意地を通しました
「今週二回は投稿すると言ったな?あれはウソだ」
Σ( ̄□ ̄;){うおぉーい?!
天井から落ちてきた水滴が、目の前の湯に波紋を作る。
それをボーっとした表情で見ていたリリー。
ここは、デボラが経営する宿屋『白鳥の安らぎ亭』、その中庭にある風呂場だ。
そしてリリーは……
「なんでまた……私は天井の染みを……数えてるんでしょう?」
少しぬるめに調整された湯船に浸かっている。
調整してくれたのはケーテだ。
「えっと……確か……ケーテさんに引っ張られて……それで……ジルさんが床掃除してて……あれ?」
冒険者ギルドから帰って来た辺りの事は記憶しているのに、その後がどうにも中途半端になっていた。
暫く「う~ん、う~ん」と唸りながら考えるも、アッサリと諦める。
そこにタイミングを合わせたかの様な感じで、風呂場の扉がノックされる。
湯船から出て、床に敷かれた板の上を歩くリリー。
ポタポタと髪の毛から滴り落ちる水滴の跡を付けながら、ゆっくりと扉を開ける。
そこに居たのは、右手に着替え一式を持った黒騎士だった。
まっ裸のリリーの頭にタオルを掛けると、風呂場内にあった籠に着替えを置き、さっさと扉を閉める。
呆気に取られた表情で黒騎士の早業を見た後、ノロノロと下着を着ける。
ーーー
「姉さん、やり過ぎだよ?」
食堂では、剣士のレオナが呆れた顔を向ける。
椅子に座って腕組みしながら『そっぽを向いてる』デボラが、不満気な顔をしていた。
流石に、自分が釣り上げた手の中で、初心者冒険者を気絶させるなど、本来あってはならない事だった。
……だが
「リリーみたいなのが討伐隊にってのがオカシイんだよ!!」
まるで子供の様に言うデボラ。
そこに、しっかり拭き取らずに服を着たリリーが、頭から滴を垂らせながら入って来る。
全員が唖然としてる中、ハッと気がついたケーテが
「ちょっとリリー、ちゃんと拭かないと風邪ひきますわよ?!」
そう言って走って行く。
タオルでも取りに行ったのだろう。
暫くして、バスタオルを手にケーテが帰って来ると、リリーを椅子に座らせて髪の毛を拭く。
部屋の中にゴシゴシと音が響く中、デボラが
「はぁ……それで、何で討伐隊参加なんだい?」
一つ溜め息をつくと、諦めた様な口振りで聞いてくる。
呆然としてたリリーは、視線を床に落とし、ギルドに向かってからの話をし出す。
黒騎士とギルドに向かった事、受付で捕まった事、ギルドマスターの元で強制参加させられた事、酒場で待機してた事、そしてベンノに明日の出発に関して説明を受けた事。
一応、強制参加になった理由は『特殊スキルを持っている』からと説明している。
ギルドで色々やらかしている為、何のスキルかはウワサで聞いているのだろうが、ワザワザ知らせて回る必要は無い。
冒険者各個人のスキルはある意味、秘匿するからこそ強みが出てくる。
上位の冒険者程、スキルのウワサは立ち易いが、低位の冒険者達は、スキルを隠す事により、上位の冒険者達を一瞬でも上回れる可能性を持つ事となる。
だが、どれ程優れたスキルがあったとしても、リリーを参加させる事には繋がらない。
特に『ゴブリン』との戦いにおいては、相当の例外でなければならない。
それと言うのも、過去、冒険者の数が少なく、質も悪かった時代のゴブリン殲滅の際、女性や子供の犯罪者や奴隷を使って誘き寄せると言う作戦を行っていた経緯があった。
彼らを鉄製の檻に入れ、ゴブリンが多く生息する地域に置き、興奮して寄って来た所を一網打尽にするといった作戦だ。
酷い記録によると、犯罪者や奴隷の入った鉄箱諸とも範囲魔法で焼き払ったと言うモノもあった。
そして現在、冒険者の数が揃った事により、この作戦は大陸全土で禁止となっている。
