってどの様な事をするか……」


カタリーナの言葉に「確かに」と呟く。

手紙を使って、貴族としての礼を尽くしてるのは、リリーが貴族の娘だと思っているからだ。

それが、一般人だと分かったら……


「分かりました、私の名でリリーちゃんを守るとしましょう」


ベッティーナの返答を聞き、ほっと胸を撫で下ろすカタリーナ。


「どうせなら本当の婚約者にしちゃいましょうか」

「あら、抜け駆け?」

「ふふふ、リリーちゃんを守る為ですわ」

「まぁ」


二人で顔を見合わせ、クスクスと笑う。

リリーの知らない所で、話は勝手に大きくなっていったのだった。

ω・`)ノシ{ご夫人話が長くなり過ぎました

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