とは言え罰則は無く、各国の良心に任せるという実態だ。
「まさかと思うけど……あのバカギルマス、リリーを囮にする気じゃ……」
デボラの一言で酒場内に重い空気が漂う。
罰則が無いとはいえ、人道的手段では無い、そしてそんな手を使ったとなれば、場合によってはギルマスの地位は失う。
ただ、オルボアのギルドマスターが地位に固執してる訳ではなく、むしろ辞めたがってる現状を知れば、あり得ない事ではない。
「だとしたら止めさせないと」
「私……やめま……せん」
レオナの声にハッキリと否定の言葉をあげるリリー。
気弱なリリーとの認識だったのに、その強い否定に全員の視線が集まる。
「ベンノさんに聞きました……今回のゴブリン討伐……遅くなればなる程……被害が大きくなるって……今、こうしてる間にも……森から出て……西の町や村を……襲ってるかもしれないって……でも、私が森に入れば……森の中を彷徨くゴブリンが……森の外に出ようとしてるゴブリンが……討伐隊の方に来るかもって……だから」
「だから参加するって?それこそダメだ!!リリー、アンタ分かってるのかい?ヤツらの……ゴブリン共はアンタを襲おうとして来るんだよ?食われるだけじゃない!!下手をすれば」
「分かってます……でも……そうしないと……他の誰かが……被害に合うんです」
顔を上げ、デボラへと真っ直ぐ目を向けるリリー。
「アンタが生け贄になる必要は無いんだよ!!」
『どん』と大きな音を立ててテーブルを叩くデボラ。
だが
「く……クロノ兄が守ってくれます……ベンノさんも……他の冒険者さん達も……そう言って……だから……」
「世の中、絶対なんて事は無いんだよ!!分かってるのかい!!」
「分かってます……それでも……守りたいんです……守りたい人が居るんです……」
「リリー……」
それまで、デボラとリリーの言い合いを見守っていた面々だったが、そこまで言い張るリリーを否定する事も出来ずにいた。
「アンタみたいな小娘に何が出来るってんだい!!いい加減にしな、自分の実力も分かってない冒険者はね、あっさり殺られたまうんだよ!!」
「私には……私にしか出来ない事が……あります」
何時ものリリーならアッサリ退いただろうが、今回は違う。
「私には……母親がいませんでした」
「?」
いきなり母親の話をし始めたリリーに気を反らされるデボラ。
「でも……この街に来て……初めて母親が……出来たんです」
そのリリーの言葉に、全員の視線がデボラへと向くが
「あっ……デボラさんじゃない……です」
何故か『微妙にすまなそう』な顔をしているリリー。
そして、少しだけ肩を落とすデボラ。
「たった一日だけ……でしたが……母と呼はせて……いただきました」
「それはベッティーナかい?それとも」
「カタリーナ様……です。私はあの方を……母様を……守りたいのです」
力強い目をデボラに向ける……とは言っても、リリー程度の目力では、相手にされる程でも威圧するでも無いモノ。
だが……
「はぁ……まったく、このバカ娘は」
呆れ半分、嬉しさ半分と微妙な顔を向け、微笑むデボラだった。
「そこまで覚悟を決めたんだったらアタシには何も言う事は無いよ。でもね、ただ一つだけ約束しな!!」
「……何でしょう?」
デボラからの強い視線を受け、冷や汗を流しながら足に力を入れる。
そうしないと、その場に崩れ落ちそうになるから。
「絶対に生きて帰りな、いいね?」
その言葉に「はい」と答える。
絶対に生きて帰る、その当たり前の事を心に刻む。
(*´・ω・){だが待ってほしい、私にも色々あったんだ……
「たとえば?」
;´・ω・`){か……家族サービス?
……何かすみません。
次こそ早めに投稿します。